072 デビの魅力

 冒険者ってのは実にいいシステムだ。


 巧妙かつ、非常に悪どいギルド運営から成り立っている。


 依頼者は一定の手数料を支払って広告、いわゆる依頼を載せてもらう。


 内容は、薬草採集、護衛任務、魔物退治と多岐にわたる。


 依頼者にとって何が一番いいのかというと、ギルドに支払う手数料は当然だが、冒険者には成功報酬・・・・しか払う必要がないことだ。


 失敗すれば冒険者は無一文、時間と手間をかけても一銭ももらえない。


 これは、ギルド運営からしてもメリットしかない。あいつらは手数料で食べている。冒険者が任務に失敗しようが、死のうが、なんの責任も負わない。

 笑顔で行ってらっしゃいというだけだ。


 一定期間までに依頼を受けた冒険者からの連絡がなければ、次の冒険者を探す。


 成功すれば成功報酬から手数料をもらう。それが、永遠に繰り返される。

 危険なのは冒険者だけだ。

 

 これがまかり通ってるのには正直反吐が出る。

 それでも冒険者ってのは希望者が後は絶たない。その理由は、この世界が貴族社会でクソみたいな貧富の差があるからだろう。


 だが俺はそれでもいいとは思っている。


 治安は保たれるし、俺みたいなの人間や能力の高い連中は下から搾取ができるからだ。


 ただ腹が立つのは、創作物のギルド運営ってのがいつも善意・・から成り立っているように描写されること。


 少し考えればわかるはずだ。


 完全成功報酬、命を失う危険性もあります。時間も、消耗品も、全てそちらで用意してください、なんて、どれだけバカみたいなことを言っているのか。


 ランク等級が上がれば、更新料だの難癖をつけて無駄な手数料を支払うことになる。だがそれでも強ければまだいい。

 ミルク先生やエヴァのようにSランクに到達できれば、たった一回の任務をこなしただけでも報酬は莫大だ。


 まあそれでも、ギルド側がどれだけの手数料をもらってるのか、わかんねえがな。




「デビ、一人でやれるな?」

「デビビ!?」


 そんな奴らの下で駒になっている気分はクソだが、俺は冒険者の依頼を受けていた。

 なぜならSランクになれば、この世界での地位は非常に確かなものとなる。

 さらに俺は貴族だ。そうなった場合の影響力は計り知れないだろう。


 せっかく外に出てきたのだ。デビの訓練がてらちょうどいい。


 B級依頼、魔の洞窟と呼ばれる場所に来ていた。

 四人一組でないと危険だと散々言われたが、俺は単身できている。


 シンティアとリリスも着いてきたいといったが、それじゃあ余裕すぎる。


 多少ヒリつかないと、何の意味もないからな。


 洞窟の内部についてもあえて聞かなかった。というか、聞く必要がない。

 いい事か悪い事か、俺の頭の中には大体の狩場のことが入っている。


 細部まで全部覚えちゃいないが、この洞窟がゴーレムが多いことは知っている。


「ゴガアガガァァァ!」


 ゴツゴツした岩肌は伊達じゃない。こいつらはトロイが、非常に耐性に優れている。

 魔法が効かないなんてことはザラだし、かといって近距離戦で戦おうとすれば悲惨なことになる。


 手足でも捕まってしまえば、強力な腕力で四肢を引きちぎられるのだ。


 その上、一体一体に時間がかかるので、トロくても仲間を呼ばれると面倒なことになる。


 四方からクソ固い魔物がゆっくり押し寄せてくるのは、精神的な負担もあるだろう。


 だが俺にとっちゃ何の問題もない。


 一体目、俺は魔法剣デュアルソードで駆逐した。


 続く二体、三体、俺はデビに自動行動オートモードの魔法を付与している。

 

 これは、オリンから教わったものだ。


『でも、習得するにはヴァイス君でも半年は――』

『デビ、勝手に動け』

『デビ!』

『……嘘……できてる……』


 ただデメリットはある。

 自動行動オートモード中、魔力の消費は増えるし、俺の意思で攻撃をしてくれるわけじゃないので、連携がよりシビアになるのだ。


 だがノブレスは学習プログラムに優れている。

 デビは魔物だが、使役した瞬間、俺たちと同様にたしかな意思を持ち始めているはずだ。


 戦えば戦うほど強くなるだろうし、俺もデビも、お互いのやることがわかってくる。


 といっても、まずは単身で強くなってもらわなきゃ意味がねえ。


 こいつが雑魚なら、二度と召喚出すつもりはない。


「デビビー!」


 するとデビは、両手をかざして闇魔力砲を放つ。

 ゴーレムは魔法耐性が強い、このあたりも学習してもらうしか――。


「――ガゥゥァアァァァァァウ……」


 と、思っていたら、ゴーレムは跡形もなく消えた・・・

 

 ……なんだと?


「デビッ!」


 すると俺に向かってサムズアップ。

 その憎たらしい笑顔は、誰に似たんだ?

 

 しかし残りゴーレムは二体、魔物には憤怒スキルがある。

 全魔物にあるわけじゃないが、一定の個体種には、仲間が死亡した場合、ステータスが上昇するバフが適用される。


 そして残りのゴーレムは、憤怒状態になったらしく、ぶんっと巨大な腕を力任せに降ってくる。かなりの速度だ。


 これにはデビも――。


「デビビー♪」

「ガウガゥガゥ!」


 だがこいつは、鼻歌交じりで攻撃を回避する。

 魔物には意思がある。煽られているとわかったのだろう。


 ゴーレムは怒り任せに力強く手を振るが、デビはあえてそうしていたのか、右腕をニョキッと剣に変化させる。

 デフォルメになっていることもあって短剣っぽく見えるが、剣先には闇魔法が付与されていた。


 ……なんか俺のと似てるな。


 そして回避ざまにゴーレムの手足を落とす。それもすさまじい速度で。


 三体目のゴーレムも同じように倒した後、デビは汗もかいていないのに額をぬぐう動作をした。


 それから嬉しそうに俺の胸に突撃してきて、甘えた様子で上目遣い。


「デビデビビっ」

「……まあまあだな」

「デビィ!」


 魔物は従者の性格に影響を受けたり、好かれたいと思う行動をするとオリンがから聞いた。

 俺に似て……いや、それはないな。


 そして俺はデビをかわいいだなんて思って――。


「デビッ」


 デビは、俺の肩にちょこんと座る。

 だが重さを感じさせないように気を遣っているのか、小刻みに羽を小さくバタバタさせている。


 こいつ……もしかして……。


「……お前、かわい――」

 

 いや、待て。俺がそんなことを口にしたらダメだ。


 ……こいつめ、俺のキャラをブレさせやがる。



 それから奥を進んでいると、先ほどよりもどデカいゴーレムが現れた。


 デビの戦闘能力は大体わかったが、次は連携だ。


 おそらくここのボスだろう。

 依頼の討伐内容もこいつだった。


 魔物たちは、同種で食いつぶしているのか、強い個体が生まれる。

 あまりに放置しすぎると人間を襲う為に縄張りから外に出るのだ。


 理由はわからない。俺に知ったこっちゃないが、駆逐すればいい。


「デビ、俺が動きやすいように動け」

「デビッ!」


 わかってるのかわかってないのか、デビは上空にパタパタと上がっていく。

 魔力消費は結構なものだ。


 だからこそ――その分の働きを見せてみろ。


「ガゥウウ!」

 

 ゴーレムの攻撃パターンは少ない。基本的には腕力任せの攻撃ばかりだ。

 だがボス級になってくると違う。


 こいつは更に防御バフを唱えた。

 

 生半可な攻撃は跳ね返されるってことだ。


「ならばこれはどうだ?」


 試しに剣で切り裂いてみたが、表面の岩が少し削れただけだった。

 もう少し魔力を練らないと核までは届かない。


「ガウガゥガ!」

「――おもしろい」


 ノブレス学園にいるだけじゃ味わえない高揚感、だがそれだけじゃない。


 未知なるものへの観察力や対応、危機管理能力が試される。

 

 ……クソ、冒険者になりたいやつが後を絶たない理由は、これもあるかもしれないな。


「デビビッ!」


 俺がゴーレムの攻撃を回避しようとしたそのとき、デビが黒い壁を空中に出現させた。

 その魔力は不自然な壁アンナチュラルとよく似ている。


 そしてゴーレムの腕がその壁にぶち当たると、闇が纏わりついたかのように動きを止めた。

 まるで粘着性の闇だ。


 モチみたいにひっついてやがる。

 

 ギチギチと音を鳴らしぶち破ろうとしているが――。


「使えるな?」


 数秒もありゃ十分だ。


 魔力を漲らせて、ゴーレムを叩き切るに十分な力を練る。


 そして――俺は冒険者殺しと呼ばれるネームドゴーレムを真っ二つに叩き割った。


 ゴーレムはそのまま倒れこみピクリともせず絶命する。


 割れた腹から魔力の核、玉のようなものがゴロンと落ちた。

 これは強い魔物だけに存在する心臓のようなものだ。


 別名、魔核と呼ばれて、武器や防具に混ぜると耐久力があがって、運が良ければ魔物の特性が付与される。

 ノブレス・オブリージュでは武器強化の楽しみがあるので、こういうお宝がドロップするのも、魔物討伐の魅力だ。


 するとデビは急いで魔核を拾いにいく。その後、まるでワンコロのように俺の元へ飛んでくる。

 羽をパタパタ、尻尾をパタパタ。


「……しまっとけ」


 聞き分けがいいのか、デビは了解っ! と、いう感じで、闇の収納を出し、そこにしまった。


 それから俺の胸元に頭をごしごしこすりつける。


 …………。


 俺は周囲を見渡す。


 誰もいない、誰も見ていない。


「ま、よくやったよ」


 そして俺は、デビの頭を少しだけ撫でる。しちめんどくさいが、オリン曰く、魔物をかわいがると熟練度が上がるそうだ。


 ……ったく、使役ってのは面倒だな。

 

「デビッ、デビッ」

「……帰るぞ。魔力消費がだるいから寝とけ」


 そしてデビは悲し気な顔をした後、転移闇を出し消えていく。


 ……こういう健気なところは、少し可愛げがあるな。

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