252 見知らぬ強敵
ウィザード国から少し離れた西の森。
獰猛な魔物が多く生息している最奥。
ここに、魔力増強の湯が存在している。
――はずだった。
「ヴァイス様、本当にあるんですかねえ?」
「このあたりのはずだ。明日、明るくなってから探してみよう」
「でもこうやって野営するのも楽しいですわ」
探しても見つからなかったのだ。
だがリリスは問題なく箒に乗ることができたし、シンティアの宝石も調子がいい。
俺も箒の試運転をしたが、相性がかなり良かった。
今は森の中で野営中。
焚火をしながら交代で朝まで過ごす予定だ。
何度かノブレスでもこういった試験はあった。
不安に駆られることはないが、何も手がかりがなく戻るだけは避けたい。
もうすぐ休暇も終わりだ。
ここまできたのだ。気持ちよく学園に戻りたいのは、二人とも同じだろう。
「んっ、このお肉美味しいですよ! いい焼け具合です!」
リリスが、夕方に狩った豚(みたいなやつ)の串焼きを手渡してくれた。
授業でわかっていたことだが、彼女は闇夜に強く、サバイバル能力に長けている。
こういったところは見習うべきところだ。
「ありがとう、リリス、それにシンティアも」
「あら、何もしてませんわ。すべてリリスがしてくれていますよ」
「いや、こうやって着いてきてくれていることがだ」
本当にありがたい。
俺のわがままに何も言わず付き合ってくれているのだから。
俺は、温泉に浸かって今までの事をゆっくり話そうと決めていた。
身も心も落ち着いているときが話しやすいからだ。
しかし見つからなければ意味がない。
むしろ、今がベストかもしれない。
二人は何も言わず待ってくれている。
いい加減、甘えるのはやめよう――。
「――リリス、シンティア」
「はい?」
「どうしましたか?」
するとそのとき、おそるべきほどの魔力を感じた。
学園でもめったにお目にかかれないほどの力強さだ。
それもかなり近い。
突然に強敵が現れただと? いや、それは考えにくい。
むしろ、一気にレベルが上がったような――そうか。
「魔力増強の湯だ。間違いない。――飯は後だ。行くぞ」
「わかりました!」
「油断せず行きましょう。この魔力……凄まじいです」
リリスとシンティアが箒にまたがる。
俺は、シエラのように杖の上で立ち上がった。
高等技術ではあるが、このくらいで倒れるようなやわな鍛え方はしていない。
というか、カッコイイからこれがいいのだ。
何度か倒れそうになったが、これだけは譲らない。
空高く舞い上がり、魔力のほうへ向かう。
しかし――。
「――離れろ!」
次の瞬間、下からとてつもない魔力砲が吹き飛んできた。
密度がカルタの魔力量と遜色がない。
ありえない。
直撃すればとんでもないことになっていただろう。
このサブエピソード、ただのほのぼのじゃないぞ。
おそらく、メインストーリーに匹敵するほどの強敵がいる。
「――全力でいくぞ」
俺の問いかけに、二人が無言で頷くと全力で魔力を漲らせた。
こういった戦闘と試験で大きく違うことがある。
それは、時間制限がないことだ。
本気の戦闘は時間を掛けない。
一点に集中し、倒す。
姿は見えないが、手荒い挨拶を受けたのだ。
ならば、返してやるのが道理だろう。
「構えろ――。
「
「
俺は、渾身の一撃を放った。
シンティアが続き、リリスが投げナイフに魔力を強化して新技を放つ。
ぐんぐんと伸びていく攻撃。
誰であろうと防ぐことは――何!?
――ドゴオオオオオオオン。
ぶち当たる直前で、ココと同じくらいの
それも広範囲に。
驚きのあまり、言葉を失う。
身体が固まっていると、ふわりと黒い影が近づいてくる。
そしてその正体に気づいた。
「あら、誰かと思ったら後輩ちゃんたちじゃない。ごめんねえ。あまりに温泉が気持ちよくて、気づいたら”ぶっぱなし”ちゃってたわ」
「……何をしてるんですか?」
「知らないの? ここの湯、凄く気持ちいいのよ」
「ヴァ、ヴァイス様、ダメです! 見ちゃダメですよ!?」
「ヴァイス、目を閉じてますか」
「……え、ええとな」
目を閉じた瞬間、逸らしちゃダメ、といいながら攻撃されそうで不安だ。
だが二人が止めるのも無理はない。
「……エヴァ先輩」
「なあに」
「服、着てもらえませんか……」
「ふふふ、可愛いわねえ。でも、今は着れないわ。下にあるもの」
俺の目の前にいたのは、たゆんっと肉付きのよい生まれたままの姿の――エヴァ・エイブリーだった。
……脱いだら凄いタイプだったとは知らなかった。
これも――未公開か。
悪くない。
「ヴァイス、ちゃんと目を閉じてますか」
ただ、命がなくなりそうだが。
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