214 ノブレスのお約束

 火竜が――叫ぶ。


「グォオオオオッアアア」


 オリンは力も奪っているらしい。

 間髪入れず、リリスとトゥーラ風竜に飛びついて攻撃を仕掛ける。

 地竜は動かない。好都合だ。


 全力だ。


 不可能を可能にする。


 まさかにそのとき――。


「……やめろ人間たち。もう、終わりだ」


 地竜が、ただそう言った。

 驚いて視線を向ける。それが真実の言葉だと気づく。


「やめなければ、殺す」


 «全てを無に帰す破壊魔法を放つ»


 自身の魔力と魂を燃やし、辺り一体を破壊するつもりだ。

 しかしもう一つの未来も見えた。


「お前ら、やめろ!」

 

 俺は叫び、攻撃を止めた。


 そして地竜が、静かに続ける。


「……信じよう。水竜を攻撃した者ではないと」

「なんだと地竜、こいつらは同じ人間だ。誰が攻撃したのだと、関係ない!」

「火竜の言う通りだ」

「……違う。人間はそれぞれ意思を持つ。――誤解を認めよう。そして、対話をしようではないか」

 

 地竜は随分と話しがわかるらしい。

 といっても奴らの言い分もわかるが。

 

「俺たちは構わない。だが、そいつらを制御してもらわなきゃ困る」

「大丈夫だ。我らの意識は既に共有されている」


 信じられなかったが、それは事実らしく、火竜と風竜は納得していないものの、攻撃を仕掛けて来ることはなかった。

 満身創痍で地面に降り立つ。


 地面で倒れている水竜は既に回復しつつあった。


 ハッ、バケモンだな。


「……ヴァイス君」

「大丈夫か、オリン」

「ああ、でも、もう使い物にならないかも……」


 腕は酷い損傷だった。

 治癒魔法で何とかなるレベルではない。


「……すまない」

「気にしないで。何とか、わかってくれたみたいだしね」

「リリス、トゥーラ、傷は?」

「大丈夫です。でも、オリンさんが……」

「私も問題ない」


 後ろで、ビアドも大丈夫だと言った。


 地竜が地面に降り立つ。


 何とか対話までこぎつけたが、ここからの返答次第でまた戦うことになるだろう。

 オリンの傷も急いで治さなきゃいけない。


 しかしそのとき――。


「……怪我を治そう」


 次の瞬間、風竜が息吹を吐こうとした。


 残り少ない魔力で魔眼を発動し、未来を確認。

 リリスたちが怯えるも、俺が制止する。


 ――ヒュウウウウ


 それは、回復の息吹だった。

 全員の身体が治っていく。


「ハッ、すげえな」

「――それにこれでは話しづらいだろう。お前たち」

「……ふん」


 地竜の言葉に、火竜が不満そうに答えた。

 しかし次の瞬間、四竜の身体が輝く。


 神々しい光だ。目も開けてられないほどに。


 しかし次に現した姿に絶句した。

 いや、なぜわからなかったのだろうか。


 この世界はノブレス・オブリージュ。

 原作はめちゃくちゃ人気があった。


 お約束は外さない、それが、人気の秘訣だ。


 つまりどういうことか?


 ――人間の姿に変身できる。


 それも、クッソ――美少女に。


「これでいいだろう。一つだけいっておくが、我らは人間とは違う。ただそう見せているだけだ」

「この姿、嫌いなんだよ。髪の毛が赤なんてダサい」

「……私は別に構わないけど」

「やっと回復した……まだお尻痛いよぉ」


 地竜は、たゆんたゆんのお姉さん。茶色の髪で、おめめぱっちり。

 火竜は、ショートカットの気が強い赤髪女の子で、ちょうどいいたゆん。

 風竜は、知的な雰囲気の女性で、なぜか眼鏡をかけている。

 水竜は、小さなロリの青髪、泣きべそをかいている。


 これにはさすがのオリンも、リリスも、トゥーラもびっくりしていた。

 ビアドなんて顎が外れるほど驚いている。


「さてヴァイスと言ったか。お前たちの願いは、ここから離れてほしいだけか?」


 地竜のたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆん。


 クソ、さっきの姿のほうが話しやすいじゃねえか。



https://kakuyomu.jp/works/16817330669743197880

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