220 仲裁

「やめろアレン」

「ヴァイス……僕は何も――!」

「周りをみろ。喧嘩を吹っかけているのはお前のほうだ」


 アレンが拳を握りながらゆっくりと周囲を見る。

 明らかにニールの味方が多い。

 だが、アレンの目は曇らない。


「……彼は、最低限の尊厳をプリシラさんに与えるべきだ」


 詳しくはわからないが、やはり奴隷紋のことだろう。

 わかりやすい奴だな。


「君がヴァイスか、噂は聞いてるよ。どうにも困っていてね。君はわかってくれるみたいで助かるよ」

「俺はアレンこいつと違いますよ。奴隷なんて、この世界で当たり前の事ですから」


 それを聞いたニールが、ほんの少しだけ俺を品定めるように見つめた。

 使えるクズ、使えないクズ、それが奴の口癖だ。


 プリシラは、おそろしいほど冷たい目で立っていた。

 自分自身が話の渦中だというのに、まるで存在していないかのように。


 個ではなく、自分で自分を物として扱っている。

 この忠誠心はおそろしい、いや奴隷紋の強制力だろうが。


「ヴァイス……見損なったぞ」

「ハッ、アレン、お前にどう思われようが関係ない」


 俺たちのやり取りを聞いていたニールが、嬉しそうに微笑む。

 だが――。


「とはいえアレンこいつの意見も一理ある。奴隷の尊厳は主人の手によって守られるべきでしょう。俺からすれば、品性が著しく欠けているのは、こいつアレンより先輩のほうかと」

「……なんだと?」


 俺の煽りにニールの顔に陰りが見える。

 そしてプリシラにも。


 表情には一切出ていないが、魔力は隠しきれていない。

 淀みが、揺らぎが、怒りを答えている。


 さてどうするか。流石に公爵家に楯突くと面倒だ。


 そのとき、割って入ってきたのは、ミルク先生だった。


「アルバート家の長男とあろうものが復学直後に揉め事か」


 ニールは一年ほど休学していた。

 公爵家としての仕事、サボり、知ったこっちゃないが。


「ミルク・アビタス教員。初めまして。僕は何もしていません。ただ彼が、プリシラを気にくわなかったらしくて」

「はい。ニール様は悪くありません」


 ここで初めてプリシラが口を開く。

 皮肉にも綺麗な声だ。


「喧嘩両成敗という言葉を知っているか? 私はどちらの話を聞くつもりもない。これで終わりだ。周りも解散しろ」


 なるほど、さすがミルク先生だ。

 話しを聞けばニール側が正しいと言わざるを得ない。


 そこには触れず、うまく収めるつもりだ。


「……まあいいですよ。プリシラ行くぞ。――ヴァイス、アレンと言ったか、先輩として忠告しておくが口の利き方に気を付けろ。ノブレスはそんなに甘くない」


 ニールが余裕な笑みで去っていく。

 原作通りアレンとは衝突した。これからどういう方向になっていくのかはまだわからないが、合同訓練もあるはずだ。


 だがニールはノブレスでも稀有の能力を持っている。

 それも世界が変わるほどの異質な。


 どうせなら絞り取ってやりたいところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る