192 シンティアの涙

 箒の上に二人で乗ってることがバレたらどうなるかと思ったので、先に到着できたのは良かった。

 屋敷の前、パカパカと馬車が坂道を上がってくる。


 期間としてはそこまでではないが、随分と久しぶりの感覚だ。

 流行る気持ちを抑えながら、頬が緩む。

 

 やがて馬車が到着。

 先に現れたのは、リリスだった。

 メイドの仕事もしてくれているが、休みを取って先に迎え・・に行ってくれていたらしい。

 

 そしてその手を引いて現れたのは、シンティアだ。

 黄金のように輝く綺麗な金色の長い髪が、いつにもまして綺麗だ。

 ノブレスでの学園以外はかなり忙しいはずだが、いつもこうやって時間を作ってくれる。


「カルタさん、お久しぶりでございますわ」

「え? あ、うん! シンティアさんも元気してたかな?」

「はい。お変わりないですわ」


 するとシンティアは、俺よりも先にカルタに声をかけた。

 その表情は、本当にホッとしているように思える。

 隣のリリスは、普段よりも鋭い目をしていた。


 もしかして箒のことを見られていたのだろうか。

 ……ええと、先になんとか言わなければ。


「すまないシンティア、急いでいた――」

「ヴァイス、先に何か言う事はありませんか?」


 俺の言葉を、シンティアが遮った。

 今までそんなことは殆どない。

 よっぽど怒っているのかと思い、俺はあわてふためく。


「違うんだシンティア、アレは――」


 次の瞬間、シンティアの右手が飛んできた。

 そして――俺の頬に思い切りビンタした。


 あまりの驚きに声が出なかった。

 視界が歪む。


 不可侵領域が発動しなかったことも驚いたが、それよりもなぜ――。


「え、し、シンティアさん!?」


 隣にいたカルタが慌てて叫ぶ。

 そこでようやく我に返った。シンティアに視線を戻すと、頬に涙が流れていた。


「私が忙しいと思い、そして心配すると思ったのでしょう。それくらいわかっています。ですが一歩間違えれば大変なことになっていました。どうして……言ってくださらなかったのですか。私は……ヴァイス、あなたの身に何かあったら……耐えられないのです」


 そこで俺は、ようやく自身のバカさ加減に気づく。

 牢屋に捕まっていた件をシンティアに黙っていたことだ。


 リリスの表情でも気づいた。

 

 彼女の言う通りだった。言わなかったのは、まさにそれだ。

 どうやってシンティアの耳に入ったのかはわからない。

 だがそれよりも、先に伝えるべきことがある。


「……すまない」

「私は信頼できませんか? 私は、あなたの隣には立っていませんか?」


 ―――――――――――――――――――――――


【カクヨムコン9新作】


 新作投稿しました。

 今回、ものすごく作品数が多く、すぐに埋もれてしまいます( ;∀;)

 内容として面白いと思うので、是非フォロー&☆をもらえないでしょうか?

 読者様、私に是非お力をお貸しください!


最強で最凶の悪役に転生した俺は、原作主人公の為に暗躍す

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