178 才能ある後輩③

 空高く飛んだ後、カルタが細かく教えてくれる。


「そうそう、今ここで魔法を放出してるのわかる?」

「ああ、なんとなくわかる」


「ベルク、もっと出力して! 落ちる」

「難しいってマジで!」


 向こうも大変だが、俺も大変だった。


 なぜなら――。


「それで、今ここで――」


 カルタのたゆんが、俺の背中にたゆんたゆんしているのだ。

 まさかの出来事。


 今この姿をシンティアに見られたら、俺は来年まで冷凍保存されるだろう。


「――ヴァイスくん、聞いてる?」

「ああ、悪いな。聞いてなかった」

「ええ!? な、なんで!?」

「何でもだ」


 何とか理性を取り戻して飛行を教わる。

 しかしこの訓練は良かった。


 実際にカルタが視ている風景、タイミングがよくわかるからだ。


 魔族と戦うときに一番必要な技術といってもいいだろう。

 以前はシンティアとシャリーのおかげで問題なかったが、1人で戦うとき、極端な不利を強いられる。


「カルタ、ありがとな」

「え? どういうこと?」

「大変だろう。習得できない奴に同じことを伝えるのは」


 しかしカルタは、「ううん」と返した。


「感謝したいのは私だよ。今ノブレスにいるのは、ヴァイスくん、あなたのおかげだから」

「はっ、そんなことない。お前の実力だ」

「そんなことあるよ」


 半分正解で、半分は違う。

 俺はきっかけに過ぎない。自身の実力を伸ばしたのはカルタだ。


 だがそう言われて悪い気はしないな。


「うわああああああああ、メリル、制御があああああああああ」

「ちょ、ちょっと魔法の放出やりすぎよおおおおおおお」


 そのとき、ベルクたちが真っ逆さまに落ちていく。

 俺は咄嗟に箒に推力を付与、そのまま追いかける。


 間一髪のところで杖を掴む。


「ったく、気を付けろよ」

「す、すいませんっす」


「ヴァイスくん、今の完璧だった! 凄い……」

「あ、ああ。――なるほどな」


 無我夢中だったからだろう。

 とはいえ、確かに早かった。


 ――ああ、空を飛ぶのはやはり面白いな。


 そのとき「だろ?」と声が聞こえた気がした。


 ま、気のせいだろうが。


 とはいえ俺が王都に来たのは、ベルクとメリルを鍛える為だけじゃない。


 メインストーリーにおいて大事なきっかけがあるからだ。


 今の俺にとっては造作もないだろうが、気を引き締めよう。


 なぜなら、久しぶりに人を殺さなきゃならないからな。

 

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