202 村のお願い

「こちら山から取れる葉で煮たお茶です。どうぞ」


 王都から約一日。

 大型の馬車ではあったが、山道が揺れすぎてあまり眠れなかった。


 だがトゥーラはお尻を鍛えているとの言葉通りグースカ。

 今も、一人だけ元気だ。


「ありがとうなのだ!」


 村は想像していたよりも大きかった。

 子供たちも数十人ほどいる。

 基本的には畑と狩りで生活をしているという。


 普段は魔物なんていないらしいが、一週間ほど前から竜が滝の近くを寝床にしているらしく、近寄れないとのことだ。


 竜は怒り村を焼き尽くす、というノブレスでのことわざがある。

 それに倣い、特に余計なことはしてないという。


 そういえばお茶は久しぶりだなと啜る。

 ほどよい暖かさが口から喉、胃にストンと入るとじんわりと身体が熱くなる。


 ……美味しいな。


 そして来訪者はめずらしいのか、ドア付近では子供たちが俺たちを見ていた。

 リリスが、ニコニコと笑顔で手を振る


「こんにちは」


「えへへ、こんにちは!」

「あっ! 抜け駆けだぞおまえ!」

「こんにちはー!」


 だが村長があっちへ行ってなさいと言って隠れる。

 人と関わるのは面倒だ。できれば何も知りたくない。


 他人の人生を知ると、それだけ責任がのしかかる。


 自分で精一杯な俺は、できるだけ傍観者でありたい。


 とは思っている。


「しかし本当にありがとうございます。ビアド様、どうかよろしくお願いします」

「あ、いえ。すみません、私もお手伝いしますが、基本的には道案内なんです。竜を退けるのは彼らが」


 白髪交じりの村長、といっても思っていたより若い。

 ヤンソンと呼ばれる初老が頭を下げる。


 ビアドは申し訳なさそうに頭を掻いたあと、丁寧な所作で俺たちに手を向けた。

 馬車の中で彼はとても紳士だった。携帯食料と飲み物はもちろん、山道での移動でも常に気にかけてくれていた。

 随分年上だというのにだ。


 聞けばノブレスには憧れがあったらしく、そのことからも年下の俺たちを尊敬してくれているらしい。

 先人に感謝をしつつ、オリンやトゥーラ、リリスがにこやかに話しをしていた。


 驚いたのは、俺の事を知っていたことだ。

 冒険者の大会の閲覧席にいたらしい。


 アレンをボコボコにやっつけた事を思い出せたのは愉快だった。


 村長は驚きながら、いや少し不安げに目を見開いた。

 察したのか、ビアドはすぐに細くする。


「心配しないでください。彼らはノブレス学園の中級生、以前、大規模侵攻でもソフィア王女を助けてくれたのです。実力は確かですよ。私なんかよりも強いです」

「こ、これは失礼を!?」

「気にするな! だが我らは強い! 特にこのヴァイスは凄いぞ!!!」


 トゥーラがニコニコ笑顔で、リリスもそうなんですよ! と胸を張る。

 何でもいいがハードルを上げるのはやめてくれ。


 ちらりと視線を横に向けると、どこに消えたと思っていたオリンが子供相手にピピンを見せていた。

 子供好きなのだろう。確か原作でもそう書いていた気がする。


「このリス可愛いね、お姉ちゃん・・・・・!」

「へ? ボ、ボク?」


 ま、それも当然の反応だが。

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