331 新魔法(セシルside)

 ヴァイスくんがミルク先生と戦い始めてから数十分が経過した。

 恐ろしいほどの魔力のぶつかり合いと衝撃が、ここまで感じられる。


 アレンくんたちが、ダリウス先生と戦っている。


 シンティアさんたちが、ココ先生と戦っている。


 カルタさん、オリンくん、トゥーラさん、ベルクくん、メリルさんが、魔物と戦っている。


 けれども、ここは私だけだ。


 そして――。


「どうしてここへ来たのでしょうか? あなたは、遠くで指令を出すべきだと思います。もしくは、誰かを連れて戻ってきたほうがいいかと」

「クロエ先生でもわからないことがあるんですね」

「……とういうと?」

「私が一人でここに立っているのは、勝てる算段があるからですよ」


 私の言葉に、クロエ先生は両手の鞭に魔力を通わせた。突然、目にもとまらぬ速度となって乾いた音が響く。


 これは、先生が目にもとまらぬ速度で鞭を振っているからだ。


 剣や盾、槍や魔法の杖を武器にする人は大勢いるけれど、先生のような武器はめずらしい。

 魔力を通わせると、武器は各段にその効果を高める。

 鞭のようなしなやかさが必要な場合は、柔らかさも残しておかなければならない。


 クロエ先生は私と同じで魔力が少ない。

 だからこそあえて鞭を選んだ。少ない魔力でも、攻撃の瞬間だけ魔力を込める為に。


 とても理にかなっている。おそらく、私も使いこなせれば凄く強くなれるだろう。


 実際、クロエ先生は私にも言ってくれた。

 鞭の使い方を教えてあげましょうと。でも、私はそれを断った。


 それだと、先生を超えられない。


 バトル・ユニバースでもよくあることだ。

 誰かが強い指し方を編み出すと、大勢の人がこぞって真似をしはじめる。

 けれども、それはただ模倣しただけで、本質を真似ているわけじゃない。


 全てに意味がある。悩みや葛藤が答えとなり辿り着いた真実こそが実力となる。


 だから私も悩んだ。

 そして、答えを出した。


 私にしかない、私だけの武器、魔法を。

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