199 ソフィアの頼み

 簡単な任務のはずだった。

 ドラゴンを退けさせるか、できれば退治する。


 俺は竜の恐ろしさを身に染みて知っていたはずだ。

 だが二回も倒すことができた。


 油断していたのだろう。


 どこかで魔物は同じだと考えていた。


 普通に考えればわかることだ。


 人間だって一人一人に個性がある。


 俺とエヴァがまったく違う人間のように。


 当然だ。


 動物も、魔物も、魔族も、竜も違う。


「……ふざけんなよノブレス」


 だがそれを考えてもやりすぎだ。


 人類が到達する魔力量を遥かに超える伝説級の四体・・を同時に出現させるクソエピソードを入れ込むなんて。


   ◇  ◆  ◇  ◆


 ――13時間前。


 世界で一番美しいとされる赤い水晶のような瞳が、俺を見つめていた。

 カルロス国の王女、ソフィア姫。


 俺が以前、護衛したお転婆娘だ。


 風の噂によるとあの日以来、国民からの評判が頗る上昇しているらしい。

 理由は単純だ。一般国民からの税を少なくし、上級貴族だけ潤う仕組みを変えていっている。

 簡単なことだがやるには骨が折れる。


 未来・・を見ている証拠だろうが。


「久しぶりねえヴァイス」

「そうですね」


 豪華すぎる応接間。

 これまた豪華なティーカップに入った豪華なコーヒーをすする。


 ふむ、美味い。

 

 横には、縮こまったオリンと、たいして変わらないトゥーラがいる。

 入室した途端「凄いなあ! 私の部屋もこんなのならいいのになあ!」と叫んでいた。


 二人の心臓を半々にすればちょうどいいのかもしれない。


 リリスは決して座らず、俺の後ろに立っていた。

 学校外は従者なのでと、頑なだ。

 彼女の忠誠心には頭が上がらない。


 ソフィアの隣にはゼビスと同じくらいの側近執事と、ダリウスのような護衛騎士が立っていた。

 雰囲気は違うが、どちらも同じくらい手練れだとわかる。


 大規模侵攻が終わって護衛を強化したと聞いたが、その通りらしい。

 それを見て、少しだけ頬が緩んだ。


 魔族たちはもう狙わないと言っていたが、頭のどこかで心配だったからだ。


 それより、ソフィアがなぜか不満そうだった。


「……なんで敬語なの」

「どういうことですか」

「私との関係はそうじゃなかったはずよ」


 いや、俺としてはタメ口で行く予定だった。

 だが両隣の圧が凄すぎる。


 仮にも王女だ。あの時は緊急事態だったが、こういった場では普通だろう。


「関係って言われて――」

友人・・でしょ?」


 だが次の瞬間、ソフィアの言葉でふっと力が抜けた。

 ああそうか、確かにな。


 そう思ってくれているのか。


「わかった。だがソフィア、隣の圧を何とかしてくれ」

「え? あ、そういうこと? 大丈夫よ。二人とも私と仲良くしてるから。ねえ、オルス、ビアド」

「さようでございます」

「お嬢様のお転婆っぷりは、今に始まったことではありませんから」


 両足をポンポン、オルスが執事で、ビアドが騎士らしい。

 どうやら本当に大丈夫らしい。

 むしろちょっと疲れているみたいだ。


 なるほど、ソフィアが好きに政策をしている裏には彼らの苦労があるわけだ。


 だが友人ってことは、そういうことか。


「つまりこれは、国からの正式な依頼ではないってことか」

「その通りよ。本当に悪いんだけど、個人でのお願いになるから公に評価されることはないの。先に伝えたかったんだけれど、個人で手紙を出すことは難しくて」

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