120 主人公の定義
体育祭が終わり、俺たち下級生の行事は全て終わった。
赤チームの優勝は素直に嬉しかった。
ノブレスでは、中級生から上級生、上級生が卒業する際には昇級試験、卒業試験がある。
だが下級生にその義務はない。
つまり、後ほんの数か月過ごしているだけで、俺たちは中級生に上がることが確定した。
俺のポイント合計は体育祭を終えて10000ポイントに到達。
これはB級ランクに相当し、正式な計測が終わると告知されるだろう。
個室が広くなったりと他にも様々な恩恵が増えるので楽しみでもある。
在学中にSランクを目指す為、俺はこれからも1位を目指していく。
そして俺は原作を思い出していた。
ウィッチ姉妹、エレノアとシエラのことだ。
上級生である二人は、卒業試験が終わると同時に学園を去る。
厄災の時やサイドストーリーでは、アレンを助ける為に現れるが、学園編では見ることはなくなる。
雪合戦やデュラン、体育祭と勝負を重ねてきた。
何と言うか……初めての感覚を味わっていた。
喪失感の前触れだろうか。
だがそんな感傷に浸ってられない。
物語の進みが予想より早いからだ。
ノスタルジックな気持ちなんて、捨てなければならない。
だが俺は、勘違いしていたことがある。
俺の名前はヴァイス・ファンセント。
悪名高い怠惰な貴族、ノブレス・オブリージュでは本来、かませ犬だ。
俺はそれをすっかり勘違いしていた。
人物の設定は変わることがない。
この世界は改変こそあるものの、大事なところは一切変わっていない。
ノブレス学園が存在し、エヴァが存在し、魔族が存在し、そして――
全てが終わり、俺は油断していたのかもしれない。
この世界の中心は俺ではなく、アレンだということをハッキリと考えておくべきだった――。
◇
きっかけは卒業前、最後の外出可能期間だった。
一定以上のポイントを保有している下級生は、休暇が許されるのだ。
俺は特に出る予定もなかった。いや、むしろ学園で最後を過ごしたかった。
これからのことを考えて訓練もしておきたかったし、ウィッチ姉妹の卒業試験の終わりを見届けたかった。
もちろん、そんなことは口に出さないが。
そんな時、シンティアが親の都合もあってとある街に出かけることになった。
仕事と旅行を兼ねているとのことだ。
俺は複雑だったが、着いて行こうとした。
婚約者として、できるだけシンティアに寄り添ってあげたい。
だが彼女はそれを断った。
理由は、まあちょっと言えないとのことだった。
だがおそらくだが、俺がウィッチ姉妹の最後を見届けたいとわかっていたのだろう。
ただリリスだけは着いて行くことになった。
今回はメイドとして、道中で力になりたいとのことだ。
俺も安心だった。リリスは心から信頼できる女性だ。
旅行先は、ヴェルディというノブレスから少し南へいったところだ。
平和な国で、貴族の旅行先でも人気の場所。
原作でもチラリと聞いたことがある。特にイベントも起こらない。
危険な事は、一切ない事を知っていた。
「それじゃあ行ってきます。数日で戻ってきますので」
「ヴァイス様、お土産いっぱいかってきます!」
「ああ、楽しんでこいよ」
俺はもっと深く考えるべきだった。
普段なら現れない
ビルフォードタッカーのときも。
厄災が突然現れたときも。
大規模侵攻のときも。
重要な
シンティアたちが休暇中、俺はノブレスで研鑽を積んでいた。
そして、ウィッチ姉妹の卒業試験を見届けようと、食堂で会話をしていたとき――。
「ヴァイと会えなくなるねえ」
「そうですね。シエラ先輩が卒業できればですけど」
「できるに決まってるじゃない! 私は当主よ!」
「お姉ちゃん、多分それ関係ない……」
それから夕方、シエラとエレノアの卒業試験が始まる時間になったとき。
事件が起こった。
いや、ミルク先生から報告を受けたのだ。
アレンが、シンティアが、セシルが。
――リリスが。
「……嘘ですよね」
こんな改変が起こるとは、考えてもみなかった。
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