117 体育祭、最終戦――。

「ヴァイ、絶対勝つわよ」

「ああ、当たり前ですよ」

「……絶対によ。絶対に」


 闘技場上に上がった後、シエラはいつもと違って静かに言った。

 原作では二人の事は知っている。


 ウィッチ家での苦労や、最低な親のことも。

 だが二人は支え合ってきた。


 挫けず、女性当主として大変なことも色々あったはずだが、シエラはどんなことにも負けなかった。


 この試合に勝ちたいのも、姉として妹を守り続けたいからだろう。

 

 シエラは本当に優しくて光の性質に違わない心を持っている。


 ――ならばその想いも、俺の気持ちも、全て剣に乗せてやりたい。


 そう素直に思えるほど、シエラは光の持ち主だからだ。


「あら、楽しみねえ」


 だがそんなことを全て断ち切る相手が目の前にいる。


 ――エヴァ・エイブリーだ。


 魔族もどきでも大人数を相手にして余裕どころか蹂躙していた。


 俺もトゥーラも弱くない、それでも少し時間はかかった。


 だがエヴァは違う。


 しかし体育祭のエヴァはずっと楽しそうだ。


 遊んでいる、というのが正しいのかもしれない。


 勝ったり負けたり、まあ、彼女は楽しければそれでいいといつも言っているが。


『試合は最後の闘技場上に残っていた一人のチームが優勝です。場外のカウントは10秒となります』


 エヴァは飛行魔法が使える。シエラエレノアもそれほどでもないだろうが、10秒くらいは余裕だろう。

 俺も不自然な壁アンナチュラルがある。


 つまり、真正面からの戦いになる可能性は高い。


「これタダで見れるのってマジやばくね?」

「ああ、王都で大会したらどれだけ高くても全席埋まるだろうな」

「見逃すなよ、これは勉強になるぞ」


 外野の言う通り、俺の位置が誰であれ凄まじい一戦になるはず。


 ふとミルク先生に視線を向けると「勝てよ」と言っていた。


 ――ああ、負けたくねえ。


 シンティアもリリスも応援してくれている。


 誰もがエヴァが勝つと思っているはずだ。


 その過程を楽しむ試合だと。


 ――なあ、ヴァイス。


 そんなの、覆さなきゃ男じゃねえよなァ。


 しかしこれはタッグ戦だ。

 俺は一度苦労している。何度も同じ轍は踏まない。


「どう戦いますか?」

「エヴァは様子見してくるでしょうね。性格上、きっと私たちの手の内を最後まで見たいはずよ。だから、攻撃の全てを出す前にまずはエレノアを狙う。両手には気をつけなさい。下手すると――死ぬわよ」

「了解。じゃあまずはエレノア先輩を落としますか。でもいいんですか? いきなり二人で狙うなんて」

「私、常にあの子より上にいってないとだめなの。私は――お姉ちゃんだから」


 当主だから、という言葉もあるだろう。


 シエラがウィッチ家を残したのも、エレノアの為だ。

 闇属性持ちの場合、迫害される危険性がある。


 だが貴族は別だ。


 全てを妹に捧げる姉と、姉を超えたい妹か。


 サイドストーリーにしては、豪華すぎるな。


『それでは準備が整いました。最終戦、ポイントでは白リードですが、勝った方が勝者となります。それでは試合開始です!!』


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