216 初級中の初級

 みんなわかっていない。

 こんなの初級中の初級だ。

 とはいえまあ、俺の手柄にしておくか。


 威厳は大事だからな。


「で、話した通り俺たちは無関係だ。近くの村人が困ってるんでな。少し離れた場所、できれば人里がいないところに離れてくれるとありがたい」

「ふう……ご馳走様。――わかりました。丁寧な土産まで用意してくれていたことを鑑みてその願い聞き入れることにします」


 地竜の発言のあと、オリンとリリスが嬉しそうに声をあげた。

 だがまだ終わってはいない。


「助かる。それと水竜に尋ねたい。誰に攻撃されたんだ? 人間、といっていたが、どんな風貌だ?」

「火竜、それ私のだよお」

「このメロンぷちケーキ二つ目だろ、水竜!」


 ……早く食べてくれ。



「ええと、私が攻撃されたのは白くて長い髪の女性だった」

「……頭に角は? もしそうなら人間ではなく魔族だ」

「どうだろう。あ、でもあったかも」


 ……やはりか。

 おそらくもう一人のエヴァ。

 あいつらは魔族でありながら異質な魔力を放っている。

 人間と勘違いしたんだろう。


 村から守るために、なんてありえない。

 何を……望んでいた?


「いつ攻撃された?」

「一週間ぐらい前かな」


 それを聞いて、風竜が補足する。


「私たちは全員で攻撃しました。とても強かったですよ。本気を出したら消えていきましたが」

「……そうか」


 四竜を1人で相手にして無事に逃げられるのか。

 クソ、俺みたいに努力してるんじゃねえだろうな?


 偶然と片付けるにはあまりにもおかしい。

 四竜のことをあらかじめ知っていた。おそらく、魔王が。


 部下を派遣させ、何かを企んでいたのだろう。

 蹂躙か、説得か、それとも別の何か。


 ……考えてもわからない。


 ただやはりノブレス・オブリージュについて詳しい可能性が高い。

 魔族もどきの復活、エヴァそっくりのネルを仲間にしていることから俺よりも。


 そのとき、火竜がほっぺにメロメロンの果実の一部をつけながら前に出た。


「ま、あんたらのことは信用するよ。そいつらが魔族だってことも、人間がそれなりにいい奴だってことも」


 それに対し、オリンが。


「だったら、ボクたちと利害は一致してると思うんだ。魔族はこれからも無差別に大勢を狙う。そのとき、力を貸してほしい」


 こういった言葉を躊躇なく言えるのは、実にオリンらしい。

 ま、アレンも言いそうだが。


 それに反応したのは地竜だ。


「私たちは中立です。どちらかに加担することはありません。――ですが、水竜に被害が及んだ以上、多少の力添えは考えておきます。ですが――」


 地竜は、俺を見ていた。

 もうわかっている。


 目が訴えているからだ。


「任せておけ。ちゃんと捧げものメロメロンは用意する」

「……いいでしょう。殊勝な人間あなたたちの忠誠はやぶさかではありません」

「……ま、私もそれでいいけど」

「私も構いませんよ」

「お尻を叩いた相手は許さないよ!」


 兎も角これで終わりだ。

 如何にもノブレスの開発陣が作りそうな一筋縄ではいかないエピソードだった。


 ――――――――――――――――

 あとがき。

 次回、四竜編の終わりです。

 そしてようやく長い夏休みエスタームが終わります。


 久しぶりに会う面々はどうなっているのでしょうか。

 また、試験はあるのでしょうか。



 このたび新連載を始めました。

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