257 嵐の前の

 ノブレスでの話し合いを終えたあと、俺たちはアントワープ家の屋敷にお邪魔させてもらっていた。

 郊外の山にある二つ並んだ豪邸だ。


 面白いのは、中庭の噴水近くに大きなバトル・ユニバースの駒が並んでいる。


 セシルの親はどちらも有名なプレイヤーで、オストラバ王国の大会で何度も優勝している。

 といっても、彼女ほどではないが。

 

 今はちょうど出払っていて、執事やメイドにも暇を持たせている。

 それも全て、敵をおびき出す為だ。


 古代魔法具を持ち出してもいいが、なぜここを根城にするのかというと、それは、原作では存在しなかったシャリーがいるからだ。


「結界、かなり強めに付与しといたよ。それにしてもこのあたり、精霊の力も凄いんだね」

「昔からそう言われてるけど、あまり実感がないわ」


 これは偶然だが、セシルの家付近は魔素が高いらしい。

 下手に動くよりも罠を仕掛け、防御結界を付与した方がいいという判断だ。


 いつも重要だが、今回は更に勝たないといけない。


「負けたああああああああああああああ」

「ふふふ、でも強くなったんじゃない? デュークくん」

「くぅ、もっかいだ。セシル!」

「デューク君ずるい。次はボクだよ!?」


 だが隣に視線を向けると、緊張感の欠片もない奴らがバトル・ユニバースに興じていた。

 セシルは、まるで友達が遊びにきたかのように嬉しそうにしている。


 シャリーは少し呆れながら笑い、アレンもそれを眺めていた。

 ちなみにシンティア、リリス、トゥーラ、カルタは湯に入っている。


 こいつらを見ていると、一番関心させられるのは精神面だ。

 

 もしかしたら死ぬ可能性があるのに、ここまで冷静になれるのは凄い。

 だからこそ強いのかもしれないが。


 ま、俺よりは弱いが。


「負けました……」

「オリンさん、ありがとうございました。さて、ファンセントくんは?」

「俺はいい」

「負けるのが怖いんだろヴァイス!」


 ササミがほざきだしたので、立ち上がって睨みつける。


「お前、俺がどれだけ強いのか知ってんのか? エドニア地方の無敗バトユニおじさんにも勝利したんだぞ」

「だ、誰のことでしょうか……」

「ああん?筋肉の筋、断ち切ってやろうか?」

「そ、それだけはやめてくれ!」


 怯えるササミを放置して、セシルの対面に座る。


「よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 この時ばかりは、いつも以上に気合が入る。

 ゲームをしている時のセシルは、一体何手先を考えているのか。

 

 それほどの相手だ。


 一手一手進めていくと、セシルが静かに呟いた。


「……ファンセントくん、強くなったね」

「そうか?」


 戦闘中でも、自分ならこうする、ではなく、セシルならこうするだろうと考えるようになった。



  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る