293 愉悦

「どういう……意味ですか」

「そのままだ。お前たちは正直すぎる。私が善だと思って疑っていなかっただろう。先生だから、殺されることはないと」

「そんなの当たり前じゃないですか」

「そうか。ならこれは、当たり前か?」


 次の瞬間、ミルク先生は何もないところから剣を取り出し、斬りつけてきた。

 避けなければまっぷたつ……いや、避けれると思ってた……よね?


「なんでそんなことをするんですか!」

「ハッ、笑えるな。私は教師で、自分が生徒。だから何もされないと?」

「そうですよ」

「ならそこの筋肉とおてんば娘に尋ねよう。信用した人は、裏切らないと思うか?」


 僕はふたりに視線を向ける。言葉に詰まって、そして、シャリーが口を開いた。


「……それとこれとは、話が別だと思うんですけど」

「お前たち貴族ならわかるだろう。信用や信頼、それがどれほど薄っぺらいものか。だがお前たちはそれに甘えすぎてる。――ヴァイスは私を知ってる。もしこの屋上に来たら何かされるだろうと身構えていただろうな。――お前らと違ってな」


 それに対し、僕は声を荒げようとした。

 だが先に言葉を返した、まさかのデュークだった。


「何が言いたいんですか? あいつと俺たちは違う。それは悪い事じゃないと思いますけど」

「ああ違う。だがその結果、ヴァイスに全敗してるだろう? しかし私の見たところ、それは実力の差じゃない。お前たちに足りないのは――心構えだよ」

「……私たちはいつも勝つ為に動いてます。今回も。だから――」

「違う。お前たちは本質をわかってない。戦いとはそういうものじゃない」

「じゃあ、どういうものなんですか?」

「――愉悦だよ」

「「「……え?」」」


 思わず困惑するも、ミルク先生は続ける。


「趣味でも何でもそうだ。お前たちは真面目すぎる。ヴァイスが強いのは知っているからだ。戦いが、この世界が、魔法が、心のどこかで楽しいと感じている。その心の余裕が、勝利につながる。エヴァもそうだ」


 先生の言う通り、ヴァイスは楽しんでいる気がする。

 エヴァさんも常にそうだ。


 でも、本当にそれが勝つために必要? ……わからない。


「自問自答しても答えは出ない。こればかりは私も教えられるものじゃない。だが、真面目過ぎるお前たちをほんの少し変える方法はある」

「教えてください!!」

「早いわね、デューク……。 でも、私も知りたいです」

「……僕も」


 するとミルク先生はにやりと笑った。


 するといつのまにか、手に持っていたのは――水風船!?


「標的はお前たちの憎きヴァイス・ファンセント。やることは単純だ。あいつに――この風船をぶち当てろ」

「「「……え?」」」


 ―――――――――――――――

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