267 秘密

 ロズが瞬間転移で消えてから、数分が経過していた。

 気にかかるのは、セシルからの連絡が一切ないことだ。


 観察眼ダークアイで魔力感知しても、場所は動いていない。

 それがまた不気味だ。

 魔法具を守っている魔術結界は、シャリーが何重にも罠を仕掛けている。


 解除の難易度が高い上に、よしんば解除されたとしてもすぐにわかる。


 だが攻撃すらされていない。

 セシルが純粋なぶつかり合いでロズに勝てるかどうかは疑問だが、魅了や行動を制限する精神魔法を使うような奴でもない。

 真正面からの戦いになるはず。

 

 そんな考えが過るも、魔物の殲滅は順調だった。


「ヴァイス、残りは私だけで大丈夫です。あなたの判断で、どこかの援護へ――」


 これは、あらかじめ決めていた事だ。

 余裕がある所から、余裕がないところへ。


 するとそこで、カルタとオリンが移動しているのがわかった。

 おそらく、アレンとシャリーの元へだ。


 普通なら俺はデュークとリリスの所に参戦すべきだ。

 だが、アレンはこの物語の主人公。


 否が応でも世界の中心だ。


 ならば、答えはひとつ。


「頼んだぞ」

「デビビ!」


 シンティアに目配せと声で合図すると、デビだけを放流し、後を任せる。

 あらかじめ動線を確保しておいた廊下を突き進んでいると、現れたのはカルタとオリンだ。


 少しダメージを受けているが、致命傷とは程遠い。

 ハッ、相手は魔界の連中だ。原作だと最終局面に近い相手だというのに。


 だがここまで急いでるのはおそらく――。


「消えたのか?」

「そう、逃げたんだ。もうすぐ倒せそうだったのに」

「視たら、アレンくんとシャリーさんのところだったから。――急ごう」


 瞬間転移は万能ではないのだろう。

 何か制限があると思うが、今はわからない。


 到着すると、黒い球体の結界が存在していた。


 閃光タイムラプスでは切れない、特殊な魔界のものだ。


 だが――まるでアイスのように溶けていく。


 姿を現したのは、アレンとシャリー。

 対する相手は、金髪に、ピンク髪に、黒髪の子供、だが全員が目赤くしていた。

 これは、奴らが本気を出したときに出現する力の証みたいなものだ。


 この近距離でシャリーは戦いづらい。

 つまりアレンが、結界を強制解除させるほど相手を撃退したというのか?


 ――ハッ、ありえない、だが、これが真実か。


 すると地面が光る。

 そこに現れたのは、ロズだった。


 だが驚いたのは、なぜか魔力が感じなかった・・・・・こと。

 漏出でもなく、ただ――感じない。


『ファンセントくん、ロズはもう魔法・・を使えない。私もそっちへ向かう』

『……セシル、お前なにをした?』

『また話す。――でも、私は勝ったよ』

『ハッ、楽しみにしてるぜ』


 まったくこいつらは、どれだけ原作を改変すれば気が済むんだ。

 だがこれでこいつらはジエンド。


 終局だ。


「さて、魔族について、すべて吐いてもらおうか」



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