215 お約束

「それでヴァイスとやら、何が望みだ?」


 地竜の溢れんばかりのたゆんが、竜が美少女になるという出来事が、どんなことにも動じないはずのノブレス学生と傭兵騎士を困惑させていた。


「ど、どういうこと……なんで人間の姿にそれも……女性? ボク、夢を見てるのかな」

「我らと同じ姿になれるのか? それも、女性に……」

「これは確かに……驚きです」

「ああ……まさかの出来事に目を疑いそうだ」


 残念ながらお約束中のお約束だ。

 むしろこれ以上ないほど火の玉ストレート。


 俺からすれば至極当然なのだが、逆にその冷静さが驚かれている。


 あのリリスが、震えていた。


「ヴァイス様、な、なぜ普通なのですか。驚かないのですか。竜が、人間の女性になったんですよ……」

「……訓練はしてるからな」

「す、凄いです」


 いや何も凄くない。

 マジで凄くない。


 むしろ今まで気づかなかった自分が恥じたいくらいド直球だ。


 と、そんなことを考えていたら話が進まない。


 こいつらの強さは何一つ変わってない。

 返答次第ではまた同じことの繰り返しだ。


 まずは敵意をないことを見せる必要がある。


「リリス、アレ・・を出せ」

「え、アレって、アレですか!? 村へのお土産がまだ余ってますけど……いいいんですか!?」

「ああ、全部出していい」


 俺の言葉に、リリスが驚愕していた。


「よ、良いのですか!? 全部ですか!?」

「構わない。緊急事態だからな」

「は、はい!」


 背に腹は代えられない。

 何かを得るためには 同等の代価が必要になる。


 四竜は、鋭い目つきで睨んでいた。


「何をコソコソとしている? 企んでいるのか?」

「地竜、やっぱこいつら怪しいよ」

「火竜、落ち着いてください。まだ話し合いは始まっていませんよ」

「んっ、なんか……甘い匂いする?」


  ◇


「にゃるほど……ここまでされたら仕方ないですね……ヴァイスの言う通りにしますか……」

「おい地竜、それ私の分だぞ!」

「火竜、あなたは食べすぎです」

「美味しい、美味しいねえ」


 二回目、どんなことにも動じないはずのノブレス学生と傭兵騎士が困惑していた。

 俺がおやつに持ってきていたメロメロンの詰め合わせ、ケーキやお菓子をたらふく食べているからだ。

 それも幸せそうに。

 地竜なんて食べた瞬間に敬語になってやがる。


「ボク、竜がケーキ食べるなんて初めて知ったよ」

「我も驚いた。ヴァイス殿は何でも知ってるんだな」

「流石です。好みまで把握しているなんて」

「ノブレスの首席は……凄いな」


 いや、違うんだ。これもお約束なんだ。

 いかにもヤバそうな竜が人間の姿に変身、甘いものやお菓子を食べてホクホクする、もうなんというか誰でもわかることなんだ。


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