016 学園初日

 合格通知が届いたのは春だった。

 当然だがシンティアも合格、予想外とまでは言わないが、リリスも無事に合格した。


 少し驚いたのは、俺が完膚無きまで叩きつけた主人公、アレンが合格したとゼビスから教えてもらったことだ。

 世界の強制力か、それとも秀でた才能を誰かが見出したのかまではわからない。


 俺はまだ決めかねていた。あいつと仲良くなるか、それとも――叩き潰すのか。


 自身が強者だとわかっただからだろうか。性悪説を解いた偉人がいたが、今それを実感している。


 まあでも、なるようになるだろう。


 ノブレス学園は屋敷から通うこともできるが、色々考えた結果、寮に住むことにした。

 父上は寂しがっていたが、いつも外交でいないじゃん! と言うと涙を流していた。


 仕事と俺どっちが大事なのといえばもっと困らせることができたのかもしれない。



 登校初日、純白な羽織り、肩にはノブレス学園を象徴する模様で、金の刺繍が入っている。

 パンツは黒、靴は革靴のようだが、伸縮性があって履き心地が良い。


 女子は当然スカートで、シンティアとリリスの美しいスタイルがより強調されている。

 後、ふとももって白い。


 ただ――。


「この馬車に三人はきつくない?」

「狭いのがいいですよね!」

「あらヴァイス、話しやすいじゃありませんか」


 いつもの馬車は父上が使っているので、小さいのしか空いてなかった。

 待てば大きいのも借りることはできたが、これがいいというので押し切られた。


 それと二人も寮に住むことにしたらしい。

 リリスはメイドだったので身軽だが、シンティアは親の反対を押し切った。

 決め手は、俺が寮に住むと決めたから。


 ようやくスタートラインだ。

 ここからが本番、気を引き締めなければならない。


「リリスのその指輪、どこのですの?」

「ゼビスさんがくれたんですよ! リミーヤの国の特産品らしくて!」


 まあでも、二人を見ていたら穏やかな気持ちになるんだけど。


 到着し、馬車を降りると、再び大きな鉄の門が待ち構えていた。

 なんだか懐かしい。


 門をくぐると、広大なノブレス学園の校庭が目に飛び込んでくる。

 上級生たちもいるが、これからは敵だ。


 俺は新たな目標を立てることにした。


 それは学園でトップになることだ。


 汚い手は使わない。

 真っ向勝負、全て正面から叩き潰す。


 教室に入ると、既に同学年の新入生たちが座っていた。


 視線が突き刺さるのは俺がヴァイスだからか、それとも両手の華のせいか。


 他人のステータスを見る行程は複雑かつ面倒なので、ミルク先生と同じく魔力を目に漲らせる。


 退屈そうに欠伸をしている長髪の男、大柄の短髪男、背の低い女、イケメン風金髪爽やか男、どいつもそれなりの魔力を保有している。

 まあ、敷居の高い学園に入学できるくらいだからそれもそうか。


 驚いたことに半分以上が知らない面子だった。理由はわからないが、俺が関係していることは間違いないだろう。

 だがやるべきことは変わらない。

 といっても、何人が残れる・・・かは知らないが。


「君は……ヴァイス、だよね! やっぱり合格したんだ」


 振り返ると、いつのまにか後ろにいたアレンが、爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。その隣では、シャリーがオドオドとしている。

 俺との模擬戦を見ていたので不安なのだろう。


 他人から見れば、やりすぎ・・・・だったらしいからな。


「まあね、君も受かったんだ」

「そうなんだよ! あれだけボコボコにされたのに……でも、良かった。ヴァイスとはまた会いたかったんだ。いや、戦いたい……が本音かな」


 はにかんだ顔、頬を掻く右手、闘争心がないような善人顔なのにサラリと言う。

 でもなんでだろうな。イラつくんだよな。


「ヴァイス様、風が気持ちいいですし、窓際に座りませんか?」

「ああ」

「天気がいいですわね」


 ひとまず話を切り上げ、リリスとシンティアに押されるように席に着く。


 緊張、不安、期待、感情が渦巻いて心臓が心地よい。


「ヴァイス・ファンセントくん、リリス・スカーレットさん、シンティア・ビオレッタさん」


 その時、俺の頬のぷにぷに具合が可愛いとシンティアがツンツンしていた時、俺の前に男が現れた。

 爽やかな金髪、爽やかな声、爽やかな風貌、あー……なんだったかな。


 そうだ思い出した。ルイ――。


「僕はミーセント家のルイだ。君たちのテストを横で見てたけど……凄かった。特にヴァイスくんは過去最高の成績だって話だよ」


 そうそう、こんな名前だった。

 確か原作でも明るい爽やかイケメンキャラだ。


 ミーセント家は、代々伝わる地属性の魔法に特化している。

 仲良くしていて損はないが、別に原作では好きでもなかった。


 そんな奴になんて返そうか、まあでも、よろしくでいいか。


 と、思っていたら、シンティアが――。


「ヴァイス様は今忙しいから、一人で座って黙って天井でも見上げてくれる?」


 よくわからんが凄まじいことを言い放った。俺の頬ってそんな忙しい案件か?

 いや、よく見るとリリスも凄まじい睨み方だ。

 爵位持ちではないので大人しくしているのだろうが、殺気を隠す気はないらしい。


「あー、ごめんな。ルイくん、また今度で」

「は、はは、ははは、邪魔してご、ごめんなさいっ!」


 半べそをかいて離れて行くルイくん、ごめんね。でもまあ初日だし許してあげてくれ。


 その後、俺の耳たぶの柔らかさが気持ちいいとシンティアが言っていると、チャイムが鳴った。


 次の瞬間、扉が開く。


 驚いたことに、俺が想定していた先生ではなかった。


 だが幸か不幸か、彼女なら今日にでもアレンは消えるかもしれない。


 眼鏡をかけた高身長のお姉さん、絹のようなパープルの髪が揺れる。

 服はスタイルが強調されているスーツのようだが、この時代にはないので特注品だろうか。


「まずは、入学おめでとうございます。初めまして、このクラスは私、クロエが担当することになりました。よろしくお願いします」


 抑揚のない言葉遣い、質問を受け付けないのを思わせる早口が彼女の特徴だ。

 原作では別のクラスの担当だったが、ある意味では好都合か。


 有無を言わさず、彼女は黒板に数字を書き始めた。

 

 ――1000

 

 生徒たちが騒めく中、クロエは前を向き、指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、俺たち全員の手の甲が光り輝く。


 浮き出た数字は、黒板に書かれているのと同じだ。

 

 ――俺を除いて。


「1000、これがあなた達に支給されたポイントです。ですが、ヴァイス・ファンセント、あなたはテスト結果を鑑みて2000です。これは学園からの期待の表れです」


 開幕から目立ってしまっているが、まあいいだろう。

 このぐらいの牽制は必要かもしれない。


 学園物はつまらない。


 それが元の世界の常識だ。


 閉鎖された空間でやることが限られる、とか。

 世界観が小さくなるから、とか。


 そんな中、ノブレス・オブリージュが人気だった理由は、このシステムのおかげだ。

 そしてヴァイス・ファンセントがどうして極悪人と呼ばれたのか、それはこのポイントシステムにあると言っても過言ではない。

 

「どういうことですか? 意味がわかりません」

「ポイントって何? 成績みたいなの?」


 当然、わけのわからない連中は騒めく。

 俺以外は詳しくは知らない。学園内の規約は秘匿だ、決して漏れることは許されていない。

 シンティアとリリスですらも何のことだかわかってはいない。

 ただ俺と一緒に訓練をこなしてきた。

 この程度のことであたたふたはしていない。


「これはただの物差しです。しかし学園を卒業するまで付きまとうものです」


「先生、結論をお願いします」

「そうだな、訳が分からない」

「説明してください」


 クロエが一番嫌いなのは口を挟まれること。


 学生は殆どが貴族、悪役とまでは言われていないが、偉そうな奴は多い。

 それからクロエは、眼鏡の縁を触った。これは彼女が怒っているサインだ。

 全員が自らの首を絞めてると思うが、まあそれも面白い。


「そうですね、わかりました。丁寧に言葉で説明する予定でしたが、ご希望とあれば早速実践テストに移りましょう」


 その一言で、大勢の男女が喜んで声をあげた。


「そっちのがいいな。ややこしいのは面倒だ」

「ああ、楽だな」

「ポイント計算って面倒そうねー」


 だがそうやって余裕なのは今だけだろう。

 本当の意味を知れば、阿鼻叫喚するはずだ。


「私は先ほど、まずは入学おめでとうございますといいましたが、これは言葉の通りです。――卒業まで面倒を見るとは言ってません」


 次の瞬間、全員が口を閉じた。

 クロエが、間髪入れずに答える。


「ポイントが0になった時点で、学園から退学してもらます。そうですね、今日のテストは……誰か一人のポイントがゼロになるまで、にしましょうか」


 ヴァイスは元から悪役貴族だった、だがそれが更に加速した理由――それはこのポイントを守る為に卑怯の限りを尽くしていたからだ。



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