253 これからも一緒に

「気持ちいいわねえ。シンティアちゃん、リリスちゃんは、この前の湯以来ね」

「そうですね! 私は温泉初めてなのですが、すごく気持ちがいいです!」

「混浴という話をヴァイスから聞いていましたが、まさかエヴァ先輩がいるとは思いませんでしたわ」


 結局俺たちは、仲良く湯に浸かっていた。

 天然温泉、白く濁った湯で肌が見えないのは心の平穏的にありがたい。


 少し熱めだが、それがまた身体を温めてくれる。

 周りは森で生い茂っていて、なぜかここだけは天然のくぼみになっていた。


 つるつるとした岩で囲われているので、怪我をすることもない。


 そして――。


「凄いな……この力」

「ふふふ、気持ちいいわよねえ」


 エヴァ、シンティア、リリス、そして俺の身体から湯気のように魔力が立ち上っている。

 まさに噂通りだ。


 例えるならば無限にレベルアップしているみたいなものか。

 ……もしやこれが”バグチート”や”原作破壊女”とよばれたエヴァ強さの秘密なのか?


「残念だけど、ここから出たらすぐに魔力が下がっていくわ」


 すると俺の心を見透かしてるかのように、エヴァが言った。


「……なるほど」

「あら、残念そうね」

「いえ、そううまい話はないなと思っただけですよ。それより、なんでここを知ってるんですか?」

「私は何でも知ってるから。――なんて、冗談。たまたま強い魔力を感じたから降りてみたら、ここにミルク先生がいたのよ」

「……え?」


 突拍子もない発言に驚く。

 ミルク先生とエヴァが……?


「といっても随分と前よ。私がノブレスに入る前だったかしら。あの時はまだこのあたりは戦争してたからねえ」

「……それ、どうなったんですか?」

「もちろん戦ったわよ。ミルク先生から先制攻撃を受けたわ」


 俺も知らない物語だ。

 そんなすごいことになっていたとは。


 しかしエヴァを見つけてすぐに攻撃するミルク先生も凄い。

 さすが先手を大事にしている人だ。


「え! どっちが勝ったんですか!?」


 するとリリスが立ち上がって叫んだ。


「リリス、湯冷めしますわ」

「はい!」


 確かに勝敗が気になる。 

 これがもし試合ならチケットは高値で取引されるだろう。


 俺もアリーナで見たいくらいだ。


「決着はつかなかったわ。でも、おもしろかったわあ。またやりたいけど、教員と生徒ってなかなか難しいわよねえ」


 その時のムービーはないのだろうか。

 是非見てみたい……。


 しかしここに魔族を呼び寄せれば勝てるんじゃなかろうか。

 いや、逆に浴びられても困るか。


「それより、最近はどうなの? 随分と楽し気じゃない。中級生ちゃんたち」

「どうでしょうか。またいつ魔族に襲われるかわからないので、日々研鑽を積んでるだけですよ」

「ふふふ、アレンくんと君の対決が楽しみだわ」

「手ほどきをしたからですか?」

「次はきっと苦労するわよ」


 ニールと戦っていたアレンは、確かに以前とはまるっきり違うかった。

 しかしエヴァは何が楽しいのだろうか。

 俺があいつに負けることか? いや、よくわからないな。


 すると、リリスがエヴァに尋ねる。


「エヴァ先輩は……魔族が襲ってきたら戦うのですか?」


 リリスは、ネルのことを気にしているのだろう。

 古い友人だとは聞いたが、姿まで同じなのは驚いた。


 ただ、ゲームでは外見が同じ敵と戦うことはめずらしくもない。


 本編では描かれていないだけの資料に書かれていた可能性すらあるだろう。


 エヴァは、お湯を身体にかけながら静かに微笑んだ。


「そうねえ。魔族と戦うのはおもしろいからね。でも、でも、アレンくんやヴァイスくん達が奮闘しているのを見てるほうが好きよ。シンティアちゃんやリリスちゃんが必死に戦っている姿も、ゾクゾクするわあ」


 彼女は嘘をつかない。それがすべて本音だと思うとやはりおそろしい。


「頼りにしていますわ。エヴァ先輩」

「うふふ、でもひとつだけ言っておくわ。――ネルは私の獲物だからね。あんまり手を出さないように」


 最後、エヴァは淡々と言った。


 やはり因縁があるのだろう。

 いずれ聞いてみたいところだ。


 それからおもむろに立ち上がり、シンティアが微笑みながら俺を見つめた。

 静かに湯に視線を向ける。

 

 うむ、白くて綺麗だ。肌ではなく、湯が。


「私はそろそろ出るわ。後はお三方で楽しんでね。それと、私の予感だけど、そろそろまた魔族が来ると思うわ」

「なぜですか?」

「さあ。何となく、魔族もどきの様子からね」


 今でもまだ世界各地に魔族もどきは出現している。

 しかしエヴァの予想は当たるだろう。


 原作でもニールとプリシラの後、魔族が襲撃してくるはずだ。


 思わず振り返ってしまい、エヴァの白い肌と、黒い下着が目に入る。


「えっちな後輩ちゃん。またね」


 するとエヴァは、上着だけ羽織った状態で飛行魔法で去っていく。

 少しだけ冷気を感じたので視線を戻すと、シンティアが微笑んでいた。


「俺はお前一筋だ」

「許しましょう」


 ――――――――――――――――

 あとがき。

 次話で温泉編が終わり、第八章も終わりで、次の章に行く予定です。

 幕間もできればはさみたいなと思います。

 魔族も出てくると思います(予定)


 ニール&プリシラ編が終わって、SSのような話が続いて少し退屈だったかもしれませんが、個人的には凄く楽しく書けました(^^)/


 3月に入るとまた書籍に関しての新しい情報もありますので、ご報告させてください。


 九章では、少しセシルに焦点を当てたいなと思いつつ、まだちょっとわかりませんが、よろしくお願いします!



 書籍の予約開始しています!

 続刊の為にも、是非予約してもらえませんか……!?



『怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった』

 発売日:2024年3月29日(火)

 (紙本&電子共に予定)


 レーベル:角川スニーカー文庫 様。

 担当イラストレーター:桑島 黎音 様。

 

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 よろしくお願いします☺

  

 


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