095 真っすぐいってぶっとばす

 バトル・ロワイヤル五日目。

 セシルがヴァイスにやられ、シンティアとカルタが相打ちっつーのは驚いたが、それからは静かなもんだ。


 禁止エリアも徐々に狭くなっているが、戦闘が起こらない理由は一つ。


 ヴァイス、そしてアレンの存在だ。


 あいつらは強い。そんなの、このノブレス学園にいる奴らなら誰でも知っている。

 俺の筋肉でも勝つのは難しい。


 だから乱戦を狙ってるはずだ。


 後二日待って、範囲が著しく狭まった時、その為に魔力を温存してるっつーことだろう。


 でもそれって――。


「フェアじゃねえよなあ? どう思う? デカいイノシシちゃん」

「グルルゥ!!」


 目の前にいる獰猛なイノシシに声をかける。

 ヴァイス曰く、タンパクシツ豊富な肉だ。

 ヒラリと攻撃をかわし、拳で一撃を与える――。


「プギュアアッ!?」


 あ、穴があいちまった。


「ま、血抜きの手間が省けたか?」



 解体し、内臓を取って小川でキレイに洗う。

 狩りは好きだ。まあでも、今は余計なことを考えずに済むってわけにはいかないが。


「ったく、広すぎるんだよなあ無人島ここは」


 準備を終えると、肉を火にかける。

 俺の魔力感知は、正直、このノブレスの中で最低クラスだ。

 

 ちまちまするのは好きじゃねーっつーのもあるが、必死に探しまわるのは性に合わねえ。


 けど最後に乱戦で一位を決めるってのも、あんま楽しくねえよなあ。


 そのとき――、俺の拙い感知でも分かるくらい巨大な魔力がぶつかり合うのがわかった。


「いいねえ、試合の鐘は突然ってか」


 急いで肉を平らげ、その場を後にする――っと。


 手のひらを合わせて、頭を下げる。


「ありがとな、美味かったぜ」




 森を抜けると、そこは崖だった。

 そういいえば登ったような記憶もあるような、ないような。


 下に眼を凝らすと、そこには使役・・されたであろう魔物が数体、後は速すぎてよくみえないが、高速移動しながら金髪のポニーテールが戦っている。


 遠回りして安全に降りることもできるが、戦いが終わる可能性もあるだろう。


 いや、そもそも戦ってるところに参入すんのって、フェアじゃねか?


「――ま、深く考えなくていいか」


 ニヤリと笑って、俺は崖から飛び降りた。

 風が気持ちいい。飛行魔法なんて使えないが、まあなんとかなるだろう。


「カルタはいつもこんな景色を見てんのかな」


 そんなことを考えながら、もうすぐ地面だ。


 さて、どうすっかな――。


 全身に魔力を漲らせて、俺は拳を構えた。


 渾身の一撃、衝撃魔法を放って、衝撃を和らげる。

 ま、ちょっとくらいは飛行魔法の真似事ぐらいしとかねえと、流石に足が持たねえだろうな。


 ――いっちょやるかァ!



 ――ドゴォオオオオオオン。


「……え? え? な、なに!? 地面がえぐ……え!?」


 なんとか着地。足がすげえ痛いが問題なし。けど、二度とやるもんじゃねえな。

 ちょっとでもタイミングがずれてたら大けがしてた。


 そしてそれを見て慌てふためいていたのは、オリンだ。


「よお、楽しそうだから混ぜてくれよ」

「デュ、デュークくん!?」


 怯えた声で俺の名を呼ぶが、すぐにオリンを守るように魔狼が四体・・も前に出る。

 はっ、こいつマジで天才だな。


 しかもデケぇ……こいつら。


「で、でも――手加減しないから」


 一転して真面目な顔で、俺を見つめる。

 ああそうだ。ここにいる連中ってのは、頗る楽しい奴らばかりだ。


 だがその時、後ろから空気を切り裂く乾いた音が聞こえた。

 ああ、なるほど。


 俺は後ろを振り向かずに回避する。

 それは、地面に刺さる。


 小さい。だが魔力が付与されている――暗器ナイフだ。


「――リリスか」


 ヴァイスの元メイド、っても、その認識は間違いか。

 あいつも立派なノブレス下級生、隠密行動ならいつも上位だ。


 俺とは真逆で相性が悪い。


 まあでもそれって、相手もそう思ってるかもしれないよな?


「はっ、いいぜいいぜ。邪魔するぜ!」


 俺の古代魔法具アーティファクトは最高で最強だ。

 魔力を漲らせると、呼応して形を整わせる。

 

 力が何倍にも膨れ上がる。今の俺の気持ちに合わせて、攻撃を手助け・・・してくれる。


 なあ、わかるだろ? この、邪魔だよなァ!!!


 思い切り右拳を振りかぶる。

 何もない場所で。


 だがわかってる。こいつこの武器は理解してくれている。


 俺の右拳が光り輝き、それは衝撃破となって、魔法となって、風が発動する。

 俺は魔法が得じゃない。だがそんなの知ったこっちゃない。


 喧嘩ってのは、拳と気合、ほんで内に秘めた魔力があれば問題ねえ!


 次の瞬間、拳から飛び出た風の衝撃魔法が、木々をなぎ倒す。


「ちょ、ちょっと!?」


 驚いたオリンが悲鳴を上げる。


 風が巻き起こり、鳥が逃げていく。

 すると木々の間からリリスが現れた。

 

 両手の指の間には、小さなナイフを構えている。


 そして後ろから声がした。魔狼の叫び声だ。


 あ、これ、挟まれてる?


「ま、でも、モテるのはいいことだよな」


 リリスのナイフが、俺目掛けて高速で出射された。

 魔力が通っている刃物、普通よりも危険だ。


「いいねえいいねえ!」


 だが視えている。拳でナイフを吹き飛ばすと、リリスは驚いていた。

 遠距離ちまちまじゃ、俺には勝てないぜ。


 続いて振り返ると、後ろの魔狼に狙いを定めた。


 四体――それぞれが飛び掛かってくる。

 咄嗟に首だけは守るも、手足に一斉に噛みついてきやがった。はっ、オリンの奴は手加減をしらねえ。


 だがあえてだ。

 

 いちいち回避するより、一回動きを止めたほうが楽だからな。


「ガルァァツ!」

「どうだ? 美味い・・・かワンコ?」


 だが魔物の牙は流石に痛ぇ。防御耐性を高めて貫通させないのが理想だったが、さすがにそんなに甘くない。

 牙が肉にめりこみ、血がどくどくと溢れ出る。


 けどま、動きは止まったよなァ?


「おらよっ!」


 右腕を噛みつかれたまま振り回し、左腕に噛みついている魔狼を一撃で倒す。

 その瞬間、後ろからナイフの音が聞こえた。


 振り返らず右腕を後ろに回し、魔狼のを使って防ぐ。

 悪いな、俺は動物にも遠慮しないんだ。


 次の魔狼は吹き飛ばした後、蹴りで一撃。

 最後の魔狼は掴んで――オリンに投げつける。


「ええ!?」

 

 そのまま身体強化パワーアップを詠唱し、距離を詰める。


 右左、どっちに逃げても一撃で倒してやる。

 リリスは後だ。だが絶対逃がさねえ。


 けどオリンは残してたらしい。


 ――奥の手を。


 俺の顎が大きく揺れる。


 衝撃があまりにも強すぎて、身体の軸がズレると同時に倒れこみそうになる。


 視界にちらりと映ったのは、小さなリスだ。


 あ……忘れてたな。


 視界が歪む。顎を殴られると脳が揺さぶれることは経験から知っている。


 オリンは、俺が投げつけた魔狼を避けると、剣を取り出した。

 武器を持ってるのは久しぶりに見るが、このチャンスを逃さないつもりか。


 真正面から走ってきて、剣を突き出す。


 視界がブレブレで、オリンが何人にも見える。


 けどま――関係ねェ!


「……適当に撃てば、どれか当たるだろ」


 俺は何連打かわからないほど右拳で衝撃破を放った。

 そのどれかが見事ヒットし、オリンが吹き飛ばされる。

 

 同時に、俺は左足を地面に叩きつけ、何とか踏みとどまる。


 ボヤけた視界を頭を振って気合で戻す。

 ま、知らんけど。


 オリンは地面に倒れこむ。

 仕留めにいってもいいが、どこかにリリスがいる。


 無防備なところで不意打ちをくらうのは、流石に楽しくねえ。


 あいつのナイフにはシャリーと同じように属性が乗っている分、ダメージが高い。


 木を吹き飛ばしたが、それでも周囲に姿が見えないってことは――ま、一つしかねえよな。


 上を見上げると、そこにはリリスがいた。


 俺を狙っているわけじゃない。


 倒れたオリンを殺る気だ。


 ラストアタックを取ればポイントをもらえる。


 けど――やらせえねぜ。


「俺の獲物だ!」


 ふたたび地を駆けると、俺は叫んだ。


 だが狙いはオリンじゃねえ、リリスだ。


 リリスは逆手でナイフを持ち、オリンに一撃を与えようとしていた。


 だが――。


「悪いな、俺のポイントだ」


 リリスの刃が、オリンの首に触れる手前、俺は左腕を突き出して身体強化で守る。

 そして遠慮なくリリスに一撃を与えた。

 手ごたえありだ。


「――きゃぁっぁっ」


 肉の感触と骨がきしむ音をぎびかせながら、リリスが大きく吹き飛んでいく。


 悪いが俺の攻撃は訓練服で防げるほど甘くない。それに戦いは男女平等だ。悪いけどな。


 んでもって、倒れているオリンには、止めの一撃だ。


「じゃあな、オリン」


 けどまこれは、――嘘だ。


「なんてな――、気づいてたぜ」

「キュウッ!?」


 後ろから無音で近づいてきたリスを掴んで、遠くへぶん投げる。

 流石に二回も食らわねえよ。


「はっ、残念だったな」

「えへへ、こっち・・・は、ダメだったか」


 そのとき、空から音が聞こえた。


 上を見上げると、バカでかい鳥が降りてくる。


 あらかじめ使役していたのか、それともどこかのタイミングで使役したのかはわからない。


 たしか、先端の嘴がまるで刃物だと言われてる魔物やつだ。


 次の瞬間、魔物が俺の身体にぶち当たる。


 だが――。


「さすがにかなり痛てぇな……」


 俺は、両腕に魔力を漲らせて身体強化パワーアップを何倍も付与し、攻撃を防いだ。

 足元の地面が体重によって抉れる。

 ダメージは相当負ったが、それでも問題ない。


 頑張って逃げてもよかったが、オリンの必殺技みたいなもんだ。

 受けるのが筋だろ。


「悪くなかったぜ」

「はあ……デュークくん、強すぎるよ」

「またな」


『オリン・パステル、行動不能。デューク・ビリリアンにポイントを付与』


 最後にリリスだ。

 

 だが地面に倒れていたはずの彼女の姿が見えない。

 

 俺の渾身の一撃食らっても立ち上がったのか。


 はっ、マジでありえねえ。


 さあて、どこに行ったか――。


「デュークさん」


 と思ったが、リリスはフラフラになりながらも、短刀を構えていた。


「どうした、なんで真正面から?」

「もう私には、遠くへ逃げるほどの力はありません。それに、こっちのほうが恰好いい・・・・でしょう?」


 いいねいいね、さすがヴァイスの元メイドだ。


 俺は駆けた。リリスも同じように。


 カウンターで俺を突き刺すつもりか?


 確かに遠くから狙うよりは成功率が高い。


「はっ、いいぜ。どっちが先に当たるかな!」


 だが突然、足元が泥のようになる。

 これは、シャリーの魔法罠!? いや、違う。

 

 リリスが――仕掛けたのか。


「私は、卑怯・・なんですよ」


 俺の体勢が崩れたところにナイフを投げて来ると思ったが、撃墜されると思ったんだろう。

 直接りにくるみたいだ。


 確かにこれだと回避するのは大変だ。


 けど、なあ。


 泥っても、地面・・は、動かねえ!


「――なっ」


 思い切り足を動かし、泥をリリスに向かって蹴りつける。

 卑怯か? ま、たまにはそれもいいんじゃねえのか。


 けどリリスは目を逸らさなかった。

 泥が目に付着しても隙間から俺を見ている。


 普通反射的に逸らすもんだが――すげえな。


「けど近距離じゃ俺は負けないぜ」

「――残念です……」


 ナイフを寸前で回避すると、最後はちっとばかし手加減して腹に一撃。

 ま、俺にも一応騎士道ってのがあるからな。


 余裕があるときは。


『リリス・スカーレット、行動不能。デューク・ビリリアンにポイントを付与』


 残る強い奴らは、ヴァイス、アレン、シャリーか。



 ――俺が、全員ぶっ倒して優勝してやる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る