101 親睦会
ノブレス・オブリージュでは、豊富なキャラクターと重厚なストーリーはもちろん、イベントも多い。
その中の一つに親睦会というものがある。
優秀な生徒が他校へ赴き、魔法や文化を積極的に取り入れようということだ。
もちろんノブレスに来るパターンもある。ポイントシステムは秘匿だが、他学生同士の交流も必要と考えられているからだ。
原作では、主人公であるアレンを筆頭に先輩たち、そして引率のクロエ先生と向かうはずだが、もはや改変の改変。
今回は――。
「遅いぞ、ヴァイス」
「あら、頑張ってるのよねえ」
「疲れたら言いなさい。私がおんぶしてあげる」
教員ではなかったはずのミルク・アビタス。
自主退学していたはずのエヴァ・エイブリー。
面倒ごとは嫌いなはずのシエラ・ウィッチ。
以上三名+1(俺ヴァイス)でお送ります。
今は道中、高速移動魔力で走っていた。
少しだけ止まって、そして――。
「休憩終わりだ。――いくぞ」
「ちょ、ちょっ」
異次元レベルの速度に追いつくのがやっとで、さすがに途中でギブアップ。
もちろん頑張れば大丈夫だが、親睦会で髪の毛が乱れ服が乱れていたら恥ずかしい。
そう、これは恥ずかしいからだ。
ということで、途中で馬車を拾って、ドナドナと向かうことになった。
いや、これでいいだろ……。
「そんな軟弱者に育てた覚えはないんだがな」
「たまにはゆっくりも悪くないですわ」
「ヴァイ、お水持ってきたから飲みなさい」
シエラが、俺に水筒を渡してくれる。
ああ、今日ばかりは、シエラ先輩が一番天使に見える。
そしてお水……美味しい。
「お菓子もあるから、欲しかったら言ってね。フルーツもあるわ」
「はい、シエラ先輩」
久しぶりにトキメキってやつを思い出したかもしれない。
◇
ノブレス魔法学園はこの世界で一番有名だ。誰もが入りたがるし、貴族の中でも知名度はトップクラス。
だがそれに次ぐ確固たる二番目が存在する。
人によっては、むしろノブレスより入学したいと思うだろう。
実際に実力だけでいえば拮抗している(例外たちを除いて)。
そして、剣魔杯で俺が最も苦労した学校。
原作でも、最強が多くて好きすぎると言わしめた学生たちがいる連中。
――デュラン剣術魔法学校。
「すげえ……」
思わず感嘆から声を漏らす。これには二つの意味があった。
まず一つは、目の前にあるノブレスよりも大きな門だ。場所は少し辺鄙なところにあるが、それはノブレスと同じ修練所の関係だろう。
門の左右には、まるで侍のような銅像が飾られている。
それもかなりデカい。
ちなみにここの生徒が使う剣は西洋風なものから、
俺が驚いていた理由の二つ目は、原作で見たのと同じだったからだ。
ずっと今までノブレスにいたこともあって、俺の中でそれが普通になっていた。
だが非日常な別の学校へ来たことで、気持ちがリセットされた気分だった。
まるで、この世界に来たときのような感じだ。
「今日はくれぐれも
「はあい。
「わかりました。ヴァイ、何か困ったことがあればいつでも聞いていいわよ」
「そうします」
何か含みがあると思うのは、俺が疑り深いだけだろうか。
そのとき、通りすがりのデュラン学生がこそこそと話しているのを聞こえた。
「お、ノブレスの制服だ。そういえば親睦会は今日――って、エヴァじゃねえか!?」
「ほんとだ……。それにシエラ――あいつ、噂のヴァイスじゃねえか」
「とんでもねー面子だな。おい、あんまり見るなよ」
エヴァとシエラも聞こえてるみたいだ。だがエヴァはどうでもいいのか気にしておらず、シエラは少しだけ鼻高々だった。
だがミルク先生は少し不満そうだ。話に出ていないからだろう。いや、先生だからね!?
「……殺すか」
はい、ダメです。
つうか、この面子だと俺がツッコミ役になるのがしんどいな……。
クソ、
どうせならあいつらも来てくれたらよかったのに。
そして入口で待っていると、
俺たちの制服は白だが、デュランは騎士の誓い、双剣が肩に縫い付けられている漆黒の学生服だ。
ちょっと闇っぽくてかっこよく見える。
「遅くなってすみません。お待たせしました。二年生のミハエル・トーマスです」
門を開けて出てきたのは、俺より薄い金色の髪、背が高く、まあ
そういえばデュランは四年制なので一応先輩か。ま、どうでもいいが。
後ろにはデュランの教員もいた。ミルク先生が
そして――。
「久しぶりだな、ヴァイス」
「ああ、元気してたか? 準優勝」
「相変わらずか。――だが俺はあの時よりも強くなった。次の大会では、もう負けない」
「はっ、期待せず待ってるぜ」
後ろには、ミハエルペアを組んでいたルギ・ストラウスもがいる。眼鏡をかけてヒョロそうに見えるが、以前よりもガタイがいい。
こいつらも厄災を乗り越えた奴らだ。研鑽を積んでるのだろう。
「アレンにも伝えておけよ。俺が、必ず勝つとな」
「あいつぐらいには勝てるんじゃねえのか? ま、俺には無理だが」
俺の軽口に、ミハエルは浅く笑う。
はっ、中身も成長してるってか。
この世界は手の内を明かすことはあまり好まれない。だが学生たちは別だ。
だからこそ優秀校は他校へ見学ができる。俺たちがここへ来たのも、剣魔杯で優勝しているからだ。
まあ、このあたりは特殊な世界観かもしれない。
中に入ると、やはりノブレスとは違う雰囲気が漂っていた。
例えるなら洋風世界の中に和風テイストがあるような感じだ。
石畳だったり、と思いきや木製の建物、そして庭園のようなものもある。
文化が混在しているのは見ていて楽しいが。
そのとき、俺の横を
黒髪で、髪の毛を後ろに縛っている。
ちょうどみんな雑談していて気付いていない。
だが俺は――知っている。
マジで……
まあ、関わることはないだろうが。
デュラン内の建物は、ノブレスに次ぐ二番目だと言われるだけあって、デカい棟がいくつも並んでいた。
洋風な建物から古風な建物が交互にあるのは見ていておもしろい。
魔法を主体としながらも剣術もまんべんなく行うノブレスと違って、デュランは名の通り剣術の為に魔法がある。
だが俺もどちらかというとそのタイプかもしれない。
だからこそ今日は、色々と得るものがあるだろう。
今日は親睦会みたいな感じで、デュランの授業や訓練を見学しつつ、ちょっとした演武みたいなものもあるらしい。
原作では短いシーンだったが、今日はまる一日滞在予定だ。
中庭をちらりとみると、授業が行われていた。
「構え!」
「「「「はいっ!」」」」
一年生だろうか。木剣を構えて、上段から一気に振りかぶる。
まだ慣れていない感じはする。だがそれでも身体の軸はしっかりしていて、
対魔法で一番重要なのは、懐に入ること。
その為には、魔力ももちろんだが、足腰を鍛えなきゃならない。
もちろんそれだけじゃないが、デュランでは基本だろう。
それを眺めていたら、ミハエルが俺に声をかけてきた。
「おもしろいか?」
「ああそうだな。で、お前はデュランでどうなんだ? そこそこ上なのか?」
「バカにするな。トップに決まってるだろう」
「そうか、なら大したことないな」
「殺すぞ」
はっ、からかいがいがあるやつだ。
そんな掛け合いをしながらも、俺たちは訓練を眺めながら建物の説明を受けていた。
そして基礎練習が終わり、模擬訓練をするみたいだった。
「ふぁああ、朝早くは眠たいわね」
シエラは割とどうでも良さそうだった。
まあ、性格的に興味はそんなないのだろう。
いや、でもそれならなんで来たんだ?
そしてエヴァは、思っていたよりじっくりと見ていた。
「ふうん、あの子たち、悪くない身体つきね」
意外と熱心なんだな。新しい発見だ。
そのとき、遠くでデュラン教員と話していたミルク先生がなぜか俺を呼んだ。
嫌な予感しかしないが、駆け足で急いで向かう。
「どうしま――」
「練習仕合を一試合だけすることになった。準備しろ」
「え? どういうこと――」
「親睦会だ。こちらからも手の内を少しは明かすべきだろう。エヴァじゃ誰にも相手にならん。シエラはどうせテキトーに相手にする。だからヴァイス、お前が適任だ」
ミルク先生にしては意外に考えている。確かにその通りだ。
いやでも――。
「俺、下級生なんですけど……先輩を差し置いて……」
「心配するな。ほら」
エヴァとシエラに視線を向ける。
「頑張ってね、後輩くん」
「ヴァイ、けっちょんけちょんにしてやりなさい!」
なるほど、既に決定済。
「それで、相手は同じ下級生ですか?」
おそらくミハエルだろう。だがちょうどいい。
どれだけ強くなったのか、わかりやすい指標にしてやる。
「いや、一年生だそうだ」
「そうですか。……いや、一つ下ってことですか?」
「なんだ? 怖いのか?」
「いや――そんなことないですよ。むしろ、楽しみです」
さすがにそんなサプライズは歓迎だ。
戦いから得られるものは大きい。更にデュランは、強者が多い。
一年生とはいえ、さすがに俺と戦うのなら強い奴にしてくれるだろう。
確か原作で一年生なら……三刀のルギアか、一閃のバルデスか?
まあ誰でもいい。楽しみだ――。
「――失礼します」
そのとき、後ろから声がした。
驚いて振り返るも、気づけばそこに人はいない。
いや、ただ歩いて横切っただけだ。
だが――気配がなかった。
さっき見たのにすっかり……忘れていた。
そういえばいたな。
「トゥーラ・エニツィです。お手柔らかにお願いします」
ペコリと頭を下げるのは、武士の立ち振る舞い。
だがその姿や声は可愛らしさに溢れている。
ノブレス・オブリージュでは、個性豊かなキャラクターが存在する。
それもあって、キャラクターにはコンセプトみたいなものがつけられたりする。
気弱な飛行少女カルタ、のような感じで。
彼女の場合は言わずもがな、「サムライ」をモチーフにしている。
俺が覚えている限りでは、和の国の出身だったはずだ。
そして戦い方は――一撃必殺を得意としている。
腰の剣は、洋風ではなく和風。
さながら
作中でも人気と合わせて、後半では最強に一番近いと言われていた。
しかし問題は――。
「あなたがヴァイス・ファンセントですか。噂は知っています。――私は、狼藉者を好みません。この試合、親睦会とはいえ手加減はしませんよ」
すげえ、正義感に溢れてるんだよなあ。
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