196 アレンの決意

 昔の僕は人を傷つけることなんて考えられなかった。

 幼い頃の友達はみんなやれ冒険者になりたいだの、兵士になりたいだの言っていたが、さっぱりわからなかった。


 けれども、ノブレス学園に入ってから気づいたことがある。

 全力を出し合ってお互いのすべてをぶつけるのは、とても楽しいことだと。


 だからこそ悔しい気持ちが込み上げてくる。


 僕は誰よりも強い能力ギフトを授かった。

 人が死ぬほどの努力をして、0から1にしたものを横から掻っ攫う力。


 それでも誰かを守る為ならなりふり構わず使うと決めた。


 おかげで強くなった。


 なのに、肝心なところでは役立たずだ。


 卑怯なのはいい。

 

 弱くてもいい。


 だけど、誰も守れないのは嫌なんだ。


   ◇


「――隣、いいですか?」

「あら、めずらしい子が来たねえ。――メロメロンジュースをこの子に」

「あ、いえいいですよ」

「どうせお願いがあってきたんでしょう。なら、言う事を聞いておくのよ」


 夏休みエスターム期間に入って、僕は更に卑怯なことを考えていた。

 相変わらず魔族もどきは世界各地で確認されている。

 魔物だって、以前よりも活発化していた。


 厄災が次にいつ起こるかわからない。


 シャリーとデュークには、何をされるかわからないからやめたほうがいいんじゃないか? と丁寧に言われた。

 確かにそうかもしれない。


 だけど僕は、卑怯でズルいんだ。


 小さな街の酒場、人づてに訪ねていって、ようやく見つけることができた。

 カウンターで座っているエヴァ・・・先輩を。

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