105 従わない者たち

 俺たちはまず、デュランから一番近いトルトスイという街に訪れていた。

 この先の北門、ほぼ一本道を通ってデュランへ。それが、アリア魔法学園が予定していた道筋ルートだったからだ。


 到着後、すぐにミルク先生が冒険者ギルドへ向かった。最新の情報を確かめる為だ。

 あまり大勢で向かうのも邪魔になるだろうとのことで、俺たちは外で待機している。


 街自体はたいして変わったところはなく、平凡で、まあそこそこ大きいかなというくらいか。


「魔族もどきは、狼藉者が魔族によって強い能力を得る、ということだな?」

「その認識で大丈夫だ。だがその代わりデメリットもある。自我を失って、いわゆる頭脳戦ってのに弱くなる」


 トゥーラに俺が説明していると、エヴァは意味深な笑みを浮かべた。


「私が確認した東の魔族もどきは、とっても・・・・おもしろかったわよ。久しぶりにやりがいがあったわ」


 不意に放ったその言葉に、俺とシエラは驚きを隠せなかった。

 あのエヴァがやりがい?


 ……もしそんなのがアリア魔法学園を襲っていたら……。


「どんな奴だったんですか? 名前とか」

「グリズって男だったわ。凄く速かったのよねえ」


 俺が聞いた事のない名前だ。

 間違いない。改変は進んでいる。


「ヴァイ、トゥーラ、大丈夫だとは思うけど、あなた達は絶対に無理しないで。これは、先輩の命令よ」


 エヴァの言葉に不安を感じたのか、シエラがいつものような口調ではなく、しっかりと言い放つ。

 さすがの俺も、ただ静かに頷く。


 トゥーラもそれに気づいたのか、わかりました、と返事を返した。


 そのとき、ミルク先生が戻ってくる。


「どうでしたか?」

「先遣隊からの連絡がないらしい。30分後には最寄りの国の兵士たちが集結するとのことだ」

「アリア魔法学園からは?」

「ない。さてどうするか」


 血気盛んなミルク先生が悩む理由はわかっている。


「行きましょう。俺たちなら、問題ないですよ」


 俺は弟子だ。いつもと様子が違うことぐらいすぐに気づく。


「……わかった。なら私が先頭だ。シエラ、ヴァイス、トゥーラと続け。後ろはエヴァ、任せたぞ」

「はあい、任されましたわ」

「足並みをそろえていくが、遅れるなよ」

「「「了解」」」


 北門から飛び出すように駆ける。

 このあたりは一本道だ。左右が岩壁になっていて、土砂崩れが起きやすいと記憶している。


 空を見上げると、夕日が見えはじめていた。


 予定なら合同訓練を終えて学生たちで食事をしていたはず。

 それが、魔族もどきのせいで台無しだ。


 そんなことを考えながらただひたすらに一丸となって進んでいると、道の先、魔力の乱れに気づく。

 だがほぼ同時に全員が気づいたらしい。

 

 ミルク先生が「警戒しろ」と俺たちに声を掛け、空気が変わる。


 視界が遮られていた曲がり角、一本道の真ん中で、馬車が横転していた。


 周囲には人が倒れていた。


 血を流し、服が破けているが、明らかに死んでいるとわかるほど損傷・・を受けているものもいる。


 だがそこにアリア魔法学園の制服はない。

 おそらく先遣隊の冒険者たちだ。


 俺たちは魔力を漲らせる。だが周囲に怪しいところはない。


「待っていろ」


 ミルク先生が一人で馬車の中に向かって、中を改めて戻ってくるが、「誰もいない」首を横に振る。


 親睦会で集まる全員が学年トップクラスで、引率の先生も腕利きだ。

 アリア魔法学園自体がそこまで優秀というわけではないが、弱いわけじゃない。


 逃げることに成功したのか、もしくは――誘拐か。


 しかし先遣隊をも全滅させるほどの力を持つ魔族もどきがいたことは、ほぼ間違いないだろう。


 周囲の警戒を怠ることなく、頭の中で時系列を描く。

 

 大体半年、いや一年ぐらい物語が早まっている。

 つまり、その時期に現れる魔族もどきの可能性が高いかもしれない。


 しかしそんなことを考えなくとも、は、姿を現した。


「クックック、いいねえ。いい時代・・だ。エサが前からやってきやがる」


 どこから現れたのかわからない。

 馬車より奥、無精髭な男、年齢は40くらいだろうか。

 小汚い茶色の上下の服、だがその立ち振る舞いには隙がなかった。


 俺は、観察眼ダークアイ閃光タイムラプスでその男を視た。


 だが驚愕した。


 なぜなら――。


「みんな、こいつが魔族もどきだ」


 俺の言葉に、全員が警戒を強めた。

 魔力を視る行為に俺は長けている。

 それは、全属性が使えるからだ。


 俺が、アンデット島でリングを調べたときのように。

 

 魔族もどきは闇だが、複雑な魔術によって構築されている。

 それが、わかったのだ。


「しかしすげえ手練れだな。お前ら」


 だがこいつは、明らかに自我を持っている。

 それも流暢な言葉で、俺たちを認識していた。


 こんなの、ありえない・・・・・


 原作で魔族もどきは、あくまでも強化された魔族の部下という扱いだ。

 魔物よりも強く、だが自我のない。


 それなのに――。


「ヴァイス、落ち着け。あいつが一人とは限らない」


 そんな俺の動揺に気づいたのか、ミルク先生が声を掛けてくれた。


 ……その通りだ。

 今はこの状況だけに集中しろ。


 そのことにいち早く気づいていたのは、シエラとエヴァだ。

 全方位に注意を割いてるらしく、魔力を漲らせている。

 

「さて、試合開始ショータイムだ」


 男がそう叫んだ瞬間、ミルク先生とトゥーラが、瞬時に剣を構えた。


 二人の得意技は似ている。

 位置関係的に、俺とシエラは、邪魔にならないように跳躍した。


 次の瞬間、トゥーラは横に、ミルク先生は縦に剣を薙ぎ払う。


空気斬エアリィ――」

「――ハァッァッ!」


 二人の見えない斬撃が、男に襲いかかる。


 速く、そして遠慮のない鋭い魔力。


 だが――。


跳躍ジャンプ――」


 目の前に現れた別の女が、男をふわりと浮かせたあと、縦の斬撃を躱すために空中で思い切り引っ張った。

 赤髪で年齢は20代くらいだろうか。

 身長は高くない。そして男と同じ茶色の服を着ている。


 そしてなんと、片手で軽々と男を持ち上げてる。


「あぶねえ……ありがとな、ミカ」

「まったく……ブル隊長、今の食らったら死んでましたよ」


 漲る魔力、だが突然現れたのは説明がつかない。


 そのとき、後ろから声がした。


 別の男の声だ。


 視線を向けると、エヴァが攻撃・・を回避していた。


 金髪のやせ形の男、槍のようなものを持っている。


 同じ、茶色の服だ。


 俺はどこかで……思い出せ、思い出せ。


 ――そうか。


「こいつらは、従わない者たちディスオベイだ!」


 俺はその場で叫ぶ。

 その言葉で気づいたのか、ミルク先生が一番驚いていた。


 おそらくシエラ、エヴァ、トゥーラも知っているだろう。

 

 なぜなら、歴史学で学ぶからだ。


 ノブレス・オブリージュの世界では、今でこそ国を渡って旅行ができたり、冒険者ができているが、それは歴史が積み重なったおかげだ。


 過去で、国同士の戦争は激しく、その時代は常に戦争が起きていた。


 もちろん、その時代から魔法・・は存在している。


 常に争いの中で研鑽を積んでいた奴ら、その中でも特に残虐な兵士がいた。


 それが、従わない者たちディスオベイ


 幾度となく命令違反をし、平民を虐殺し、最後は投獄され、死刑にされた奴らだ。


 しかしこいつらは確か100年前に死んでいる。俺も原作で過去編があり、そのエピソードで服を覚えていただけだ。

 それは、本筋には関係ない。ただ過去にそんな奴らがいた、というだけだ。


 だが実際にこいつらはここにいる。それも、自我を持って。


「なんだ? 従わない者たちディスオベイって? 俺たちそんな呼ばれ方してんのか?  はっ、――お前ら、全員でいけ――」


 次の瞬間、ブルが叫んだかと思えば、地面から魔力が漲る。


 すると大勢の人間が姿を現した。


 バチバチとまるで電気のように魔力をはじきながら、俺たちに斬りかかってくる。


 魔族もどきの特徴は、固有能力が爆発的に進化することだ。


 歴史的戦争は国同士の戦い、おそらくだが、暗殺、隠密行動が多かったはず。


 つまりこの中の誰かの隠蔽魔法が、限りなく進化していた――。


 俺は剣を構える。


 だが従わない者たちディスオベイは10人以上。


 一人一人がかつてのタッカー・・・・ほどの魔力、さらに未知の能力・・がある。


 ――だが勝つ。


 俺はその為に研鑽を積んできた。どんなときでもブレない心を鍛えてきた。


 そして、この場にいる面子が、俺を支えてくれる。


 負けるわけがない。


 だがそんな俺の強い意思を超え、誰よりも早く動いたのは――。


 エヴァ・エイブリー。


 彼女は、恐ろしいほどの魔力を漲らせた。

 次の瞬間、俺たちを取り囲んでいた従わない者たちディスオベイが、凄まじい勢いで壁に叩きつけらる。


 何をしたのかはわからない。


 だが、俺は知っている。


 以前彼女と対峙したときに気づいたのだ。


 エヴァには、視えざる手・・・・・があることに。


「うふふ、おもしろいことになってきたわ。――さあて、私を楽しませてくれるかしら」


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