208 オリンの覚悟と仲間への信頼


「なんだと……」


 おそらくだが、術式の簡略化だ。

 余計な魔法を省き、触れるだけでテイムを完了させる。


 それも洗脳レベルに近い強制技。


 こんなのはありえない。

 原作で存在していない魔法だ。


 だがオリンは悲し気にベアーの頭を撫でた。これからのことを思っているのだろう。


 それでも、目は覚悟を決めている。


「ごめんね。でも、力を貸してほしい」

「ガウウ」

「……ヴァイス君、囮はボクが何とかする。後は――頼んだよ」


 次の瞬間、オリンは森に消えていった。

 断続的に光が弾いて、消える。


 ハッ、なんという奴だ。


 あいつは生来心優しい。

 ノブレス・オブリージュがそう決めたからだ。


 今も苦しいのだろう。


 だが、奴もわかっている。

 四龍と対話することの重要性や、今後魔族と戦う為に強くならなければならないことを。


 俺は、こんな時にもかかわらず笑みをこぼした。

 ほんの少しだが弱気になっていた自分にだ。


 不可能を可能にするのはノブレスの基本でもある。

 たとえ相手が強くても、最強でも、勝てないと思っても、そんなのは当たり前だ。


 それが、このゲーム、この世界でのたった一つの変わらないもの。


「デビ、行くぞ」

「――デビビ!」


 闇からデビが現れる。


 久しぶりに全力だ。

 ――死ぬ気でやってやる。


「何度も死んでもらうことになる。覚悟してくれ」

「デビ!」

「……ありがとな」


 それに少し考えたらわかることだ。

 あいつら・・・・は、リリスは、俺と一緒にいたんだ。



 ――諦めるわけがない。


   ◇


 ヴァイスの位置から北へ、滝の奥。

 トゥーラとリリスは、空の竜を見上げていた。


「我らを補足しているにもかかわらず、攻撃はせず、か」

「みたいですね。距離はありますが、カルタさんほどではありません」


 二人の言葉に、ビアドが静かに声を漏らす


「……もしかして戦うのですか? この先の崖を降りれば、おそらくバレることはありません」


 それに対し、リリスがニコリと言葉を返す。

 

「はい、もちろんビアド様は離れてください。――ですが、私は戦います。なぜなら知っているのです。ヴァイス様は退きません。決して一度決めたことを覆すわけがありませんから。きっとオリンさんと話した上で、何か仕掛けてくれるはずです」


 それに対し、トゥーラもほのかに笑みを浮かべた。

 だが、すぐに表情を切り替える。


「その通りだろう。我らも個別で考えておこう。対応できるようにも位置を取るべきだ。リリスさん、私も共に戦う」

「わかりました。トゥーラさん、リリス、で大丈夫ですよ」


 二人は頷いてよりいい位置を見極めようとした。

 一方でビアドは驚いていた。自分よりも若く、それも女性がまったく恐れていないことに。


 トゥーラの事は知っていたが、あの時はまだ学生だった。だが今は違う。

 歴戦の戦士の顔だと。


 ならば、自分も逃げるわけにもいかない。


「……剣技には多少の自信がある。悪いな、怯えていた。――私もやる」


 トゥーラとリリスは、笑顔で頷いた。そしてビアドは自分の話し言葉に気づき訂正しようとする。


 だが、リリスが制止した。


「その話し方で大丈夫ですよ。さて、ヴァイス様とオリンさんならどうするのか、考えてみましょうか」


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