318 強敵

 巨大な岩石だと思っていたが、まるで山だ。

 飛行魔法を使うこともできるが、魔力の消費は避けたい。


 ――セシル、お前の技を使わせてもらうぞ。


 足に粘着性の魔力を漲らせると、そのまま駆けあがっていく。

 速すぎず遅すぎず、シンティアたちと合わせながら。

 

 俺の隣では、ルナが一生懸命に魔力コントロールをしながら同じように登っていた。

 

 成績では上位に食らいついてきていたが、彼女の戦闘能力は、正直まだまだだった。


 しかしこの短い時間で凄まじい成長を遂げている。


『もしこれができなかったら……私を叩いてください。できれば、おしりを』

『……は?』


 ……まあ、色んなこともあったが、今では良い? 思い出だ。


「ルナ、俺は特別扱いをしない。自分の身は自分で守れよ」

「もちろんです」


 ハッ、いい表情だ。


 セシルからの連絡テレパシーはなかった。

 広範囲すぎるのもあるだろうが、消費を抑えているのだろう。


 ならばすべきことをする。


 岩の切れ目、天井付近で防御結界を見つけた。


 ネズミ返しのように展開している性格の悪さ。


 おもしろい。


 だが俺にはこんなもの無意味だ。


 閃光タイムラプスで切り刻むと、勢いよく空に飛び出した。

 シンティア、リリスも少しだけ遅れて飛び出してくる。

 俺が叩き切った術式の綻びを広げていったのだろう。


 彼女たちもまた、成長している。


 視界の先、祠の前にはミルク先生が立っていた。


 全く動じていない。それどころか魔力すら漲らせていない。


 余裕か、罠か、確かめるすべは現時点で不可能だ。


 どうせ、すぐにわかるッッ!


「――一撃必殺ワンヒットキル


 まずは先手。風の刃と闇の刃を含んだ防御不可能な攻撃。


 いくらミルク先生でも対魔法の対策は俺たちと同じだ。

 

 さあ、どうでる――。


「やはりお前たちがきたか」


 ミルク先生は、剣を構えた。

 刃が直撃する寸前、その場で振りかぶる。


 魔法と魔法が直撃して、エフェクトと共にガラス塊が鳴り響く。

 

 なるほど、寸前のところで剣先に魔法を付与して、剣圧により力を倍増させたのだ。


 防御を詠唱することもなく、かつ最小限の魔力防ぐ。


 0.0001秒遅れてしまえばダメージを受けていたはず。

 だがそれを、何でもないただの素振りのように。


 ――ハッ、さすが師匠だ。


 しかし俺は一人じゃない。

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