119.5 体調不良
「ヴァイス・ファンセント、五位です」
クロエ先生が、俺の結果を淡々と言った。
今日の試験は、魔力の技術を競う訓練だった。
物に付与した魔力を使って、強化しながら他の物を破壊する授業。
だがなぜか上手くいなかった。
いつもなら完璧にこなせるはず。
俺が一位じゃないことに驚いたのか、同級生もざわついていた。
だがそのとき、急いで歩み寄ってきたのはリリスだった。
「ヴァイス様、大丈夫ですか!?」
「……何がだ?」
訳が分からない。大丈夫?
「気づきませんでした。――失礼します」
すると、リリスが額に手を当ててくれた。
その瞬間、視界が歪んでいることに気づく。
同時にシンティアも寄り添ってくれた。
「やっぱり……シンティアさん、ヴァイス様が風邪を引いています」
「ヴァイス、ごめんなさい。気づかなかったわ」
「……そういうことか」
なんだか熱っぽいとは思っていた。
手に力が入らないし、いや、かなりしんどい。
――クソ、ゲームだとこんな体調不良なんてないだろうが。
だが午後にも授業はある。
休んだらポイントが――。
「ヴァイス・ファンセント。体調不良の場合はポイントは減らないようになっています。診断を受けて、部屋で休んでください」
……ああ、そういえばそんなことあったっけか。
けど、増えなきゃ意味が――。
「ヴァイス様、行きましょう」
「ええヴァイス、行きますわよ」
しかし俺は、二人に手を引かれて教室を後にした。
それからはココ先生が身体を視てくれた。
「珍しいね。森風邪だ」
「え、ヴァイス様が?」
「森風邪ってなんですか……」
「子供がかかる風邪だよ。普通は三歳までにかかってそれ以降はかからないんだけどね」
……理由はわからないが、俺自体がこの世界に来てからちょうどそのくらいだからだろうか。
「安静にしてたら治るよ。魔力で乱れは直しておいたから、水分取って寝てください」
「でも授業が――」
「そこまで舐めてたら死ぬよ。病気を甘くみないで」
そういったココの顔は、いつもよりも真剣だった。
シンティアとリリスにも強く言われ、俺はおとなしく自室に戻る。
「ここまででいい。後は一人で寝る」
「ヴァイス、私が傍にいますわ」
「いやいい。俺と違って休みになってないだろ」
「ヴァイス様、私も――」
「いいから、寝るだけだ」
そういって俺は二人を制止し、自室に戻った。
それから記憶はあまりない。
ベッドにもぐりこんだことだけは、なんとなく覚えていた。
寝苦しさのあまり目を覚ます。何時間経過したかわからない。
無性に喉がかわく。だが身体が動かなかった。
森風邪なんて知らないし聞いたこともない。
結構――ヤバいのか?
「ヴァイス様、お水です。どうぞ」
「あ? え、あ――」
そのとき、そっと水が口に運ばれる。
首を持って飲ませてくれたのは、リリスだった。
視線だけで時間を見てみると、まだ午後の授業中だとわかった。
「おいなんで――」
「シンティアさんも部屋に来たいといってました。でも、私が止めました。シンティアさんのポイントが減ると、ヴァイス様が気を遣うとわかっていたので」
「……お前のポイントも減るだろう」
「ポイントなんて私には必要ありませんから。必要なのは、ヴァイス様だけです」
「はっ、たく……」
リリスはいつも俺に全てを賭けて尽くしてくれる。
今は屋敷じゃない。メイドじゃないのだ。ただの同級生だというのに。
「気にしないでください。私が好きでやっていることですから」
「……何でもお見通しってわけか」
「ええ、私は、ヴァイス・ファンセント様のメイドですから。何でもわかるんです」
そういって笑うリリスの笑顔は、今までで一番綺麗だった。
俺は何も返せていない。
なのにいつも傍にいてくれるのだ。
「悪いな」
「謝らないでください。――もう十分、返しきれないほどの恩がありますから」
「何を言ってるんだ。俺は何も――」
「ヴァイス様が教えてくれたのですよ。――人は、変われると」
「……意味がわからない」
「わからなくていいのです。もうお話はダメです。ゆっくり寝てください。今は、休むのが仕事です」
「……ああ、わかった」
「おやすみなさい、ヴァイス様」
「……ああ」
そして俺はリリスの笑顔を見ながらまた眠りについた。
次に覚ました時は朝だった。
リリスは椅子に腰かけたまま眠っているみたいだ。
すると、後ろにシンティアがいた。
「おはようございます」
「悪いな。朝早くに」
「いえ、リリスさんがずっと看てくれていましたから。本当に素敵な女性ですよね」
「ああ、リリスは大切な人だ」
「ふふふ、婚約者を前にして告白ですか」
「そういうわけじゃ……」
「嘘ですよ。私も大切な人だと思っています。心から、リリスさんを愛しています」
「――同じだな」
それから俺は二人の献身的な看護のおかげで、2日ほどで完全に風邪を治すことができた。
普通は一週間もかかるらしい。
「リリス、シンティア、ありがとな」
「いえ、お気になさらず」
「はい! 私が好きでやったことですから。さあて、ポイントを増やしましょうね!」
「ああ、次の授業は各隊に分かれての模擬戦だ。絶対に一位を取るぞ」
「「了解」」
俺は必ず破滅を回避する。
二人の為にも――。
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閑話ですが、時系列でいうと体育祭の後、すぐです。
新作投稿しています! 11話目です!
最凶の魔王に転生した俺、シナリオをぶっ壊してスローライフがしたいのに、直属の六封凶が血気盛ん過ぎて困っています』を投稿しました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330664579415585
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