360 メイドたゆん

「ヴァイス先輩! どうっすか、どうっすか!?」


 ミルク先生のコスプレ、後半の部をどうするのかと頭を悩ませながら、学園祭代表の特権を使って、下級生の棟に来ていた。

 下級生は演劇をするらしく、ベルクがなぜかゴブリンの恰好をしている。

 普通ならテンションが下がりそうなものだが、やけに嬉しそうだ。


「ゴブリンだな」

「惜しいっす! これ、ゴブリンキングなんすよ!」


 …………。

 確かによくみると頭に冠を付けていた。

 ゴブリンを統括する王様の個体種で、確かに強いが、そんな嬉しいのか?


「ベルク、集団練習しようぜ!」

「そうだ! ゴブリンキングがいねえと始まらないぞ!」

「早く早く!」


 するとベルクは「ちょっと練習があるんで失礼しまっす!」と言いながら仲間の元に駆け寄っていく。

 まるで伝統芸『ハカ』のように叫び、こん棒を振り回していた。


 何とも言えない光景だが、随分と打ち解けているらしい。

 既に下級生の退学者は4割を超えたらしく、俺たちのときと比べても多いそうだ。


 それでも笑顔で楽しめるのはいいことだな。


「ヴァイス先輩、来てたんですね」


 するとそこに現れたのはメリルだ。どうやら魔物側ではなく人間側らしく、魔法使いのローブを着ている。なるほど、彼女は変わらずか。


「魔法使いだな」

「え、僧侶ですよ?」


 …………。

 いや、別にコスプレ当てクイズをしにきたわけじゃない。

 インスピレーションを受けて、想像を膨らませようとしていただけだ。

 するとメリルは、なぜかもじもじしていた。


「どうした?」

「あ、あのその……シンティア先輩のチェキって優先的に撮れたりしないですか……?」


 チェキという言い回しに驚いた。さすがノブレス。たかだか一年の差でジェネレーションギャップを感じる。

 これが、歳を感じるということか。


 一応、コスプレカフェは写真撮影を可能にしている。

 シンティアとリリスのコスは既に決定しているが、まだ表には出していない。


 とはいえ、既に俺たちのコスプレは話題になっているらしい。

 だがそれも、上級生のメイドカフェに勝てるかどうか。


 と、考えていたら、待っているメリルが不安そうだった。


「伝えておく。代表特権といえば何とでもなるだろう」

「やった! ありがとうございます! 楽しみです!」


 今だメリルは下級生首位で、ベルクにその席を明け渡していない。

 俺と同じで常に研鑽を積んでいるのだろう。ノブレスは飴と鞭だ。彼女にはその権利がある。


 ただ、一度だけシンティアに相談しにきたと聞いた。

 自分の手で同級生を退学させて、心が折れかけたらしい。


 気持ちはわからなくもない。

 だが、半端な気持ちのままなら倒された奴らも余計に腹正しいだろう。

 今はもう立ち直っているみたいだが。


 そのまま他の教室ものぞいたが、俺の中でビビッとくるようなものはなかった。

 次は上級生の棟だ。


「……ふう」


 普段来ることのない上級棟。

 廊下に代り映えはそこまでないが、やはりひしひしと魔力が伝わって来る。


 するとそこに、メイド服を着たプリシラが現れた。

 どうやら衣装合わせをしているらしい。


 まだまだ忙しくてあまり学校にいないらしいが、行事に参加できるほど落ち着いてきたのだろう。


「ヴァイスさんではないですか。どうかしたのですか?」


 奴隷紋はすっかり消えて、自然な笑顔を見せている。

 後、メイド服がやたら似合いやがるな。いや、それもそのはずか。リリスと同じで本場だ。

 ちゃんと麻布も被っているし、クラシックスタイルに身を包んでいるのは解釈一致だ。


「プリシラ先輩・・たちの視察にね」

「ふふふ、どうしたんですか。そんな丁寧ではなかったでしょう? 以前戦ったときは、私のことを呼び捨てにしていましたよね」

「今は試合じゃないので、ちゃんと敬いますよ。もちろん、ニール先輩にも」

「その言葉、本人が聞けば喜ぶと思いますよ。ただ、ちょっと今は忙しくて」


 目で合図をされて教室をのぞき込むと、教室の中心でニールが話していた。

 以前から学生への人当たりは良かったが、今はより一層求心力があると聞いている。


「楽しそうなんです。私から見ても、凄く幸せそうです」


 だが俺の目からは、それを見ているプリシラのほうが幸せそうに見えた。

 薬指に、婚約指輪がはまっている。

 はっ、まあ俺には関係ないことだ。


 だが心が安定してくれていたほうが、何かあったときに助けてもらいやすいだろう。

 しかしエヴァの姿はどこにもなかった。

 代わりに、とんでもないもの・・を見つけた。


「お、お姉ちゃん!? き、きついよ」

「いけるいける。これで優勝よ優勝! ヴァイに一泡吹かせて、偉そうにして そして言うこと聞いてもらいましょ!」


 シエラが、エレノアにメイド服を無理やり着させているのだ。

 シャツの上からみたいだが、たゆんが大きすぎて入らないらしい。


 ちなみに身長差があるので、シエラは椅子に乗っている。

 もちろん誰もそれについて言及しない。


 俺はプリシラに断りを入れて、静かに歩み寄る。

 それに気づいたエレノアが恥ずかしそうに頬を赤らめていた。



 ――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 更新をあけたらPvがガタ落ちしているので、毎日更新に戻そうと思っています( ;∀;)

 文字数は少ないかもしれませんが、そのあたりはサポート限定でまとめて投稿するかもしれません。

 もの凄く忙しくて、色々と試行錯誤するのでご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますm(__)m

 次回の更新日は、三日後で、文字数1500-2000ほどかもです。よろしくお願いします!



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