090 バトル・ロワイヤル

 強者、それはノブレスで一番聞き馴染みがあり、誰もが欲している言葉だ。


 ハッキリといえば、どれだけ性格に難があろうとも、強ければ認められる。


 それは、この世界においての絶対正義。


 座学が終わると、ついに本番・・がやってくる。


 己の力をフルに使って、入学してからのすべてを出し切る必要があるのだろう。

 その噂は、下級生なら誰もが知っている。


 原作で期末試験は高難易度なのだが、何をするのかがランダムだ。


 といっても、どれも簡単じゃない。


 氷山の頂上にある希少な花を取ってくる、僻地の魔物からドロップする魔石を集めるとか、どれも命を失ってもおかしくないものばかり。

 ゲームだから仕方がないともいえるが、現実なら誰もが遠慮願いたいだろう。


 そして俺たち下級生は、朝早くからノブレスが管理している、無人島に連れられていた。


 この辺りは魔力雲がうようよしている。

 サバイバル試験での吹雪は、記憶に新しい。

 だがノブレス学園専用の船で渡っている間に、雪がピタリと止み、生徒たちは笑顔になった。

 気温は暑くもなく寒くもなくちょうどいいが、これから起こりうることを考えればある意味では皮肉だ。


 海岸沿いで集められた俺たちは、これから最高で七日間・・・のテストがあると事前に告げられていた。


 俺にとってはこれはがいい。

 最高の試験だ。


 例えるなら以前のサバイバル試験の上位版だろう。

 それだけに危険度も高い。


 ダリウスが前に出る。

 ちなみにミルク先生、クロエ、ココも同行していた。


「既に理解しているだろうが、サバイバル試験だ。だがルールが今までとはまったく違う。今回は七日間のバトル・ロワイヤル。自分以外が全員敵となる。そして、たった一人の優勝者を決めてもらう」


 その言葉に、全員がざわめく。だがみんな薄々気づいていたというか、噂で聞いたことがあったのだろう。

 

 今までの試験の集大成と言っても過言ではない。

 三日間のサバイバル試験では、魔物のみがポイントの対象だった。

 肝試しでは、指輪がポイントの対象。


 そして今回は――。


「生徒同士がポイントの対象となる。相手に気絶させられた場合、ポイントが奪われる仕組みだ。そして、多くのポイントを所持している生徒は、自分より低いポイントを持っている相手に負けると大幅に減る。早くに脱落した場合、それもポイントが減る。つまり高ポイント持ちが早々に負けた場合、覚悟してくれ」


 それを聞いて、同級生の多くが、俺やアレン、高ポイント持ちに視線を向ける。

 俺たちを倒せば、それだけ旨味があるってことだ。


 驚くほどの不公平、だが最高だ。


 これこそが、期末テストに相応しいだろう。


 今までは積極的に戦う必要はなかった。魔物を狩ったり、指輪を見つけたり、あくまでも前提があった。

 だが今回は違う。


 無人島には魔物や生物もいるが、ポイントを得ることはできない。

 そして更に面白い要素を含んでいた。


「質問いいですか?」

「いいだろう」


 いつもは一切受け付けないミルク先生も、今回ばかりは優しい。

 いや、先生なんだから当然だが。


「七日間を超えても優勝者が決まらない場合はどうなるんですか? その場合、ポイントは減らないんでしょうか?」

「黙って戦え」


 ……え?


「それについては、私が詳しく説明します」


 するとクロエが前に出る。細かい説明は彼女のほうがわかりやすい、いや、ミルク先生にバレたら殺されるのでやめておこう。


「手渡した地図に記載していますが、無人島をエリアで区枠しています。二時間ごとに魔法鳥がアナウンスをしますが、禁止エリアが発表されます。最終日では1エリアになるので、戦うことは免れないでしょう」

「禁止エリアに滞在していたままだとどうなるんですか?」

「――ポイントが、全損します」


 その言葉で、全員がざわめく。

 だがこれは気を付ければいい話だ。地図をしっかりと確認しておけば問題はない。


 これを設けている理由は、生徒同士を効率よく戦わせる為。といっても、二時間というのはかなり過酷だ。

 もし自身の場所が禁止エリアになった場合移動を余儀なくされるが、かち合う可能性も高くなる。


 まとめるとこうだ。


 ①試験は無人島で七日間行われる。

 ②時間ごとにエリア内、エリア外が分けられる。禁止エリアにとどまっていると、カウントダウンの後、ポイントがゼロになる。つまり退学だ。

 ③勝敗でのポイント変動は答えられないが、成績上位が下位に敗北した場合は、大幅に減。

 ④不正防止の為、ポイント全損を免れる為に自死しても意味はない。


 おそらく今回でかなりのポイントが上下するだろう。

 原作でも、序盤に脱落した場合は退学は免れないほどだった。


 俺も何度プレイしたか覚えていない。ありえないほど過酷だった。


 来年の春から俺たちは中級生になる。

 その見極めを学園はするつもりだ。


 そもそも今の段階でポイントが少ない奴は、逃げ続けてきた奴らだ。


 それが、首を絞める結果となるだろう。


「優勝した場合は、ポイントが多くもらえるってことですか?」

「そうだ。もしS級に到達したいのなら間違いなく目指すべきだろう。だがそれだけじゃない。今まだ何かは言えないが、最後の一人には褒美・・を用意している」


 最後のダリウスの言葉に、俺は驚いた。

 これは原作でなかったことだ。


 はっ、気になるじゃねえか。


 だが俺はS級を目指している。優勝が必須なのは、最初からだ。


 全ての説明が終わったあと、やる気に満ち溢れている奴と、怯えている奴に別れた。

 ポイントが少ない場合は気が気でないだろう。


 だがどの学校でも普通の話だ。今まで結果を出せなかった奴は淘汰されても仕方がない。


 しかし最近までチーム戦が多かったことも関係しているだろう。

 俺たちは、厄災や修学旅行を通じて苦難を乗り越えてきた。


 それが、全員敵になる。


 まったく、ノブレスはいいタイミングで過酷な試験を放り込んでくる。


 さらに俺たちにはプライドがある。

 ポイントだけじゃない、これは、誇りを賭けた戦いでもある。


「シンティア、俺はお前と出会っても手加減はしない。――だが、負けるなよ」

「ふふふ、当たり前ですわ」

「ヴァイス様、私はリベンジしたいです!」

「はっリリス、楽しみにしているぞ」


 例によって、転移魔法でランダムに飛ばされることになった。


 流石に七日間もあると、俺も動きっぱなしとはいかないだろう。

 食料の確保は必須だ。


 原作を超えて強くなった奴らがどう動くかなんて俺にもわからない。


 どうせなら本気で戦ったことのない奴を倒すのもいいだろう。


 カルタ、セシル、シャリー、デューク、シンティア、オリン、もちろん、アレンやリリスだって構わない。



 いや、クラスメイト全員を倒してでも、俺が優勝してやる。



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