276 はぐれメタルと接触

 何度かルナに声を掛けようとしても、彼女は視界から消えていく。

 女子棟では個室、聞けば外にもほとんど出ていないらしい。


 きっと忘れているのだろう。


 例えヴァイスが何かルナとかかわりがあったとしても、それは随分と過去の話だ。


 いくらなんでも彼女が覚えているわけがない。


 深夜、夜風に当たりながら夜の訓練兼デビの自我訓練。


「デビビ!」


 昼間に出現させておくとどうも目立つ。


 訓練をしていると、デビが何かを見つけたらしい。

 ふよふよと戻って来たかと思えば、しぃーと人差し指を立てた。


「……なんだ?」


 こっそりのぞくと、随分と可愛らしい声が聞こえてきた。


「……はぁっはぁっ!」


 それを見て、俺は目を見開いた。


 たった一人、訓練服に身を包んだルナが、訓練刀を振っているのだ。

 それも想像で創造した魔法、カラスみたいな鳥を自身に攻撃させ、それを回避しながら。


 とてつもない精神力がいるだろう。

 カルタの飛行魔法のように、手足で別々の文字を書くようなものだ。


 俺はてっきり彼女が順位を上げているのは天性の魔法のおかげ思っていた。


 だが違う。

 彼女は努力しているのだ。


 何がきっかけかはわからない。だが、これが真実だ。


 俺がその邪魔をするのはよくないだろう。


 そう思っていたら――。


「……なぜ、ずっと見ているのですか」


 ……ん? 気のせいか?


「こっちへ、来てもらえませんか」


 いや、気のせいじゃない。

 俺は、魔力探知に引っかからないようにしていた。


 だがルナはそれに気づいた? ありえない。


 逃げた方がいいのかと思ったが、デビが飛び出した。


「デビビ!」


 覚悟を決めて晒すと、やはりルナはジト目で俺を見ていた。


「…………」



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