279 上目遣い

「ルナ、改めて紹介する。シンティアとリリスだ」


 翌日の昼休み。

 ノブレス食堂で、ルナを二人に紹介していた。

 オドオドしながら前髪の隙間を縫うように上目遣いをする彼女。


 シンティアとリリスは、いつもと変わらない笑顔を見せた。


「よろしくお願いします。ルナさん」

「すっごい可愛いですね! よろしくお願いします!」


「あ、その……よろしくお願いします」


 他意のないその物腰に、ルナも静かに挨拶を返した。

 周囲はざわついていた。

 ルナと俺は今まで絡んだこともないし、食堂の隅っこや中庭でひとり食べている彼女を知っているからだろう。


 ノブレスでは求心力のない人間は下に見られてしまう。

 ここ上に立つ人間を育てる場所だ。オドオドしていては務まらないことも多いし、貴族連中からすれば理解もできないだろう。


 あの夜、俺はルナに対して何も返せなかった。

 いや、適した言葉なんてないだろう。


 シンティアとリリスにはすべてを話した。

 ちょっと氷漬けになってゲームオーバーのゲームオーバぐらいまで文字が見えたが、そのあたりは割愛する。

 

 そしてお願いをしたのだ。


 二人に彼女を紹介したいと。


 ルナには無理にしゃべらなくていいと伝えた。

 静かにオムライスを食べながら、彼女は時々俺たちを上目遣いで見つめる。


 ノブレスのはぐれメタルと揶揄された彼女だが、それには大きな理由があるのだ。

 酷いいじめにより人のことが信用できず、裏表があるのだろうと疑い深くなっている。


 ある意味過去のヴァイスが信用されていたのは、二面性がなかったからに違いない。


 俺は奴ではないが、ルナから見ればそんなことは分かりっこない。


 だから、俺は俺のすべきことをする。


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