179 ヴァイスとベルク①

 ベルクの家に居候すること数日、師匠ってわけじゃないが、カルタのおかげあって全員の力が向上している。

 また、この言葉はあまり言いたくないが、案外居心地がいい。


 悔しいが、あいつの後輩力のおかげだろう。

 カルタは近くのメリルの家でゆっくりしているらしいが、いつも幸せそうにしている。


 いいご馳走もたっぷり出ているらしい。


 だが今日はゆっくり眠ることができない。

 

 面倒だが必要事項だ。

 そもそもこれも元はアレンがやることだが。


 ったく、こんな時に修行なんていきやがって。


 一体誰とだ?


 部屋を抜け出し、ちらりと中庭を見ると、いつものように必死なヤツがいた。


「……相変わらずだな」


「――ハァッ! はあっ!」


 広大な中庭、ベルクは上半身裸になりながら、ただひらすらに剣を振っていた。

 笑えるほどに地味な型の練習だ。


 正直、ノブレスの学生どもは誰もやっていないであろうほどの。


 だがこいつは、その地道な研鑽をただひたすらに毎日、毎晩、汗だくでやり続けている。。


 初めてこいつと戦った時は、ただ血筋がいいだけの剣に見えた。

 しっかりとした型に、時々バカみたいなよくわからない攻撃。


 だがそれは、こいつなりにあえてやっている。


 本気の勝負のとき、こいつの剣は誰より綺麗だ。

 もし我流の場合、どしても隙ができる。

 どれだけしっかりと鍛錬しても、王家直属や騎士のような洗練された動きとは程遠い。


 ベルクはそれをわかっている。

 だがもっとわかっているのは、綺麗なだけじゃ更に上にいけないということだ。


 ミルク先生も、ゼビスも、エヴァも、独自に練り上げた技を持っている。


 ベルクは、ただひらすらに自ら練り上げようとしていた。

 こいつはそれをわかっているし、失敗は成功の一部だということも理解している。


 ノブレスの連中のほとんどが、ベルクは天才に見えるだろう。

 生まれ持った血筋に甘えているガキ。


 けど、こいつはそんな浅くない。


 ただ生きているだけで人並み以上に幸せになれるってのに、本気で強くなろうとしてやがる。


 ベルクは大会で俺とアレンの攻防を見てノブレスに入学を決めた。


 少なくとも、俺は奴の人生に少しだけ責任を持たなきゃいけない。

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