269 第四回、ヴァイス・ファンセントを語る会 in ノブレス上級生
「それでは、私、プリシラ・シュルツがまとめさせていただきます」
ノブレス魔法学園の一室、白く丸いテーブルを囲んでいるのは、プリシラの他に、ニール、エヴァ、シエラ、エレノアだ。
ウィッチ姉妹は卒業試験を終えたものの、まだ補欠での授業が残っている。
面倒なので、ものすごくゆっくり、ゆっくり単位を取っているのだ。
普通はそんなことできないのだが、成績優秀だからこそ可能なだけである。
この時代にはそぐわないホワイトボードには【ヴァイス・ファンセントがなぜあそこまで強いのか】と書かれていた。
この会は、エヴァが発案した。
ちょっとみんなから聞きたいなあと言い出し、だが結局はまとまりが悪く、プリシラが前に出ることになったのである。
まず手を上げたのは、エレノアだ。
たゆんたゆんと、何かが揺れる。
「やっぱりヴァイスくんは、誰よりも努力家だと思うんだよね。も、もちろん才能も凄いんだけど、それに負けないくらい、というか! わ、わかるかな……」
たゆんたゆんたゆん。
自信なさげな発言だが、何かをみてエヴァが「ふふふ、凄いわねえ」呟く。
それに気づいたシエラが、負けじと胸を張った。
「私も努力してるわ。牛乳も飲んでるし、毎晩ジャンプして踵に衝撃も与えてる。魔力量だって、エレノアに負けてないわよ」
エレノアが首をかしげていると、エヴァが「ふふふ、努力家ねえ」と呟く。
それに対し、真面目に答えるのはニール。
「アレン同様、彼らには明確な目標があるのだろう。奴隷撤廃のような成し遂げたいことがヴァイスにもあるとみて間違いない。といっても、魔族が関係していることは明らかだが」
丁寧な考察に、プリシラが頷く。
うん、やっぱりニール様は素敵だと。
だがそこで口をはさんだのは、エヴァだ。
「あら、でもニールも成し遂げたいことがあったのに負けちゃったじゃない? それとこれとは別なんじゃないかしら」
ちなみにニールとエヴァの関係は良好だが、昔はよく揉めていた。
また、ニールがシエラの悪口を言った際、エレノアが暴れたこともある。
それは、とても、とても大変だったと、同級生は口をそろえて言う。
「……気にくわない言い方だな。しかしエヴァ、君も体育祭で負けたのだろう? それはどうなんだ?」
「ふふふ、私の成績をチェックしているのねえ。そんなに気になるの? もしかして好きなのかしら」
「なんだと?」
落ち着いてくださいとプリシラがなだめるも、シエラだけは段々と笑顔になっていく。
争い事を見ているとテンションが上がるタイプなのである。
当然だが、エレノアは慌てるタイプ。
「お、落ち着いて~!?」
「いいわねえ。やっぱりノブレスはこうでなくっちゃ!」
もう少しで一触即発というところを、プリシラが叫んで止めた。
ギリギリなんとか。シエラが悲しむも、エレノアがホッとたゆんを撫でおろす。
「努力家は間違いないと思います。ですが、何よりも執念ですね。ニール様の言う通りなのは間違いないでしょう。エヴァさんは、
最後だけ少しだけ強めに、プリシラが訪ねる。
自分から発案したというのに、そうねえと聞かれた風に切り出した。
「闇と光の属性のおかげなのは間違いないわ。それに不可侵領域、あれはよくできてるわあ。でもやっぱり、私は
具体的に、と言った割に、少しだけ含みを持たせる。
わざとか、わざとじゃないのかわからないが、シエラ我慢できずに聞き直す。
「……アレって?」
「ふふふ、シエラ先輩は何だと思いますか?」
同じ上級生になったものの、エヴァはしっかりとシエラを先輩だと敬う。
それに少しだけ満足したシエラが、あいいかと納得した。
だがそこにシンプルな疑問を抱いたエレノアが答える。
「わかりました! アレは、デビくんのことだ!」
デビくん強いもんなあと頷きたゆん。
だがそこで、ニールがため息を吐いた。
それに気づいたシエラが、少しだけ頬をピクリとさせる。
妹の事をバカにすると怒るのだ。
「あらニール、じゃあアレとは何よ」
「それはエヴァが答えたらいい」
「だから、その見解を聞きたいだけよ。ヴァイは強い。だから、あなたはそれをどう思うか」
「僕が直接戦ったのはアレンだ。認めてないわけではないが、お前たちと違って無様に敗北していない」
その言葉が引き金となり、シエラが
ニールは自然回復を上限まで引き上げ、抵抗を示す。
当然のように止めるのはプリシラだ。
「ちょっと、いい加減にしてくださいよ! エヴァさん、アレをちゃんと答えてください」
「アレねえ。でも、やっぱりアレだと思わない?」
ちなみにエヴァがこの会を発案したのは、中級生たちがやっていたと聞いたからだ。
自分もやってみたらどうなるかと思ったのだが、現状、既に満足している。
争いごとを見たいのは、エヴァも同じであった。
だがニールもシエラもバカではない。
エヴァが怒らせようとしていたのはわかった。
しかし、それで止められる二人でもない。
「シエラ、君とは一度決着付けたいとはおもっていた。ここでやるか?」
「ふん、回復少年如きがが私に勝てるとでも?」
シエラのその物言いに、プリシラが口をはさむ。
「シエラ先輩、それは言いすぎですよ」
「あらそう? 回復少女」
「ちなみに言っておくが、君の方が小さいぞ」
ニールの一言に、エレノアが瞬間沸騰した。
「今……お姉ちゃんをバカにした?」
それから四人は、まるでタッグトーナメントのように構えた。
エヴァは嬉しくて嬉しくて、アレアレアレアレーと叫んだ。
「ふふふ、いいわねえ。ここまでみんなを虜にさせるヴァイスくんは、本当に強くて凄い子だわあ」
人の魅力は強さだけではない。
皮肉にも、最強だからこそエヴァ・エイブリーは心からそう思っている。
ちなみにアレとは、何も考えていない。
「プリシラ、ここで決着をつけるぞ」
「わかりました」
「エレノア、あなたの闇で回復なんて消しちゃいなさい」
「わかった」
――――
――
―
それから数十分後、たまたま部屋の前を歩いたヴァイスだが、凄まじい魔法の光で扉を除く。
するとそこでは、最凶の未公開シーンが繰り広げられていた。
プリシラvsエレノア
ニールvsシエラ
そしてなぜか、エヴァが審判をしている。
「ニール様への悪口は許さない!」
「お姉ちゃんの悪口は許さない!」
「それで終わりか? 鎌女」
「よく言うわ、回復男」
その瞬間、ヴァイスは少年の心を取り戻していた。
自分が初めてプレイしたノブレス・オブリージュ。
あの感動と興奮。
絶対叶うことのなかったタッグ戦。
「……すげえ」
手に汗握る攻防は、いつのまにかあのヴァイスを笑顔にさせていた。
ノブレス学園で誰よりも必死な少年、そんな彼だが、誰よりもこの世界を愛している。
皮肉にもそれに気づいたのは、エヴァだけだった。
「なるほど、あの子は意外にも、この世界が好きなのねえ」
それこそが強さの秘訣だろう、エヴァだけが確信するのだった。
ちなみにこの戦いがあまりにも過激となり、ミルク、ココ、クロエ、ダリウスが止めることになる。
もちろんそれも未公開。
ヴァイスはその日、思い出し興奮で眠れなかったという。
「……今日は楽しかったな……」
たまにはこんな日もいい。
そう思いながら眠る、ヴァイス・ファンセントであった。
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