クリスマス特別SS。xxxx週目。ヴァイス・ファンセント
「おいシャリー、なんだ……これは?」
「クリスマス帽子だよ。サンタさん帽子。知らないの?」
「そんなのはわかってる。なんで俺に着けたってことだ」
「だって、カワイイじゃない?」
まったくもって関係のない答えだ。
ったく、浮かれやがって。
俺はいつものように屋上にいた。
だが最悪なことに雪が降ってきやがった。
「わ、凄いパウダースノーだ。ほら、ヴァイス」
「ああ」
「綺麗だなー。って、え、ど、どこいくの!?」
「部屋に戻る。日課の訓練も終わったしな」
「ちょ、ちょっと待って!?」
お前らにとっては特別な日なんだろうが、俺にとっては面倒なイベントだ。
プレゼントの交換をしたり、騒いだり、ご馳走はまだいいが、和気あいあいとするのが嫌いだ。
ったく。
◇
ノブレス学園、貸し切り教室。
「アレン、私の帽子はどうですか?」
「似合ってるよ、シンティア」
「お前ら、俺の帽子も見てくれよ!?」
いつものトリオ――アレン、シンティア、デュークが嬉しそうに笑ってやがる。
その横では、俺が退学を止めたカルタと、のほほんとしているオリン。
「見てみてオリンさん、クリスマスのリボン買っちゃった」
「わあ、いいねえ。ポリンもクリスマス風にしたんだ」
その更に横には、アレンのことが大好きなトゥーラ。
なぜここにいるのかわからないセシルもいた。
「アレン殿、帽子似合っておるぞ!」
「……あなたはいつも元気ね」
だがどいつもこいつも帽子をかぶってやがる。
つうか――。
「おいシャリー、聞いてないぞ」
メロメロンがあるからと連れてこられたらこれだ。
丁寧な飾りつけまでしてやがる。
つうか、俺はこいつらと仲良くない。
カルタはまだしも、他は全員かかわりのない奴らだ。
今回は。
「ああ、ヴァイス! 来てくれたんだ!」
「……いや、帰るところだ」
「え、なんで!?」
「騒がしいからだ」
「でも、帽子似合ってるよ?」
「あァ?」
アレンの野郎はいつもと同じだった。
どんなことにも全力で楽しみやがる。
……いやでもおかしいな。
今までこの場面を見たことがないのも変だ。
……なんか違う事したか?
記憶を思い返してもわからない。
扉を開けて帰ろうとしたら、柔らかい何かとぶつかる。
「――んぐ、なんだ?」
「わ、ご、ごめんなさい!?」
「エレノア、ヴァイスへのセクハラよそれは」
「お姉ちゃん!?」
エレノアとシエラがいやがった。
相変わらずデカいな。
こいつらも帽子を被ってやがる。
「来年は卒業だろ。遊んでていいのか?」
「あらご心配ありがとう。でもヴァイス、私は強いのよ」
「お姉ちゃん、この前負けてた……」
「う、うるさいわね! 手加減したのよ、手加減!」
確かに勝ったが、それは積み重ねの結果だ。
あの勝負に勝つまで何度挑んだのか。
それを知ってるからこそ、偉そうに語る気になんてなれねえ。
俺に遊んでいる暇はない。
いつ
今回で終わるかもしれないなら、全力を出すしかない。
「ん? ヴァイスどこ行くのよ」
「帰るんだよ。日課の訓練が終わったからな。ここには騙されて連れてこられたんだ」
「ふうん。――エレノア、ヴァイスを着席させて」
「え? わ、わかった」
するとエレノアが、デカいおっぱいをたゆませながら近づいてくる。
俺の肩を掴んで持ち上げ、席に座らせた。
「おい……何すんだエレノア」
「で、でも……今日ぐらいは楽しもう? ね?」
満面の笑み。
けど、こいつには前々回借りがある。
覚えてないだろうが、俺を庇って右腕を失った。
あの時のエレノアの悲鳴は、まだ脳から離れない。
……クソ。
「……メロメロンは? シャリー」
「ふふふ、すぐ用意するから。――それじゃあヴァイスの機嫌が損なわないうちに、クリスマス会を始めたいと思いまーす!」
そういって、シャリーはどこからともなく出したクラッカーをパアンと鳴らした。
ったく、不思議な奴だ。
そしてあらかじめ用意していたらしい料理が運ばれてくる。
何にもしてない俺の居心地が悪いなんて関係がないくらいのご馳走だ。
「ヴァ、ヴァイスくん、これうちで獲れたメロメロンなんだ」
「あァ? それをはやく言え」
すぐさま頬張ると、確かな甘みが口いっぱいに広がった。
「……うまい」
「えへへ、良かったあ」
「アレン、お口にクリームがついていますわ」
「ありがとうシンティア」
「俺の口にもクリームついてるぜー。誰か―、誰かいませんかー?」
「セシル殿、後で一局どうだ?」
「……する」
「ボクも隣で見てみていいかな?」
静かにこいつらを眺める。
今はまだ落ち着いているが、これからもっと大変なことになる。
けど、こいつらにとっては未来。
……ま、楽しみを邪魔をするつもりはねェ。
俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
あのクソったれ魔王を殺す為に。
ついでにこいつらも生き残れば、物語としては完璧だろ。
「あ、あの……」
「エレノア、ちゃんと言いなさいよ」
するとエレノアが、シエラに背中を叩かれながら俺に声をかけてきた。
こいつが立つと胸しか目に入らない。
その手には――なんだこれはァ?
「なんだ?」
「え、ええと……その、クリスマスのプレゼントっ」
「……俺にか?」
「そうよ! ほら、受け取りなさい! 先輩からのプレゼントよ!」
「お、お姉ちゃん!? ええと、ヴァイスくん良かったら……」
「……ああ」
借りは返すのがファンセント家の掟だ。借りを返す為にもらうしかない。
開くと――ハッ、なんだこれは。
「ネックレス? いや――魔法具か」
「う、うん。実用的なものがやっぱりいいかなと思って。攻撃を、一度防いでくれるんだって。もちろん、限度はあるけど……」
「高かったのよヴァイス!」
「お姉ちゃん!?」
……ま、確かにありがたいプレゼントだ。
「ありがとな」
「えへへ、いえいえ!」
すると後ろのシャリーが、つんつんとしてきた。
「仲良さそうだね」
「なんだ、妬いてんのか?」
「別に―」
ハッ、分かりやすい奴だ。
ったく、お前には前回アクセサリーをくれてやっただろうが。
……ったく、毎回同じものあげるのは嫌だから考えるの苦労するんだぞ。
「――後でな」
「え、どゆこと?」
「……わかるだろ」
「え、えええ――えへへ、ええへへえ――もー!」
バンバンと肩を叩きやがる。
お前は手加減が下手なんだよ。
さて、せっかくここにいるんだ。
たらふく飯を食って寝よう。
明日からまた頑張らないとな。
こいつらの……笑顔を守るためにもな。
死ぬなよお前ら。
絶対に死ぬな。
――俺が、何とかするからな。
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