122 物語の主人公

「オラァッ! ったく、魔物ってのは数が多いねえ」

「そうやって油断しないのよ。一応、罠を仕掛けておくわ」


 開けた一本道、普段は行商の人が馬車で移動する場所らしい。


 僕たちは、ゴブリンの群れ駆逐していた。

 デュークが一番に駆けてなぎ倒し、シンティアさん、リリスさんと僕が同じように倒していく。


 セシルさんとシャリーは、他に魔物がいないか確認しながら後衛に徹している。


「こんな群れで人里近くまでくるなんてめずらしい」


 そのとき、セシルさんがぼそりと言った。

 僕は思い出していた。


 大規模侵攻のことを。


 だがさすがにそれはありえないだろう。

 観光地だといっても常駐の兵士はいるし、事実、僕たちが街を出る前に集合もかかっていたみたいだ。


 おそらく後から来るだろう。

 まあ冒険者と兵士が手柄を争うのはよくあることだ。


 味方は多い方がいい。


 なぜなら僕の能力ギフトには致命的な弱点がある。


 それは、使用魔力量に応じて、能力終了後から全身の激痛、疲労、使用しすぎると数日間は完全に魔力がなくなることだ。


 今までは重要なときに使えればいいと思っていたが、そんな考えだと僕はノブレスで一位を取ることができない。


 だから、時間があれば特訓で使っている。


 それもあって色々応用は効くようになったが、いつも身体に痛みが走っている。

 デュークやシャリーに言うと心配するの黙っているけれど、この力の使いどころは、非常に難しい。


「――しゃっ!」


 そしてデュークが、最後のゴブリンを倒す。

 魔物は嫌いだ。奴らは理由もなく人を虐殺する。


 そんな種族――全滅すればいい。


 全てが終わり、セシルさんとシャリーが、魔力感知で周囲を探る。


「後は感じないね」

「そうね、シャリーさんの言う通りだと思う」


 二人は魔力感知の技術に長けている。

 僕とデュークはそういうのが苦手だ。まあ、それも良くないけど。


「討伐は同数ね。残念」

「シンティアさんの魔法が凄かったからですよ!」


 シンティアさんとリリスさんの連携は、日に日に良くなっている。

 やっぱりヴァイスの影響が凄いんだろうな。


 ……僕も見習わなきゃ。


 そのとき、街の兵士がやってきた。

 といっても、数はそれほど多くない。


 十人ほどだろうか。重装備でもない。

 観光地だということ、ゴブリンだという通報だからだろう。


「どういうことだ?」

「子供? なんだ君たち――」


 すると、セシルさんが前に出る。


「討伐完了しました。ゴブリンが18体、特殊個体はいませんでした。私たちは冒険者の資格を持つノブレス魔法学園の学生です」


 的確な説明と最後の言葉で、兵士たちがたじろぐ。

 大人相手にも物おじしないところは流石だ。


 平民の生まれだからだろうか、悪いことをしていないのに、いつも申し訳なくなってしまう。


 こういうところ……直さなきゃな。


「アレン、どうした?」

「いや、何でもないよ。それよりいつも通りデュークは凄いね」

「私たちが今さらゴブリン程度で負けるわけないわ。いつも化け物・・・みたいな同級生や先輩と戦ってるんだし」

「あはは、シャリーの言う通りかも」


 思っていたよりも少し時間はかかったが、どうやら夕日が落ちる前には戻れそうだ――。


「――え? うぎゃぁあぁつ」

「ぁあああっあ、お前なっああっあぁつ」

「ひ、ひえぁっあああっ」


 そのとき、悲鳴が響いた。

 前を向くと――言葉を失った。


 セシルさんの目の前にいた兵士の首が、一人、また一人と飛んでいく。


 僕は兵士たちに防御シールドを唱えようとしたが、掛けようとしても、間に合わずに連続で首が飛んでいく。


 ――助けられない。


「セシルさん!」


 魔法術式にはラグがある。

 セシルさんを助けようと駆けた。


 兵士たちの首が、次々と飛んでいく。


 それが終わると、セシルさんに危険が及ぶと焦る。


 だがセシルさんは防御シールドを唱えた。

 同時にシンティアさんが氷壁アイスシールドを詠唱した。


 地面が冷気で冷やされ、じりじりと魔法が形成されていく。


 何も見えない。感じない。だが――何かがいる。


 僕は思い切り魔力を漲らせた。

 

 防御が間に合わない――それがわかった。


 僕は咄嗟に右腕をセシルさんの首の横に差し出す。


 だが、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ魔力を漲らせるのが遅かった。


 ――ッッッッ!!!


「アレン!!!」


 とんでもないほどの激痛が右手首・・・に感じて、直後、デュークの声が響く。


 だがおかげでセシルさんに氷壁が間に合う。


「アレン!!!」

「アレンくん!」


 シャリーが叫び、セシルさんが驚いて声をあげた。

 謎の攻撃が僕の魔力を断ち切り、肉を切り、骨を貫通し、そして――。


 右手首が、血を吹き出しながら空に舞う。


 何かに、僕の手が――切断された。

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