155 精霊の森

「……凄いな。魔力ではないが、何と言うか、力を感じる」


 俺とシャリーは、とある西の森へ来ていた。

 といっても、このあたりは魔物が出るわけじゃない。

 さらに原作で何かイベントがあるわけでもないはずだ。


 ただ、彼女が来てほしいといったからだ。


 ま、それだけで来る俺もお人よしか。


「……やっぱりすごいねヴァイス」

「? 何がだ?」

 

 シャリーは後ろに手を組みながら森の中を少し歩き、そして振り返る。


「ここは精霊が多い場所なんだよ。アレンやデュークに来てもらったことがあるんだけど、何も感じなかったって」

「なるほどな。といっても、俺も何となくだ。これが感覚なのか、それともただの気のせいなのかはわからない」

「感じる、ってのが大事だと思う。やっぱり、ヴァイスには素質があるんじゃないかな」


 先日、シャリーが連れて行きたい場所はここだった。

 幼い頃、何か嫌なことがあったりすると、よく来ていたとか。


 初めて聞いた話に、不謹慎ながらも少し嬉しかった。


 俺の知らないシャリー・エリアスが、少し知れたという意味だが。


「で、何するんだ? 魔法の練習か? それとも、精霊と契約する秘密の方法でも知ってるのか?」

「んーん。何もしない。ただ、来たかっただけ」

「……はあ? お前、そのために俺をここまで呼んだのか?」

「そう。だって、初めから理由を伝えてたら「面倒だ」とか言うでしょ? かといって今のアレンを連れていくわけにはいかないし」

「はっ、相変わらずしたたかな女だな」

「えへへ、でも、ちょっと散歩しよ。本当に無意味だとは思ってないよ。ヴァイスなら、何かあるかもしれないし。あえて言わなかったのも、それを感じられるかどうか知ってほしかったからだよ」


 俺の負けず嫌いをわかっているのか、いい感じに刺激しやがる。

 ったく、案外俺のことを一番理解しているのは、こいつかもしれないな。


「はいはい」

「はい、は一回じゃないの?」

「誰の真似だ?」

「はい、行くよー! 着いてきて―!」

「ったく……」


 それから俺とシャリーは、本当にただ散歩した。

 自然を感じながら新鮮な水を飲んだり、木を眺めたり、時には少し危険な崖を登ったり。


 すると突然、早歩きになった。


「こっちこっち」

「なんだよ」


 森を抜けた先で、とてつもない景色が広がっていた。

 緑一面、だけど耳には岩水の音が響き、風の通りが気持ちがいい。


「はっ、こりゃすげええな」


 原作でなかったことが悔やまれるような景色だ。

 ん、こいつもしかして、これを俺に見せたかったのか?


「いいでしょ。私ね、やっぱり入れ込みすぎというか、考えすぎる癖があるんだ。それは良くないなってわかってて。最近のヴァイス見てると、それを感じたから」


 ……確かにそうかもしれない。


 アレンとシンティア、そして周りの奴らが本気になっているのをみて、いつも以上に力が入っていた。

 冷静でないと思考は鈍るし、戦闘で熱くなりすぎるのは有利に働かないことの方が多い。


 けど、それでもわざわざ連れてくるか?


 こいつだけは単純に見えるが、よくわかんねえな。


「ほら、あそことか――あ」


 その瞬間、シャリーは崖から落ちそうになる。

 俺は咄嗟に動いて、手を出そうとするが――。


「なーんて」


 身体に飛行魔法を少しだけ付与したシャリーは、態勢を立て直す。

 てめぇ、原作を知っている俺からしたら洒落にならねえぞ。


「次同じことをしたら帰るぞ」

「あはは、ごめんごめん。――でも、本当に感謝してるよ。なんか、あの日、私本当に死んだような気がするんだよね。――ありがとう」

「お前は何回お礼を言うんだ?」

「まったく、ヴァイスは素直じゃないなあ」

「俺ほど素直なやついないが」

「うふふ、そうかも。じゃ、いこっか」

「本当に来ただけかよ……」


 その帰り、俺はデビを放流した。特に意味はなかったが、せっかくの自然で人目も触れることのない場所だ。

 ま、親心って奴か?


「デビビ!」

「あんま遠くいくなよ」

「そういえば、不思議だよね。デビちゃんって精霊に近い気がする」

「そうなのか?」

「オリンさんからも聞いたけど、使役して見た目が変わることってあんまりないんじゃないの? そう思うとデビちゃんは全然違うし」

「まあ、確かにそうだな」


 するとそのとき、デビが突然叫んだ。

 何かと思ったら、デカい木を前にして興奮していただけだった。


「デビデビビ!」

「うるさいぞ」

「デビ……」

「ヴァイス冷たい。ん――この木、凄い力があるからわかったのかも」

「精霊ってことか?」

「そうだね。私には視える。自然と力の流れが」


 そういってシャリーは木に触れた。

 俺も、ただ何となく同じように触れた。その瞬間、ほんの少しだけだが、まるで水が流れるようなイメージが脳に刻み込まれた。

 ただそれは、とても暗く、だがその先は光のような。


「……ヴァイス、もしかして」

「なんだ?」

「見えたの? 水が」

「は?」


 そしてそれは驚いたことに、きっかけだったらしい。


 その日を境に、俺は何か力を感じるようになった。

 

 シャリー曰く、同じような経験があったと。

 

 それから毎晩、精霊の力を読み取る訓練を始めた。

 といっても、ただ手を繋いでイメージを共有するだけだが。


「これ、意味あんのか?」

「ある」


 そして来るべき試験の前日、ついに俺は、何かを見つけた。

 言葉にはできない、だが確実に何かを。


 そして、新しい能力を手に入れた。


「ヴァイス、凄いよ。正直、魔法界がひっくり返るレベルだよ。やっぱり……闇は特別なんだ思う。そんなの、見たことがない」

「……はっ、確かにな」


 シャリーが驚くのは無理もない。

 俺も原作で一度も見たことがない、ノブレスがひっくり返るような力を手に入れた。

 ……俺の力? いや、デビが心を通わせたようにも思える。


 全く、ノブレスの構造は複雑だ。

 だが俺と違ってデビは純粋だ。それが、良かったのかもしれねえな。


「でもその目、ちょっと怖い」

「なんでだ? 中2病っぽくていいだろ?」

「中2病?」

「何でもない」


 俺の右目は、黒く、それでいて瞳は赤く光っていた。


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