203 四竜

 丁寧なおもてなしを受けたのも束の間、俺たちはすぐに森へ足を運んだ。

 時間は夕方、ゆっくり休んで明日からでいいと言われたが早い方がいいだろう。


 疲れてはいる。だがそんなヤワな鍛え方はされていない。

 寝ずに森の中を行進するなんて日常茶飯事だ。


 俺が先頭、続いてトゥーラ、リリス、間にビアド。

 後ろには魔力感知に鋭いオリン。


 順調、と言いたいところだったが、既に異変が起きていた。


 森からベルベアーが現れたのだ。

 クマに似ている魔物だが、強靭な肉体に魔力が宿っているので固い。


 ビアドが、剣を抜いて叫んだ。


「ま、マズイぞ! こいつは――」

「ああ」


 魔法剣デュアルソードで一撃。

 真っ二つに斬られたベアーが左右に分かれて落ちる。


「リリス、トゥーラ、警戒を強めろ。オリン、引き続き感知を頼んだぞ」

「了解しました」

「わかったぞ」

「おっけい。でも、明らかに変だね。瘴気が濃くなってるよ」


 すると、ビアドの足が止まっていた。

 リリスが、大丈夫ですか? と声をかける。


「……いやすまない。まさか一撃とは」

「ヴァイス様は特別ですから」

「ああ、さすがだ。しかし、魔物はいないという話だったのに、変だな」


 ビアドの言う通りだ。

 だがさっきの魔物はこのあたりに生息していないはず。


 逃げてきたか、集まってきたか。


 竜がいることを考えると前者だろう。


 気にかかるのは、竜の魔力が一切感じられないことだ。

 

 以前、崖から落ちたときはそれこそ巨大な魔力にすぐ気づいた。

 目的の場所に近づいているというのに、何もわからない。


 ……ノブレス・オブリージュめ、何を考えてやがる。


 それから俺たちは無言で警戒を強めながら前に進んだ。

 魔物は何度か現れたが問題なく駆逐する。


 オリンは魔物のことが嫌いじゃない。だがこういう時にいちいち喚いたりしない。

 しっかりと何が起きているのか、何を守ればいいのか、ちゃんと判断している。

 

 そういうところは尊敬に値する。

 俺と違って正義感で動くところはあるが、割り切れるところはアレンより好感が持てる。


 そして予定通りの場所に近づき、魔力を最大限まで落とす。


 静かに歩き続け、ようやく滝の音が聞こえてくる。


「ヴァイス様、ここまで近づいて竜の魔力が感じないなんて、ありえるんでしょうか?」

「……ありえないな。オリンの感知すら反応してないとなると明らかに異常だ」


 だが一つだけ、たった一つだけ心当たりがあった。


 ……ありえないがな。


 まず俺が姿勢を低くして滝に視線を向けた。


 観察眼ダークアイを使いたいところだが、魔力が大きすぎる。

 

 断続的に流れる滝。

 その後ろに、とんでもないものを見つけた。


 無色透明に近い鱗。

 魔力を宿らせていないにも関わらず覇気を放っている。


 巨大なかぎ爪は、かつてのおそろしさを思い出させた。


 だがそれよりも気づく。


「……これは」


 俺の横顔で気づいたのだろう。オリンが、駆け寄ってくる。

 魔物について造形の深いオリンだ。


 同じように顔色を変えた。


「ヴァイス君まさかあれって……」

「ああ、四龍・・の一匹、水竜だ」

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