351 見失っていた(アレン)

「構わないが、死んでも文句を言わないと誓約書を書いてからにしたらどうだ?」

「そんなものは――いらない」


 僕は、古代魔法剣を取り出した。模擬戦ではなく、本気でヴァイスと斬り合いたいからだ。

 それがすぐに伝わったのか、彼は少しだけ微笑んだかのように思えた。


 剣を構えて、ヴァイスと距離を測る。

 彼はなぜ先生たちと互角に戦えたのだろうか。

 確かに強いが、そこまで大きな差はないはずだ。


 そしてすぐに前を向けるのか。知りたい。


 みんな必死に戦った。まだショックを受けている人もいれば、仕方ないと言い聞かせている人もいる。僕は後者だ。


「――かかってこい。アレン」


 ヴァイスの挑発に我慢しきれず、僕はまっすぐに駆けた。


 嬉しいことに魔眼を使ってくれている。

 初撃を見事に回避されるも、防御シールドで身体を覆って防ぐ。

 シンティアさんの氷を模倣しているので、何倍も強固だ。


「相変わらず卑怯だな猿真似野郎」

「――ああ、そうかもね!」


 それから僕たちは、一切の手加減なく本気で戦った。

 致命傷はないが、刃が肌を斬り、血が流れていく。

 こんなことをしているのが先生たちにバレたら、もしかしたら退学になるかもしれない。


 それでも、身体動かしているのが楽しかった。何も考えずに済むからだ。


 やがて、ヴァイスの剣が、僕の目の寸前で止まる。


 ――死んだ。これが、戦場ならば。


 ヴァイスが何かを言いかける前に、僕は自分でも驚いたことに笑った。


 するとヴァイスが、思い切り目を見開く。


 へえ、こんな顔もできるんだ。


「ついに壊れたか?」

「そうかも。なんか、バカだなと思って」

「何がだ?」

「いつのまにか僕は強さこそが全てだと思っていた。でも、そうじゃない。戦いは手段だ。いくら強くても、成し遂げたいことが叶わなければ意味がない。だから、嘆くの早いなって」


 僕は世界最強になりたいわけじゃない。いつのまにか自分を見失っていた。

 落ち込んでいる暇なんてない。


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