212 オリンの意思

「つらいなら休戦するか?」

「バカなことを――ふざけるな!」


 対話はできないが、冷静さを失っているのはいいことだ。


 オリンは何度か使役を試みている。

 そのたびに力を奪っているらしく、驚いた事に弱体化も兼ねているらしい。


 魔物だけに有効だとは思うが、それにしても圧倒的な能力。


「――なら――攻撃の矛先を変えるまでだ――」


 しかしそのとき、水竜が、ビアドに矛先を向けた。


 «とてつもなく大きな魔力砲を放つ»


 最悪だったのは、後ろ村があることだ。

 遠く離れた場所。威力は著しく弱まるだろうが魔法抵抗力のない村人には致命傷となる。

 それにいち早く気づいたのは、驚いたことにビアドだった。


 攻撃に参加できない分、ありとあらゆる事を想定していたのだろう。

 なけなしの魔力で、少しでも離散させようと防御術式を詠唱した。


 だがおそらく受ければ死ぬ。


 リリスは、単身で地竜の背に乗り、誰よりも凄まじい動きで翻弄していた。

 それはトゥーラも同じ、不自然な壁アンナチュラルを使いながら一撃必殺ワンヒットキルで着実に敵を疲弊させている。


 デビはまだ復活できない。


 俺は急いで防御シールドを詠唱するも、位置関係的に間に合わない。

 魔力砲が放たれる。


 そのとき、オリンが前に出た。


 両手の使役術式の魔力を防御に回しているらしい。


 とてつもない攻撃が、オリンにぶち当たる。


「ぐぁぁっ……くっ……」


 急いで身体強化パワーアップを後ろから付与するが、それでも耐え切れないほどの威力。

 

「オリン、待ってろ!」


 少し無茶だが、やるしかない。

 俺は、空中で【癒しの加護と破壊の衝動】を発動させた。


 一瞬で身体中にはちきれるほどの力が漲る。


 血液が沸騰し、筋肉が千切れる、骨がきしみ、脳が焼けるようだ。


 だが今なら――。


「――クソ蜥蜴野郎が!」


 俺は、思い切り剣を振りかぶった。

 水竜は致命傷を避けるべく体を揺らす。


 だが遅い。刃が尾に当たると、ズブズブとめり込んでいく。


 ここまで追い詰められたことなんてないだろう。

 耳をつんざくような悲鳴をあげる。

 唯一手負いだったのもあるが、まずは一匹、とどめの一撃だ。


 しかしそう思っていた矢先――オリンの悲鳴が響き渡った。


「ぐぁぁぁつああぁあっああ――」


 慌てて振り返る。火竜の攻撃が右腕に直撃したらしい。

 おどろおどろしいほど皮膚が焼かれ、完全に使い物にならなくなった。


 それでもギリギリ魔法抵抗力を保っていたのだろう。

 とはいえ皮膚がただれ、腕がぶらんと下がる。


 回復魔法で治せるとは思えない。


「……ひ……るむな!」

 

 しかしオリンはあえて強く叫んだ。

 動揺させないように、味方俺たちのために。


 オリンは正義感に溢れている。ゆえに、原作では嫌いな奴が大勢いた。


 だが俺は認めている。お前の芯の強さは、誰よりも素晴らしい。


 なら俺が、その上をいかないわけにはいかない。


「――お前は、ここで退場しろッ!」


 水竜に続けて攻撃を与えた。

 それは更に致命傷となり、叫びながら堕ちていく。


 ようやく一匹目、しかし魔力のほとんどが尽きている。


 だがリリスは攻撃を受けたのか左腕を抑えていた。

 トゥーラも足を怪我したらしく、右足一本で立っている。


「……水竜は死んではおらぬ。だが――お前たちは終わりだ」

「人間がここまでやるとは思わなかった。しかし、これで最後だな」


 火竜、風竜が余裕を見せる。おそらく魔力の残りを感じ取ったのだろう。


 だが――。


「ハッ、ここからが本番だろ」

「そう……だ。ボクたちは負けない」

「当たり前です」

「我も諦めぬよ」

「ハッ、まったく……俺もだ……」


 最後まで諦めない。

 俺たちは、ノブレスの学生だ。


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