207 覚醒

「オリン、先に戻ってくれ。幸い残りの竜は滝から奥側に移動した。村までは相当遠いのですぐには危険はないはずだ」

「ヴァイス君は?」

「俺はあいつらと対話・・を試みる。聞くことがある」

「誰が、彼らを攻撃したのかってこと?」


 やっぱりオリンはよく考えている。

 見た目の可愛さとは裏腹に、熱いものを秘めているのだろう。


 アレンよりも純粋な正義の心を持っている。

 ま、それはノブレスでは時に牙を向くが。


「その通りだ。で、その顔は……お前もってか」

「もちろん。それに仲間を見捨てることは絶対にしない」

「……だな。悪かったオリン」

「気にしないで。それより、対話といってもどうしようか……」

「おそらくだが奴らも理由が知りたいだけだろう。誰が攻撃してきたのか、何のためか。その答えは持ち合わせてないが、違うと伝わればいい」

「そうだね。となると――」

「ああ、会話ってのは対等な立場、少なくとも認めてもらう必要がある。戦いでも何でもそうだ。格下の言葉に誰も耳を傾けない」


 ノブレス・オブリージュの基本でもある。

 エヴァ叱り、ミルク先生、シエラ、エレノア、強者の共通点だ。


 雑魚に用はない。


 だから俺たちの存在を見せつける。その上で対話だ。


 四竜は攻撃力がとんでもない。

 だがその分、魔力消費も凄まじいはずだ。


 つまり――。


「攻撃を連発させた上で対等な勝負に持ち込む。そのために必要なのは――囮だ」


 するとオリンがおもむろに立ち上がった。

 同じことを考えていたのだろう。


「ならボクが適任だ。幸い今この森は、竜から逃げてきた魔物で溢れてる」

「……それはそうだが、テイムしてる時間なんてないぞ」

「ヴァイス君、ボクは何度も負けた。本当に……。本当に悔しかった。でも、それだけじゃない。守りたいんだ。魔族から、脅威から。――ずっと弱いままじゃない」


 するとオリンは、俺が見たこともない魔法を詠唱しはじめた。

 原作で一度も聞いたことのない術式。


 まずは左手に付与したかと思えば、光り輝く。

 そして次に右手に術式を付与、黒く深い色がボウッと輝く。


 両手が、同じように輝いた。


「オリン、なんだそれは――」

「ボクはわかった。自分がひどい人間なんだって。でも、それでもいい。誰かを守る為なら」


 そのとき、グリズリーベアーが現れた。

 オリンは、そっと近づいた。


 なんと手で触れた瞬間、使役の術式が付与された。

 そして次の瞬間――なんと、テイムが完了したのだ。

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