002 何事もまずは形から
何事もまずは形から。
俺は、頭に努力のハチマキを付けていた。
ちなみにリリスに頼んで作ってもらった。「これ、なんて書いてあるんですか?」と聞かれたが、死ぬほど頑張りますってことだよ、と伝えたら笑っていた。
ヴァイス様変わりましたね、と言われているので、良い方向には向かってるんだろう。
「ヴァイス、真面目にやってるのか?」
「や、やってますよ!」
ただ少しだけ貴族のコネを使わせてもらっていた。
ファンセント領土で最強と呼ばれる、元S級冒険者の剣士、ミルク・アビスタに先生をお願いしたのである。
燃えるような赤髪、ボンキュッボンのナイスバディお姉さんだが、ものすごくドエスで怖い。
ゲームでは終盤に出てくるので、今見れるのは少しお得な気分ではある。
ノブレス・オブリージュは、基本的に学園内がメインだが、世界との関わりも多い。
入学テスト、更に何があっても対処できるように、優先的に剣術と魔法を学ばなければならない。
その為には、まず基礎体力の向上が必要だった。
元の世界でも俺は身体を鍛えたことなんてない。
当然だが、ヴァイスもまったく動いていなかったらしく、とにかく疲れる。
「はあはあ……も、もう動けません……」
「そうか休むといい。だが入学早々
先生をしてくれる以上、俺が貴族だということは忘れて、容赦なく鍛えてくれといった。
ミルク先生はそれに応えてくれている。とはいえ、言い過ぎな気がするが……。
「わ、わかりました」
「膝を曲げて、手首を上に、型の構え!」
「はい!」
朝から晩まで、何度も何度も何度も何度も型の練習。
それが終われば基礎体力の向上を図る為にひたすらに走って筋トレをした。
初めは修行も面白いかもと期待していたが、現実は甘くない。
「ヴァイス様、汗をお拭きします」
「……ありがとう」
そんな俺を見かねてか、リリスが常に傍にいて俺を支えてくれる。
凄くありがたいが、原作でこんな場面はなかったはず。
それが少し心配だが、心強かった。
そして――。
「坊ちゃま、言われた通りの
「ありがとう、ゼビス」
執事のゼビスが、食事や色々なサポートをしてくれている。
確か元々は手練れの騎士だったが、父親に雇われて以来、ずっと俺の世話をしてくれていたはず。
ちなみにこれは後の出来事だが、ゼビスは俺の悪事に非常に嫌悪感を抱いていた。
最後は勇者と一緒に手を組み、ファンセント家を滅亡に追い詰める。
もちろんヴァイスの自業自得だが、裏切られないように仲良くしたい。
「いつも忙しいのに悪いな」
「……坊ちゃまは変わられましたね」
リリスほど完全に俺を信じてくれてはいないようだが、それでも髭面の強面おじさんのうっとり顔の破壊力は凄まじい。
そして俺は、前世の知識も使って蛋白質がある食材を選んでいた。
食事も大事だとわかっている。
そしてそれが、ステータスにも如実に表れていた。
名前:ヴァイス・ファンセント
種族:人間、男
年齢:15歳
職業:貴族
レベル:2
体力:60
魔力:20
固有スキル:縛りプレイLv1、ヒールライト(小)Lv1、
称号:ボンレスハムの達人、New! 執事たらし
体力が結構伸びている。とはいえ、魔力は修行もまだなのでそこまで変わらない。
執事たらしってのはよくわからないが……。
◇
それから数週間後、ようやく身体も慣れてきたので、魔法使いの先生を呼ぶことにした。
ただスパルタに疲れてきたので、優しくしてくれる人がいい、でも強い人でお願いとゼビスに伝えたが、その日現れたのはなぜかミルク・アビスタ先生だった。
「おはよう、ヴァイス」
「あの、先生……今日は魔法の先生をお呼びしたのですが」
「知っている。私は魔法も使えるんだ」
すると手にボッと炎魔法を出す。そして反対の手で水を。
四大魔法の二つだ。普通は1属性しか使えないのだが、破格の2つ。
それは知っていたが、優しい先生が良かったのだ。
ゼビス、なぜわかってくれなかった!? こういうのは、内助の功じゃないのか!?
「あ、あの、魔法は優しく教えてくれますか?」
「ああ、優しくが希望だろう。私もプロだ任せておけ」
良かった! 流石先生! そういうパターンもあるんだ!
◆
「もっと魔力を漲らせろ。目を開けろ。寝るな!」
「は、はい!」
なにこのお約束。
現実は甘くない。むしろ剣の時よりもきびしい。
「よし、そのまま二時間続けろ」
「は、はい……」
てっきり魔法を教えてくれると思っていたが、ミルク先生曰く「魔力量が多いほうが勝つ」ということだった。
だがこれは正解で、俺も知っている。
コンセプトでも、魔力量が多いほうが強いとしっかり明記されている。
ファイアボール1レベル同士でも、魔力量が違えば、大きさが全然違う。
ゲームではグラフィック上だとわかりづらいが、とにかくミルク先生はそこを理解しているらしい。
ということで、魔力を最大限まで漲らせて、気を失うまでを毎日繰り返すことになった。
流石にそこまでしろとは本当に思われていないだろうが、どうせなら限界までしたほうがいい。
「ヴァイス様、頑張ってください!」
「ああ、ありがとう」
それにリリスはいつもそばにいてくれる。メイドの仕事もしている上に、休みの日でも俺のことを見てくれている。
彼女の為にもがんばらな……あ……。
「気絶か、昨日よりもったな。――よしご褒美だ」
薄れゆく意識の中、ミルク先生は手を伸ばす。
そして、倒れ込んでいる俺の頭をなでなでしてくれた。
「よしよし、お前は頑張ってるぞ」
……これが、先生の
だが病みつきになっているのも事実。
飴と鞭の比率が合ってない気もするが、深くは考えないことにした。
それからも剣の扱い、基礎訓練、魔力量の向上を繰り返した。
そして気づけば三か月が経過していた。
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