怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった

菊池 快晴@書籍化進行中

ノブレス・オブリージュ

001 凌辱悪役貴族

「ひゃあああ……ああんっ!!!」


 黄色い声、いや、可憐な悲鳴がその場に響いた。


 ……え? だれ? ここどこ?


 俺はさっきまでゲームをしていた、だが気づけば目の前に女性がしゃがみ込んでいた。

 いや、正しくはあられもない姿・・・・・・・で縄に縛られている。・・・・・・・・・


「どどどどど、どういう……こと……」


 驚きすぎて馬を落ち着かせるみたいな声が出てしまったが、落ち着きたいのは俺である。


「ヴァイス様、……どうされましたか?」


 前を向いたまま横顔だけ振り返った女性が、心配そうに俺に声をかけた。


 こんな時になんだが……もの凄く綺麗な子だ。瞳が輝いて、金色の髪はふわふわで靡いている。

 でも、どこかで見たことが……。


 ふと自分の手元を見ると、右手には鞭が握られていた。


 ……ん? ヴァイス?


 縛られた女性、メイドっぽい服、鞭、ヴァイス様、煌びやかな室内。


(もしかして俺……凌辱悪役貴族のヴァイスじゃないか!?)


 慌てて隣に立てられていた姿見すがたみを確認してみると、間違いなく俺は、学園ゲーム【ノブレス・オブリージュ】に登場する、極悪キャラのヴァイス・ファンセントだった。


 ということは、この前にいる女性は……メイドのリリス・スカーレットか?


「……リリス」

「はい、なんでしょうか」


 や、やっぱり……。嘘、嘘だろ!?


 もし俺が本当のヴァイスなら「黙れこの雌豚が返事をするな!」と理不尽に罵るだろう。

 けれどもは違う。ただこのゲームが好きで何度かクリアしただけのある男だ。


 なのでそんな酷いことは口が裂けても言わない。


 そういえば……好きな事は鞭で人を叩くことだったな。

 最低だなコイツ。いや、今は俺か。


「……聞いていいか? リリス」

「はい」

「俺、君のこと……叩いた?」

「はい、二度、三度、お叩きして頂けました。ヴァイス様が、私を叩きたい、叩いて潰してドロドロにしたいとおっしゃったので、お洋服を脱ぎました」


 ……なんてひどい野郎だ。どうしてそんなことするんだよ!? こんな可愛い女性を!?

 すぐに縄をほどいて……いや、流石にそこまで切り替わると変に思われないか?


 何か……辻褄を……。


「……勘違いしてるな。ちょっと肉の様子を見たかったんだ。今度、ボンレスハムを作ろうと思ってな」

「ボンレスハムというのは……?」


 まずい、失敗している気がする。

 どうしよう……何か、何か別の手は――。


「ええとな、ええと、豚肉に巻き付けて燻るんだ。そうすると美味しくなるんだよ」

「そうですか……私のような豚を燻るんですか。美味しく……召し上がってくださいね……」


 ダメだ、何を言っても逆効果だ。


 言い訳を諦め、急いでリリスの縄を外した。


「……どうされましたか」

「確認できたからもう大丈夫だ。それより……その、痛くないか?」


 すると目をきょとんとさせるリリス。

 え、また何か間違えたか……?


「どうしたんだ」

「い、いえ!? まさかそんなお言葉を頂けるとは思わずびっくりしました」

「……これからは言わないよ」

「え?」


 急いで服を着てもらい、その間に状況を整理する。


 俺の名前はヴァイス・ファンセント。


 この世界は異世界ファンタジーの学園もので、その中でも悪役ゴミ屑最低凌辱悪役貴族と言われるのが俺、ヴァイス・ファンセントだ。

 

 母親は幼い頃に死去、父親は外交で忙しく家におらず、それをいいことに好き放題している。

 学園に入学後、自身が気に食わないことや成績が悪いことがあると、権力を使って黒を白、弱者を痛めつける。


 誰かが少し口答えしただけでも、執拗に相手を追いつめる最低な野郎だ。


 だが最後は主人公にコテンパンにされ、全ての悪事を暴露されたあげく、何もかも失って魔王の召使いになる。


 最終的に魔王の盾に変身させられたあげく、身体中に穴という穴が開いて息絶えるのだ。


 幼い頃にいじめられていたり、信用していた使用人に裏切られたりと、同情の余地は少しあるものの、「軽くなって良かったじゃないか、ヴァイス」という魔王の非道な台詞が人気となり、ヴァイスは嫌いな悪役の首位をずっと飾っていた。

 肉抜き完了、シャワーヴァイスなど、色んなネットスラングが生まれそして消えていった。


 また嫌われる理由として、こいつは相当女癖が悪い。

 性質たちが悪いのは、男性が見て喜ぶような行為ではなく、今行っていたようなメイドのリリスを傷つけることが趣味なのだ。

 それゆえに男性からも女性からも嫌われていた。


 俺も、とにかくそこが気に入らなかった。

 女性は守るべき尊い存在、とリアルパパが口酸っぱく言っていた。なので、俺は絶対にそんなことしない。

 ちなみに俺は、まともに女性と触れ合ったことはない。ちなみにそれは今はどうでもいい。


「リリス、首が……」

「え?」


 その時、リリスの首に鞭の痣がまだ残っていることに気づいた。

 こんなの他の人に見られたら……。


 何か、何か――そうだ。


 このゲームはステータスを見ることができる。主人公はスキルをどんどん覚えていき、レベルアップをしていくのが視覚化に見えるのが人気の一つだった。

 対して悪役のヴァイスはレベルも低く、努力も嫌いなので権力があるだけで大したことはない。


 でも……もしかしたら。

 

「後ろを向いてくれ」

「え? は、はい……」


 また鞭で叩かれてると思っているのか、リリスの声が震えている。

 だが俺は小声で、ステータスオープンと言った。


 ……頼む。


 少しの間何も起きなかったが、次の瞬間――。


 名前:ヴァイス・ファンセント

 種族:人間、男

 年齢:14歳

 職業:貴族

 レベル:1

 体力:10

 魔力:20

 固有スキル:New縛りプレイlv1 

 称号:New:ボンレスハムの達人


(よし、出た……!)


 鑑定スキルが発動。

 本来プレイヤーは主人公しか動かせないが、もしかしたらと思ったのだ。


 てか……レベルひっく! 主人公は確か初期でも10はあったはず。こいつマジで努力も何もしてねえのな……。

 縛りプレイlv1……ボンレスハムの達人? これはまあ……いいか。


「あの、何かしたほうがいいでしょうか?」

「いや、安心してくれ」


 俺の考えが正しければ……あれが・・・使えるはずだ。


「え? どういう――」

「ヒールライト(小)」


 俺は両手を翳し、呪文を詠唱した。

 これは運営がお楽しみで付けた隠しスキルで、初期から使える回復魔法だと攻略本で暴露された。


 ステータスが見えるならヴァイスでもと思ったのだ。

 手から白い光が溢れ出し、リリスの痣が消えてみるみる白い肌に戻っていく。


「ヴァイス様……あったかくて、気持ちいいです」

「ああ、これで大丈夫だ」


 リリスは姿見で自分を確認し、驚きを隠せないようだった。

 俺が優しくしていること、そして魔法を使っていることだろう。


 ヴァイスは本当に怠惰なやつで、何もしてこなかった。

 どうせ自分には必要ないと言って、学園卒業するまでも最低限の魔法しか覚えていないくらいに。


 だが……今日からは違う。

 俺はヴァイスであって、ヴァイスじゃない。


「ヴァイス様、ありがとうございます」

「いや、こちらこそ悪かった」

「……まるで……別人みたいで驚いてしまいました……それに回復魔法をお使いになるだなんて知りませんでしたので」


 混乱させ過ぎて申し訳ないな。突然、縄で縛られて鞭でぶたれていたのに、その後魔法で回復させられるなんて、よっぽどホラーじゃないか?


 

 そして夜、執事たちが食事を用意してくれたのだが、フルコースの料理はどれも美味しくて、思わず笑顔になってしまい、気づけば全て平らげていた。


「最高だった……」


 すると――。


「ヴァイス坊ちゃま……今日の味付けは特別にお気に召したのでしょうか?」


 執事のゼビス・オールディンが目を見開いている。

 彫の深い顔、線が細いような体型だが、中はしっかり筋肉が詰まっており、頭脳も戦闘能力も高い。

 何事も動じないはずだが、今は表情豊かに驚きを隠せないみたいだった。


「ええと、どういう意味?」

「その……あの……」


 言いづらそうだったが、とにかく話せと少し強気に出た。

 初めから態度が変わりすぎるのも良くないだろう。


「……いつもならばマズいとお皿を地面に投げ飛ばすものですから、本日の味付けが満足頂けたということであれば、今後同じ味付けの調節をしたいと思いました。差し出がましく申し訳ありません」


 なるほど……、そんな酷い事もしていたとは、それはゲームをクリアした俺でも知らなかった。

 こんな美味しい食事を投げつけるなんて……。


 だから俺が食べている間、みんなビクビクしていたのか。

 勢ぞろいで立っているなんて変だと思ったが、割った皿を片付ける係なのだろう。


 だがリリスだけは少し微笑んでいる。

 俺が変わったのに気づいてるのだろうか。


 いや、それよりも言うべきことがある。

 当たり前のことだが。


「……今までのことは悪かった。食べ物を粗末にしてはいけないと朝目覚めて・・・・・思ったんだ。だから、もうしない。今まですまなかった」


 これでいいだろう。

 けれども周りはまだ固まっている。まずい、別人とバレたか――。


「……な、なんて素晴らしいお言葉……恐悦至極でございます……」


 するとゼビスがひねり出したような声を出す。そんなキャラだったか……?


 それに呼応して、周りからすすり泣く声が聞こえる。


 なにこれ、なにこれ!? 最終回みたいになってない!?


「ヴァイス様、素晴らしいです!」


 どうやらリリスも感激してくれているらしい。


 巻き起こる拍手、俺、ご飯食べただけだよね!?


 こんなの赤ちゃんでも出来るよね!? ばぶばぶ!?


「はは、ははは、ありがとうありがとう」


 だが無事に受け入れてくれたようで何よりだ。

 まだ時間はかかるだろうが、第一歩としては良しとしよう。


 ただ俺はもっともっと変わらないといけない。


 なぜなら、学園の入学式が二年後に控えているからだ。


 ヴァイスが通う学園は、クラス分けをするための模擬テストがある。

 そこの戦闘テストで主人公に負けたヴァイスは周りからの評判がた落ち、それに伴って敵が増える。


 逆に考えると、主人公と対等に戦うことができれば、尊厳や威厳を保ちつつ周りから認めてもらえるはずだ。


 ただそうなるには、入学式までに準備をしないといけない。


 このステータスでは――未来は変わらない。

 

 死ぬほどの努力して、破滅ルートを回避してやる。


 身体中に穴が開くなんて、絶対に嫌だ。


 後、鞭は早めに処分するとしよう。



 ――――――――――――――――

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