145 君は、誰だ?

 ヴァイス、アレン、ソフィアが結界の中に入ってから、二分・・が経過していた


 すぐ近くには、シンティア、リリス、メリル、ベルク、カルタ、デューク、オリン、トゥーラ、そこに駆け付けたのはミルク、エヴァ、エレノア、シエラ。


 そしてココが、手のひらを結界に当てながら目を瞑っていた。

 既にシンティアたちが一斉に攻撃を仕掛けたものの、ビクともしなかったのだ。


 ココに最後の望みをかけていたが、静かに首を振る。


「この結界は……人類が到達できるレベルを超えてる」

「そ、そんな、ヴァイスたちがおそらく中にいるんですわ!? ココ、先生なんとか!?」


 シンティアがいつもとは違う様子で取り乱すが、ココは悲し気な顔で答えるしかなかった。

 そこにミルクが非情な補足をする。


「私と戦っていたキングという男も消えていった。おそらく、中だ」

「……ネルもよ」


 さらにエヴァの言葉で誰もが絶望した。

 しかしココの一言で、全員の表情を少しだけ変わる。


「でも、既に崩壊がはじまってる。きっと、五分しか持たないわ。それが過ぎれば、壁は崩壊するはず。シンティアたちの話と合わせると残り三分。解除されてないってことは、生きてるってことよ」

「後、三分……」


 シンティアの一言に、デュークが怒りに満ちた拳で結界を殴り続ける。


「クソ、クソ、クソクソクソ!!!!」


 とんでもない威力、だがビクともしない。


 それを止めたのは、リリスだった。


「ヴァイス様なら、アレンさんなら、きっと、大丈夫です。信じましょう」


 ――――

 ――

 ―


「……アレン、生きてるか」

「ああ……」


 結界の中で二分が経過、俺とアレンの身体はすでに限界を超えていた。

 癒しの加護を破壊の衝動のおかげでソフィア姫はいまだかつないほどの防御シールドで覆われている。

 だが俺たちは血を流し、骨が砕け、魔力の全てを使って攻撃を防ぐので精一杯だった。


 原作を知っている俺だからわかるが、最終局面以上の力を出したはずだ。

 魔力がうまく練れず、呼吸するたびに肺が悲鳴をあげる。


「凄いわね。二分も持つなんて」

「ああ……すげえ。ネル、お前手加減したんじゃねえのか?」

「してないわ。でも魔王様の言っていた通りじゃない?」


 魔族は既に余裕の表情で俺たちを眺めている。


 特にエヴァそっくりの女、ネルの技はとてつもない。

 キングもそうだが、力が強すぎる。

 スルスは、結界で魔力を失っているのだろう。


 とはいえ、ビーファとラコムも相当なものだ。


 そしてネルが、トドメだといわんばかりに無数の手から魔法を放った。

 アレンと防御を詠唱するも、貫通してソフィア姫のシールドが全て消える。


 次は防げないかもしれない。


 だが――。


「アレン、思い出すな。あの時を」

「ああ、僕たちならやれる」


 俺たちの目は死んでない。


 外には間違いなく仲間がいる。たとえ攻撃を受けても、瀕死でも、手足がなくなっても、ココやシンティアがいれば命は助かるはずだ。


「うふふ、おもしろいわねえ」


 ネルが、エヴァそっくりに笑みを浮かべた。


 俺とアレンは、なけなしの力で剣を構える。


 しかしそのとき、ソフィアが、声をあげた。


「――お願いがあります、私が今からここで自決します。その見世物の代金として、この二人を……どうか見逃してください」


 それに驚いたのか、魔族たちは顔を見合わせた。

 そしてネルが口を開く。


「面白いこと言うわね。あなたにその覚悟があるなら、願いを叶えてもいいわよ」


 後ろを振り返ると、ソフィアが、自身の心臓に手を当てていた。

 

「おい、何やってんだ」


 身体を覆う魔力が限りなくゼロだ。手に魔力を全てを込めている。


「――ヴァイス、そしてアレン、本当にありがとう。私、最後にあなた達とあえて良かった。ここまでしてくれたのにごめんなさい」

「おいやめろ」

「そうだ! 最後まであきらめるな!」


 しかしソフィアは俺たちの返事を待たずに魔力を放つ――。


「――な、何するのよ、ヴァイス……」

「……未来は変えられる。最後まであきらめんな!!!」


 しかし俺は渾身の力で駆けていた。

 不自然な壁アンナチュラルを隙間に紛れ込ませ、ギリギリで防ぐ。


「――つまんない」


 その瞬間、その隙を見逃さず、ネルが攻撃を放った。

 いや、それだけじゃない。その場にいた全員がだ。


 残り二分、この攻撃を防げる術はない。


 アレンも咄嗟に前に出るが、不可能だ。


 だが、俺も横に続いた。


 ギリギリまで、ソフィアが生きる可能性があるなら。


「――ヴァイス、君まで」

「主人公野郎が、かっこつけんな」


 だが最後まであきらめるな。ありったけの魔力をかき集めろ。


 最後まで、最後まで――。


 そのとき、俺の心臓が、ドクンと音を立てた。


 初めての感覚、だが、ひどく懐かしいような感覚。


 同時に、声が聞こえる。


 初めての声だ。だが、それはの声だった。


 ――ま、よくやったほうじゃねえかァ。


 今頃でてきやがったか――。


 ――なんだよ、つれねーなァ。


 もっと早く出てこれただろうが――。


 ――だから来てやっただろうが。


 だったたら何とかしろ――ヴァイス・・・


 ――お前の物語だろ。


 ふざけやがって、お前が勝手に始めたんだろ――。


 ――はっ、ま、面白いもんいっぱいみせてもらってるしなァ。


    ◇


 轟音が、爆発が響く。


 僕は死を覚悟した。だけど、すぐにわかった。生きていると。

 不思議な事が起きていた。


 身体が、今まで見たこともないほど防御シールドで覆われていた。

 丁寧すぎる。繋ぎ目がない。


 なんだこれは、誰が、ココ先生?


 しかし僕の前に立っていたのは、ヴァイスだった。


「――よォ。久しぶりだなァ。相変わらずムカつく顔してんじゃねえか」

「……ヴァイス?」

「何が何だかわからねェってか? まァ、見てな。けど、ここからはに教えんなよ。――未来の為になァ」


 その瞬間、ヴァイスが――消えた。

 いや、違う。いまだかつてないほどの速度で動いたのだ。


 見上げると、魔族のど真ん中に移動していた。


 ありえない、どうして、なんで。


「知らねえ奴もいるなァ。っても、覚えてねえだろうがよォ」

「――殺しなさい!」


 ネルが叫び、それに続いた魔族たちが攻撃を仕掛けるも、ヴァイスはとんでもない速さで動いた。

 攻撃を回避、魔族が魔法を放っても、防御魔法で防ぐ。


 残り少ない魔力でも発動できるほど、高度な魔力を詠唱している。

 なんで、あんなことができるんだ?


「なんだァ? 随分とノロマじゃねえか」


 それからヴァイスは、同士討ちを誘いながら近距離で剣を振り続ける。魔族は回避と防御で必死だ。

 間違いなくエヴァ先輩やミルク先生をも超えている。


 どうして、そんな、動きが。


「凄い……」


 ソフィア姫も思わず呟いた。

 だがネルの攻撃がふたたびこっちに向かってくる。


 咄嗟に構えるも、ヴァイスは戻って来たと思えば、剣で魔法を叩き切った。


「ヴァイス、なんでそんな力が」

「はっ、褒められるのは久しぶりだなァ。――さあ、うまくできるかァ?」


 そしてヴァイスは全身を闇のオーラでまとった。

 続いて右足で、癒しの加護と破壊の衝動を展開させたかと思えば、更に左足で、見たこともない魔法陣を展開させた。

 その瞬間、結界の四方から三十体以上の悪魔のようなものが出現した。

 それに気づいた魔族たちが、困惑しながら構える。


「おいネル、なんだこりゃ」

「……これはあんまり、おもしろくないわねえ」


 デビとは違う。もっと禍々しい見た目をしている。更に魔力は、それ以上だ。

 いつ……使役したんだ!?


「君は……誰だ?」


「俺か? 俺は、ヴァイス・・・・ファンセント・・・・・・に決まってんだろうが」

 


 

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