309 棒立ち筋肉

「お前らほんと仲良しだな! うんうん、いいことだ!」

「黙れ棒立ち筋肉」

「ぼ、棒立ち筋肉……?」

「前回の試験、お前は役立たずだったからな。いい名前だろ?」


 セシルも守れず落とされやがった。このくらいは当然だ。


「あぁん!? ヴァイスてめぇ、俺は筋肉を自由に動かせんだよ! ピクピク動く大胸筋を見せてやろうかぁ!?」

「まずは貴族学園からやり直して、読解力を身に着けてこい」

「ああん!?」

「もういい加減にして! ほら、先生たちも移動するみたいよ!」


 ったく、貴重な未公開シーンを邪魔しやがって。


「喧嘩で荒々しいヴァイス君も……カッコイイハァハァ」


 視界の端、人影に隠れてルナを見つけた。

 変態度が上がってんじゃねえか?


「では皆さん、今回の試験をおさらいさせていただきます」

 

 いつものようにクロエが生徒たちの前に立つ。

 今回は非常に分かりやすいが、やはりまた趣向を凝らしている。


「荒野のどこかのに四つの祠を立てています。そしてその一つ一つに名前が記載しています。それは、私たちの教員の二つ目の命です」


 つまりこうだ。

 俺たち生徒には選択肢が与えられている。


 ひとつは教員を落とす。単純明快、倒せばいい。

 ふたつめは祠を破壊する。例えばミルク・アビタスと書かれた祠を壊せば、戦線離脱するというわけだ。


 これはただの試験ではない。

 重要人物を想定した実践形式みたいなものだ。


 ソフィアのときも同じような感じだったが、あの時は多くの助けが必要だった。

 決して俺だけじゃ勝てなかった。


 今回こそ、俺一人の力でも圧倒してやる。


「祠を倒す役割と先生たちを足止めする役割に分かれるか?」

「確かに、それいいかもね」

「祠の場所が重要だな。それぞれ固まってるんだろうか」


 情報はそれだけだった。

 原作にもない新しいものだが、奴らはわかっていない。


 相手に誰がいると思っているんだ?


 間違いなくココが防御を展開しているだろう。

 そんな生易しいもんじゃないと容易にわかるはず。


 だがバカは必要ない。

 ちゃんとわかる奴はわかっている。


 もちろん、誰よりも先にわかっていたやつもいる。


「セシル、大方予想どおりか?」

「そうね。下級生とは連絡はとれても、連携は取れないんじゃないかな」

「気にするな。ベルクとメリルにも好き勝手にやらせているほうがいい。下手な連携は戦況を悪化させる。厄災と違って死ぬわけじゃない。時には犠牲も必要だ。わかってるな、セシル」

「もちろんよ。バトル・ユニバースと一緒にするのは良くないけれど、勝つ為には仕方ないこともある」




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