362 安心した

「勝ったら揉み放題ってマジなのか!?」

「いやでも、負けたら揉まれ放題だぜ?」

「男女はどうなるんだ? それって、学校的にも大丈夫なのか?」


 どれだけ否定しても、このパワーワードを覆すことはできなかった。

 シンティアに氷漬けされそうになったものの、彼女への誤解は解けたので、今はコスプレカフェの制作に取り掛かっている。


 ノブレス魔法学園は学生の主体性を重んじる。

 以前行ったときも、ほとんど1から作り上げたものだ。

 

 手先が器用なシャリーは絵も上手く、アレンとデュークと看板を作っていた。


 俺はというと、各国から取り寄せたコスプレの精査だ。

 セシルはエルフ、カルタは獣人族の予定だが、まだまだ決まっていないことも多い。


「ヴァイ君、この耳はどうするの?」


 準備室で備品の整理をしていたら、一緒にいたルナが首を傾げながら尋ねてきた。

 手に持っているのは、犬耳だ。


「一度付けてみてくれ」

「え、は、はい」


 彼女は小柄でハムスターみたいな顔をしている。こういうのもありだな。

 それと、まだちゃんと伝えていなかったな。


「ど、どうですか? ヴァイ君」

「かなりいいと思う。――後、ありがとな」

「え? な、何がですか?」

「マリスが言語を話せるようになったのはお前との特訓のおかげだ。それに黒球がココ先生を倒す最大のきっかけになったこともシンティアから聞いた。その、礼だ」


 元ヴァイスが彼女に対して好意を抱いていたのかは定かじゃない。

 ただ虐められていたことに共感を覚えた可能性もある。しかし少なくともルナは真面目で、それでいて心の優しい人だ。

 の目は、ある意味では狂いはなかっただろう。


 しかし彼女にとっては昔の俺も今の俺も同一人物。突然心変わりしたと思われても仕方がないが、俺の目標を知って、それで納得してくれた。

 それを見せるためにも、ますます負けられない――。


 するとルナは、まっすぐに俺を見つめていた。

 

 何を考えている……?


「ふふふ、ヴァイ君ってやっぱり変わりましたよね」

「え?」

「入学式からずっと視て・・ましたけど、なんだか別人みたいです。初めて会ったときのヴァイ君なら、そんな優しい言葉を言ってくれませんでしたし」


 優しい、優しいか……?

 人として当然だと思うが。いや、元ヴァイスは人じゃないと書かれていたけどな。

 見て、じゃなくて視てが気になるが。


 こうしてみるとお淑やかで気品がある。

 それに、なんだか大人っぽさも――。


「ヴァイ君」


 妖艶な雰囲気で、ルナが歩み寄ってくる。


「――やっぱり好きです。好き好き好き好き好き好き好き好き」


 すると突然、抱き着こうとしてきた。

 サッと避けると、悲しげな表情を浮かべた。


 ああ、やっぱり変態だ。安心した。

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