070 ブルーノ冒険者大会
「――それで終わりか?」
一回戦の相手は、センチネルという女だった。
年齢はわからないが、20代くらいだろうか。
火魔法の使い手で、シンプルだが高火力の炎で攻撃を仕掛けてくる。
面白かったのは、俺が回避した炎が地面でまだ燃えていたのだが、それが最後の最後で四方から俺に襲いかかってきたことだ。
これこそが彼女の最大魔法で、そして巧妙に仕掛けていた罠だった。
「これで、あんたは終わりよ!」
といっても、俺は気が付いていた。
魔力が通ってるか通ってないかなんざ、一目でみてわかる。
だが学園では一度も見たことはない技だ。
遠隔での魔法、面白い。
まずは一つ目、お前のその技、俺が使ってやるよ。
そしてすべてを出し終えたセンチネルを一撃で気絶させた。
当然だが、この大会に訓練服なんてものはない。
相手を殺しても失格にはならないが、一番の目的はファンセント家の知名度を上げること。
そしてヴァイスの名をもっと知らしめることだ。
必要以上に必死に叩き潰すのではなく、圧倒的な力で捻じ伏せるほうが、周りの目からみても興奮するだろう?
『勝者、ヴァイス・ファンセント選手!』
歓声が上がる。このセンチネルという女は、別の国で優勝経験もあったらしい。
といっても大したことはなかった。
ノブレスの下級生でいうところの中堅くらいだろう。
といっても勉強になることは多い。
魔法の使い方には特徴がある。同じ火属性でも、人によって戦闘方法が異なるからだ。
この大会が終わるころには、俺はまた強くなっているだろう。
次の厄災では、絶対に魔族を逃がさない。
エヴァやミルク先生がいなくとも、一人で圧倒できるように。
「ヴァイス様、さすがです! 凄まじい動きでした!」
「まあな」
「ヴァイス、いつも通り恰好良かったですわ。あ、汗をちょんちょん」
「掻いてないが……」
会場は大人だらけで歓声もすさまじいが、シンティアもリリスもいつもと変わらない。
ここは北と南で分かれていて、俺は北側、センチネルは南側から来ていた。
チーム分けというほどではないが、わかりやすく分かれている。
「あいつ、めちゃくちゃ可愛い女の子も連れてるぞ」
「天は二物を与えてんな……いや、それで足りるか?」
ま、他人からの称賛はそこまで嫌いじゃない。
せいぜい俺を褒めたたえろ。
続いて二回戦と三回戦は見学だ。
さっきのセンチネルは、どうやらそこそこやるほうだったらしい。
大した奴はいない。
といっても魔法ってのは相性の部分が大きい。
単純な力の差は、それだけじゃ図れない。
例えば「デビ」こと「デーモン」がそうだ。
あいつは不死身という固有魔法を持っていて、敵が自身より強くてもいずれ倒すことができる。
カルタの飛行魔法だってズルみたいなもんだ。
単純な魔力、レベルだけで勝敗は決まらない。
さっきのセンチネルも、魔物を狩る速度だけでいえば俺よりも効率がいいかもしれない。
火属性の魔法は俺も放てるが、威力はまだ大したことないからだ。
俺の課題はいくつもあるが、そのことについてよく考える。
以前もそうだったが、厄災では魔物が大勢押し寄せてくる。
次は魔族も本腰を入れてくるだろう。
だが俺には広範囲の魔物を駆逐する技がない。
それを、この大会で見つけるつもりだったが、まずは一ついいのを見つけた。
魔法はイメージの世界だ。
最後に努力さえすれば模倣ができる。
まァ、雑魚には不可能だがな。
だが万能というわけじゃない。
タッカーの戦いでもそうだったが、能力が高い魔法ほど間近でみないとわからないのだ。
試合中に盗み取れるかどうかは運次第もあるだろう。
しかし退屈だ。
本当に大した奴がいない。
よくよく考えれば、強い奴なら結局どこかで当たるだろう。
次の試合まで体力を温存しておくか。
「シンティア、俺の試合が始まったら起こしてくれるか。船であまり眠れなかったんだ」
俺は繊細だ。いつものお気に入りの枕を忘れたのが悔やまれる。
だがシンティアは、遠くを見ていた。それはリリスもだ。
視線に気づいた俺も、ふと向こう側を見ると、見知った奴が立っていた。
あっちは気づいているらしい。というか、俺の試合を見ていたのか。
「なんであのバカたちが」
俺と反対側いた男が呼ばれて、そして、対面を瞬殺する。
そいつの名前は――。
『勝者、アレン!』
にへへ、と笑いながら、笑顔を向けてくる。
デュークとシャリーもいた。だが出場登録はしていないのか、シンティアとリリスのように見学していた。
冒険者のトーナメントに出るのは、貴族だと少し面倒だ。
あいつらの家は名門だし、親から許可をもらうことができなかったのだろう。
だが
思えば
試験で戦ったのも最初だけだ。
気にくわないが、共闘のほうが多かった。
……ちょうどいい。
アレン、俺はお前を叩き潰してやる。
ずっと成績でも負けているお前は、俺以上に勝ちたいはずだ。
だがそうはさせない。この大会で、俺たちの序列をハッキリと叩き込んでやる。
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