138 大満月作戦、当日
カルロス国、正午。
舞踏会が始まるのは夜だが、既に
ノブレス学園は休日でタイミングが良く、休暇申請の必要がなかった。
短い期間だったが、ミッチリと訓練を重ねた。
その間に、俺の覚悟も決まっている。
そしてこいつらも――。
「デューク、それ僕の肉だよ!」
「次また頼めばいいじゃねえか!」
「もう、いい加減にしなさい!」
アレン、デューク、シャリー。
「みんなで食べると美味しいなあ! カルタさん、そこのサラダを頼む!」
「は、はい。賑やかでいいね」
「ボクはこの甘いソースが一番好きだなあ」
トゥーラ、カルタ、オリン。
「ヴァイス、お口にソースがついていますわ。フキフキ」
「シンティアさん、擬音が言葉に出ていますよ」
シンティア、リリス、そして俺。
最後に――。
「ま、リラックスしてるほうが勝負事は成功しやすいからいいんじゃない」
セシルが俺と目を合わせた後、笑みを浮かべていった。
作戦が失敗すれば退学はもちろん、貴族として生きられないことになる上に、大罪として追われる可能性もある。
だがこいつらはそんなこと一切考えていないかのようだ。
まあ、ありがたい、ありがたいが――。
「お前ら、緊張感なさすぎだろ……」
さすがノブレス学園の生徒というべきか、さすがノブレス・オブリージュのキャラクターというべきか。
しかしその時、アレンが俺の名を呼んだ。
「大丈夫だよ。僕たちはみんなわかってる。といっても、僕は平民だから覚悟が違うけど……。それでも気持ちは一緒だと思う。――ヴァイス、君を信じてるんだ。それにもし何もかもダメだったとしても、みんな一緒なら楽しそうな気がする」
そしてそんなことを言いやがった。その場の全員が同調し、それもありだなと言い始める。
ったく、前向き猪突猛進主人公野郎め。
かっこつけやがって。
まあでも、一番心に響いたかもしれないな。
だがこの作戦の肝はリリスだ。
城内に忍び込むのは、その時点で大罪で、どんな理由があっても許されない。
「リリス、頼んだぞ」
「はい、任せてください」
その日のリリスは、いつもより頼もしく見えた。
◇
ノブレス・オブリージュの満月は赤くてデカい。
それはまるで異世界の象徴と言わんばかりに夜を照らしている。
デュークは既に城の近くで護衛任務に就いている。
セシルは国全体を見渡せる高台、更にカルタがそれを支えるように指定の門の上で少し早く待機していた。
リリスは既に作戦続行中だが、城の近くは魔法使いの感知があるので、むやみやたらに連絡できない。
予定時間となり、俺たちは各門に移動する。
皮肉にも夜空が綺麗だ。星が美しい。
「それではヴァイス、またあとでお会いしましょうね」
「ああ。気を付けろよ、シンティア」
一番可能性の高いアレンとシャリーは、既に罠を仕掛けている。
たとえ護衛騎士でも看破は難しいだろう。
『――作戦開始。姫が乗っている
そのとき、セシルの
思わず笑みを零す。
俺は北門近くの屋根の裏で待機していた。
『アレン、シャリー、南門、異常なし』
『トゥーラ、オリン、東門、異常なし』
『シンティア、カルタ、西門、異常なし』
セシルと会話はできるが、それ以外の俺たちは一方的に会話はできない。
ただし声は聞こえるので、報告だけは聞こえる。
馬車はまだ来ていなかったので、俺も以上なしと答えようとするが、そのときひときわ目立つ白馬の馬車を見つけた。
一番可能性が低いはずだったが、間違いなく姫のだろう。
『北だ、来てくれ』
支援が来るのを待ち、全員で姫を攫えばいい。
しかし驚いたことに続けて声が聞こえる。
『南門、馬車来た』『東門で確認した』『西門もきましたわ』
……どういうことだ?
クソ、想定外だ。そうか、姫は何度か命を狙われたこともあったのか、そのために偽装馬車を。
そんなの原作では書いていなかった。
だが焦るな。やるべきことは変わらない。
俺はまずセシルに連絡を入れる。
『作戦変更だ。ギリギリまで近づいて魔力感知を広げて姫がいるか確かめるしかない。護衛騎士と違って姫の魔力は大したことない。すぐわかるだろう。セシル、他に代案はあるか? デューク、リリスから連絡は?』
『――伝えた。二人からの連絡はない。異論はなし。少し強引だけど、ファンセントくんの作戦を実行しよう。大丈夫、私たちならやれるわ』
だが更に問題は起きる。
北門から出た場合、橋の外ですれ違うことができる。そこで一般人を装って調べようとしたが、道を逸れていく。
かなり遠回りするつもりだ。これではすれ違うなんてできない。
「……仕方ない」
俺は急いで先回りし、黒いフードで顔を覆った。服装も着替えている。
そして俺は、馬車の前に立つ。
護衛騎士が六人、それぞれがかなりの魔力を感じる。俺に気づき、剣を構える。
「何だお前、何をしてる」
「おい、離れろ!」
「剣を構え、全員、魔力を漲らせろ」
その瞬間、魔力感知を広げた。調べる為だ。
もしいなければすぐに下がる。
しかし微弱な魔力が馬車の中から感じる。姫は光の性質を持っていると書いていた。
その反応は、シエラの光と似ている。
俺はすぐにセシルに連絡を入れたが、想像以上に遠くまできたのか、返事がない。
騎士は六人、それぞれが魔法も使えるだろう。
だが怪我をさせることはもちろん、正体を明かすこともできない。
猶予はない。
「――癒しの加護と破壊の衝動」
俺は足で魔法陣を展開させた。
こんな過酷な状況にもかかわらず、気づけば笑っていた。
ああ、わかった。
今までで一番、強く感じている。
ヴァイス、お前、この状況を楽しんでるな。
俺がどう動くのか、どうするのか。
だがおかげで俺は確信を得た。
必ず魔族はやって来る。
ならここで姫を攫う事が、何よりも大事だ。
その為なら、大罪人にでもなってやる。
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