241 幸せのその先へ
一切の容赦なく振り下ろした剣。
たとえプリシラがどれだけの魔力を使っても一撃で即死させる力を込めた。
この試合に負ければ全てを失う。
シンティアたちが残してくれた覚悟を無駄にはしない。
だが――。
「――なぜ、邪魔をするんですか」
俺の剣を受け止めたのは、エヴァ・エイブリーだった。
……ここへきてまだ愉悦を楽しんでるというのか。
もっと、もっと争えと。
俺は勘違いしていた。
彼女は原作と違うんじゃないかと。
何も変わらない。
ただ戦闘が好きなだけだ。
「殺しても意味がないからよ」
「プリシラを殺せば俺たちの勝ちです。意味がないわけ――」
「違う。――王様は彼女じゃない。ニールよ」
「…………」
ありえない。
なぜならこの土壇場で嘘をつく理由が、プリシラにはない。
命をかけて訓練服の魔術を切ったのだ。
勝負に負けても、試合には負けないように。
もしニールが王様なら、こんな無駄な事はしない。
「信じられない」
「私は嘘をつかない。忘れたの?」
「どうでもいい。プリシラを殺してから確かめればいい」
「あなたが本気でそうしたいなら止めないわ。でも、その結果、この試合の意味がなくなってもいいのなら」
「何が――」
「彼女を殺せば、ニールの心は崩壊するでしょう。それが失意か、憎悪か、どちらに転ぶのかは私にもわからない」
「……たとえニールがふたたび刃を向けてきたとしても、倒せばいいだけだ。それとも俺が負けるとでも? そう思ってるんですか?」
「いいえ、あなたは勝てるでしょう。どれだけの犠牲を払うのかはわからないわ。――でも、最後はあなたが勝つ」
何が言いたいのかわからない。
俺は、エヴァに殺意を向けた。
「じゃあ、何がいいたんだ。あんたは――」
「後悔する」
「何が……」
「あなたは確実に後悔する。この選択に。なぜ、なぜあの時、と」
「……しない。俺は、後悔なんてしない」
「あなたは彼女と剣を交えて何を感じた? 狂気? 異常性? 違うでしょ。――信念、絆が、わかったはずよ」
「……じゃあ俺に負けろとってことですか。全てを諦めろと? この試合に引き分けはない。俺が負けるしかないと?」
「だから言ってるでしょう。ニールが王様よ。それに、待つだけで勝てるわ」
「どういう意味ですか」
「
そこでプリシラが、意識を取り戻したのか血反吐を吐いた。
何という力、まだ自己回復しようとしている。
俺は手に力を込めた。
しかしエヴァが歩み寄る。
「頑張ったわねえ。頑張る子は好きよ。でも、あなたは王様じゃないの」
「……違う私は――」
「直前でニールが変えたのよ。彼女に責任は負わせられないってね。まさかあなたが魔術を切ってるなんて、私たちもわからなかった。だから、あなたが死んでも無意味なの」
「そんなの……信じない……」
「こんな最後はね、面白くないの。――おやすみなさい。プリシラちゃん」
次の瞬間、エヴァはプリシラを眠らせた。
血を固めて、治癒魔法を付与する。
俺がその場を後にしようとすると、エヴァが声をかけてきた。
「どこへ行くの」
「……ニールを倒してダメなら、その後にプリシラを殺せばいいとわかっただけですよ」
「そう。でも、残念ね」
「残念?」
「――きっと、もう終わるわ」
『シャリー・エリアス脱落。ニール・アルバート・プリシラ・シュルツにポイントを付与』
その時、遥か高い空で、シャリーが落とされた。
「クソ、ニールめ――」
「ヴァイスくん、見るのも勉強よ。あなたの――ライバルの姿を」
◇
「黙れ黙れ! 平民の癖に、世界も知らないくせに知ったふうな口を利くな!」
「お前の言う通りだ。僕は何も知らない。いや、知らなかった。でもわかってきたんだ。どうやって法を改善していくのか。どうすれば、世界がよりよくなっていくのか。君のやり方は本当の弱者を救済しない。だけど僕は見捨てない。プリシラさんも、皆も助ける」
「……ふざけるな。お前みたいな奴から淘汰される世の中なんだ。何もわかってない。力こそがすべてだ。恐れが、恐怖が、全て兼ね備えていないと駄目なんだ。善人は必要ない!」
「違う。君のやり方は間違ってる。プリシラさんの顔をよく見ろ。彼女は確かに君を慕ってるかもしれない。だけど、苦しんでる。もっと、もっといい方法があるはずだ!」
「ふざけたことを、この平民が!」
遥か上空で、ニールとアレンは言い争いながら戦っていた。
俺は、驚いていた。
場面は違えど、二人の台詞が、原作と同じだったのだ。
最凶のニールと、正義を主張するアレン。
そこには誰もいない。
ただ二人だけの世界にみえた。
緩やかに手の力が抜けていく。
これは、あいつの物語でもある。
アレンは、昔と違って夢見がちなただバカじゃない。
法律について学び、シャリーやデューク、メリルやベルクたちと奴隷を非合法にする為、日夜奮闘している。
ノブレス・オブリージュの登場人物が、真剣に想いをぶつけ合っているのだ。
本来は存在しない俺が、簡単に横やりしていい問題じゃない。
――ヴァイス、悪いが俺の我儘を聞いてくれ。
あいつはバカだ。
だが、主人公だ。
しっかり見届けてやる。
お前がこの世界で、本当に主人公なのかどうかを――。
「アレン、お前はわかってない。優しさだけで世界が救えると思うな!!!」
「そんなのわかってる。僕は、僕の正しさの為に、動いてるだけだ!」
ニールの動きもそうだが、アレンの剣捌きや動きが、プリシラを凌駕するほど機敏に動いている。
一体何が――なぜ、あの動きができる――。
魔眼を発動すると、俺は、笑みをこぼした。
エヴァに、声をかける。
「いつのまに」
「あの子、やっぱ凄いわねえ」
アレンは、エヴァ同様の見えない手を一本だけだが使いこなしていた。
それを器用に駆使しながら攻撃を受け流し、魔法を発動し、自由に空を飛んでいる。
ハッ、主人公野郎が。
なんでお前は、俺の努力を一瞬で抜き去りやがる。
――
「負けられない。僕は、この世界の常識を覆す。その為には、もっと力がいる。恐怖が」
「違う。僕が、僕が必ず正しさを証明してみせる!」
ニールの攻撃が、アレンの心臓にぶち当たる。
しかしほんの少しだけ、アレンの剣が速かった。
即死判定のエフェクトが光る。心臓を一撃。
あいつもわかっていたか。これしかないと。
そして――。
『王様であるニール・アルバートが倒された為、中級生のチームが勝利しました』
エヴァが、プリシラの身体が転移魔法に包まれていく。
ハッ、エヴァの言う通りか……。
「それじゃあまた後でね、優勝者くん」
「……一つ聞かせてもらえませんか」
「なあに?」
「もしプリシラが王様のままなら、あなたはどうしてましたか。俺の剣を止めてましたか」
「さあ? それが面白いなら、そうしたかもね」
「……そうですか」
「ふふふ、またね」
エヴァはやはり原作と違う。
攻撃を止めたのは愉悦の為じゃない。
無駄な殺しをさせないためだろう。
後悔……か。
……まったく、この世界の住人は、なぜこうもかっこいいんだろうな。
部外者の俺が、ここにいていいのだろうか。
――ヴァイス、お前はどう思う。
俺は、この物語に必要か?
……答えろよ。
するとそこに、アレンが降りて来た。
「なんとか、勝ったね」
「ハッ、このボロボロ野郎が」
「でも、勝ったよ」
「二番目を倒しただけだ。偉そうに言うな」
「僕が王様を倒したんだけど……」
「あいつよりプリシラのが強かった」
「そんなことない。ニールは強かったよ」
「バカが、そんなわけがない。原作も知らないくせに」
「原作ってなに?」
「……何でもない」
そのとき、アレンが手を上げて近づいてくる。
それも満面の笑みで。
「なんだ?」
「ハイタッチ」
「あ?」
「リリスさん、これで戻って来るよ」
「ハッ」
クソ野郎。
だがま、その通りだ。
けどな――。
「手を引っ込めろ」
「なんで!?」
慣れあいは必要ない。
結果だけがあればいい。
『中級生チームの転移を開始します』
空から降り注ぐ白い光。
転移魔法に包まれる中――。
「ま、よくやったんじゃねえか――アレン」
「ふふふ、めずらしいね。ありがと――ヴァイス」
◇
「プリシラ、プリシラ!」
「ニールさま……すみません、負けてしまいました……」
「そんなことはどうでもいい。なぜ、訓練服を……」
「えへへ、奥の手ですよ……でも、王様を変更したら教えてくださいね……」
「……すまないすまない本当にすまない」
転移から戻ると、ニールの慌てぶりにみんなが驚いていた。
大粒の涙を流し、まるで母親のように寄り添っている。
その光景には、アレンでさえも言葉を失っていた。
「おかえりなさい、ヴァイス」
「……シンティア」
「信じていましたよ。私は、あなたが勝つことに」
「最後は美味しい所を奪われたがな」
「いえ、あなたがいなければ勝てませんでしたよ」
「……かもな」
その後、プリシラは、ココ先生、ニールの元で無事に治癒を受けた。
流石に俺が咎められることはなかったが、ほんの少しだけ居心地が悪かった。
一部では俺が訓練服の魔術を切ったんじゃないかと噂になったが、それはニールとプリシラが完全に否定した。
学園へ戻る馬車に乗り込む際、一番の功労者を見つけ、頭に手を置いた。
「よぉ大砲」
「ふぇ、ヴぁ、ヴァイスくん!? どうしたの!?」
「よくやった。お前のおかげだ」
「ええ!? えへへ、えへへ。ありがとう」
カルタは、本当に凄い。
いつか彼女にお礼しないといけないな。
そして――リリスが戻って来た。
もちろん、涙を流しながら。
「ごめんなさいヴァイスさまああああああああああああああ」
「泣きすぎだろ」
「もう、もう離れませんからあああああああ」
「ああ、そうだな」
「リリス、もうこれで最後ですよ」
「はいいいいいいいいいいいいいいい」
いつも通りの日常が戻ってきた。
争い、ポイントを目指す。
ゲームならこれで終わりだ。
ニールとプリシラを倒して、平和が戻る。
だが――。
「ファンセントくん、お疲れ様」
「ああ、セシルありがとな」
「この前は、役に立たなかったからね。シンティアさんも、ごめんなさい」
「とんでもありませんわ。セシルさんがいたからこそ、最初に有利を取れたのですから」
セシルとシンティアが微笑んだ隣には、アレン、シャリー、デュークがいた。
試験が終わって、ニールとプリシラは学校に来なくなった。
休学届け出をしない場合、ポイントが大きく損失する。
このまま退学、それが、原作通りだ。
俺は後に二人の関係性を知った。
クソみたいな世界の中で、細い綱渡りで支え合っていたことも。
当然全てわかったわけじゃない。知る必要もない。
そして俺たちは、後日、ニールの屋敷へ訪れた。
デカい、デカすぎる中庭。
だがどこか、前よりも寂し気に見えた。
現れたのは、プリシラだ。
「……ヴァイス・ファンセント――くん」
「こんにちは、腑抜けた先輩は何してますか」
「なんでそんな……」
「ヴァイス、その言い方はやめてください。プリシラさん、ニール先輩を連れてきてもらえませんか。お二人に話したいことがあります。とても、とても重要な事です」
「……ニール様は来ないと思います。もう、何もかも……」
「いいから呼んでくれ。奴隷紋についてだと言えば来るはずだ」
「……わかりました」
そしてニールは、中庭まで歩いてきた。
顔色がまるで死人だ。ハッ、バカが。
「よぉ先輩、随分とやつれたみたいですね」
「……何か用か?」
「あざけ笑いにきたんですよ。奴隷の価値を上げるだなんてたいそうな夢を持ってたと聞いてね」
「――あなた、許しませんよ!」
それを聞いたプリシラが激怒する。
ニールは、表情一つ変えなかった。
「クソみたいなメイドには、クソみたいな主人か」
「――お前、言っていい事と悪い事があるぞ」
だが俺の罵倒に、ニールは怒りをあらわに胸ぐらをつかんできた。
「あんたの事業には綻びがある。それは、奴隷の価値を上げる一方で、奴隷紋を持つ人や能力の低い奴を見捨てることだ。それにどうあがいても、奴隷紋を持つ見た目の差別は消えない」
ニールの事業によって、奴隷紋がある人間は、その価値が更に下がっていた。
だからこそプリシラは隠さなかったのだろう。
しかし――。
「何が言いたい? お前に何がわかる!」
「だから完全に消せばいいんですよ。簡単な事でしょう」
「ふざけたことを――」
「消せます。私たちは、その為に頑張ってきたのですから」
「何が……どういう」
「奴隷紋の洗脳を切る魔法は、ただの過程でしかありません。本当に目指していたのは、奴隷紋を跡形もなく消す事です。そしてそれが、成功しました。しかしながら、私とヴァイスだけの力ではありません。ここにいるアレンさん、シャリーさん、デュークさん、セシルさん。そして、ここにはいないですが、多くの方が協力してくれました。そしてエヴァさん」
「……エヴァだと?」
「はい。治癒について、奴隷紋について文献、とても危険な場所から盗み出してましたよ。正直、肝が冷えそうでした」
「ハッ、信じられないな」
「なら、お見せます。――プリシラさん、いいですか」
「彼女に、触るな!」
そこにアレンが、前に出る。
「信じてほしい」
その目は、その言葉の重みは、二人にしか分かり合えないとわかった。
ああ、これが、これこそが、本当の――未公開か。
そしてシンティアが、奴隷紋に手を触れた。
光り輝き、少しずつ、少しずつだが、紋章が消えていく。
それを見ながら、ニールが涙を流す。
もちろんプリシラもだ。
「あ、あ……消えて……」
「……プリシラ、プリシラ!」
全てが消えた後、二人は抱き合っていた。
人は表面だけじゃわからない。
こいつらが何を想い、何を信じ、どう生きてきたなんか、本人たちでしか知りえない。
それに俺は、本来そこに触れていい奴じゃない。
しかし俺には目標がある。
これも決して、善意からじゃない。
「魔法についての学術はまとめた。後はお前らで何とかしろ。――だがタダじゃない。先輩であろうが親であろうが、俺は使えるものは使う。これは、貸しだぞ。プリシラ、お前もだ」
それを聞いて、ニールが、プリシラが、頷いた。
「……ああ。わかった。――すまない。リリス・スカレーット、君を――」
「大丈夫です! みんな笑顔が、一番ですから!」
そして俺たちはその場を後にした。
これですべての終わり、最高の
俺を守る不死身の盾か、ハッ、いいねえ。
「よっしゃ打ち上げいこうぜ!」
「黙れササミ、お前今回を何した?」
「え」
「セシルも守れず、秒で落ちやがって」
「だ、だってよお……いっぱい上級生がいてよお……それに空高く逃げたりしてよお……」
困り顔のササミの肩に、シャリーとアレンが手を置く。
「確かに何もしてないわよ」
「デューク、そういうときもあるさ」
「くう……だからこそ打ち上げだ! なあ、ほら! セシル!」
「私を守ってくれると信じてたのに」
「な、なんでセシルまでよおおおおおおおお」
その後、どっと笑いだす。
ハッ、まったく元気な奴らだ。
バカが、バカどもが。
お前らはわかってない。
今この光景が、どれだけ奇跡なのか。
どれだけの奇跡が重なってこうなっているのか。
……いや、わからなくていい。
これが日常でいい。
俺もある意味ではエヴァと同じで観測者だ。
こいつらの為ではなく、完全制覇の為に動いている。
破滅を回避し、ノブレス・オブリージュを最高の形で終わらせるだけ、ただそれだけだ。
当然、魔王をぶっ倒してな。
こいつらはその後、俺の兵士にしでもしてやるか。
「けどま、ササミの言う通り喉が渇いたのも事実だ」
「ヴァイスぅ!? お前やっぱ、いい奴だよなあ! 凌辱貴族じゃねえよなあ!」
「黙れ」
「じゃあみんなに声をかけとくわ。アレン、飛んできて」
「ええ!?」
「ほら、力貸すから」
「わ、わかった……」
だが一つだけわかったことがある。
アレンとニールの戦いを見て感じたことだ。
俺はこの物語に必要かもしれない。
だが主人公ではない。
このままでは破滅の回避は難しいだろう。
……もっと頑張らないとな。
「ヴァイス、愛してます」
「……突然なんだ」
「ふふふ、愛を伝えるのはいつでもいいでしょう」
「私も! 私も好きです!」
ま、こいつらの為にもな。
◇
「プリシラちゃん、今日も綺麗だね。おまけつけといたから」
「えへへ、ありがとうございます!」
王都で買物を終えて帰宅。
奴隷紋が綺麗さっぱり消えたことで、私は……前より笑えるようになっていた。
今度、おしゃれな服でも買ってこようかな。
ニコラみたいに、スカートを履こうかな。
セリアみたいに、ネイルしようかな。
うーん、レイナみたいに足が細かったらいいのになあ……。
屋敷に戻ると、私は突然、子供たちからとんでもないことを聞いた。
「え、ど、どういうこと!?」
「ニール様の様子がおかしいんだ!」
「――何が」
一体何が。嫌だ、いやだ。
もう、何も――起こってほしくない。
あの日、私たちが試験に負けた後、ニール様は奴隷紋を持つ人たちを自由にする為。動き始めた。
今までのコネや、お金、政界に進言し、政府を動かそうとした。
すぐにうまくいくとは限らない。
もしかして、それで。
ああ、もう――どうして――。
「ニール様!」
扉を開けて中に入る、すると――。
「くっくはははっ、あいつら……」
「ど、どうしたんですか!?」
なぜか、笑っていた。
それも、以前のように嬉しそうに。
「届いたんだ。提出した法改善の書類がな。それと覚えてるか。その為に募っただろう。大勢の貴族や寄付や署名を」
「え? は、はい」
それが、うまくいかなかったのだろうか。
確かに難しかった。
なぜなら私たちの評判は最悪だからだ。
今さらなんだ、となるのはわかっていた。
そしてニール様は、その書類を手渡してくれた。
するとそれを見て、思わず笑みをこぼす。
「笑えるだろう」
「……ふふ、これは、笑えますね」
そこには、驚くべき人たちが、名を上げてくれていた。
この法律提案は、下級生のベルクくんとメリルさんのストーン家、フリーデ家が後押ししてくれた。
奴隷についての尊厳、奴隷紋の禁止と国を挙げての解除を目指す。
今後、完全撤廃を目指していけるように。
書類には、署名と多額の寄付金、更には全面協力と書かれている。
(ミルク) アビタス家。
(シャリー) エリアス家。
(デューク) ビリリアン家。
(カルタ) ウィオーレ家。
(セシル) アントワープ家。
(トゥーラ) エニツィ家。
(オリン) パステル家。
(シンティア) ビオレッタ家。
――(ヴァイス) ファンセント家。
そして、多くの個人署名。
アレンくん、リリスさん、ノブレス学生のみんな、教員。
仲が悪かったはずのウィッチ家まで。
最後は、とても、とても驚いた。
「これ、個人宛に来たんですか」
「ああ、面白いものを見せてもらったお礼だと」
「……ふふっ」
エヴァ・エイブリーが、アルバート家の後押しをしてくれるらしい。
今まで彼女がどこかに属したという話はない。
おそらくこれは、とんでもないことになる。
一気に法律の話が進むだろう。
ああ、ようやくだ。
でもまだ時間はかかる。でも、これなら――私たちが生きているうちに、夢はきっと叶う。
「プリシラ、ありがとう。君のおかげだ」
「……いえ、ニール様です。あなたが優しいからですよ」
その日、ニール様はとても素敵な笑顔を見せてくれた。
まるで、私を始めて迎え入れたときのように、とても、とても素敵な。
ニコラ、レイナ、セリア、イザク様、お母様。
これからも私は、ニール様をお守り続けます。
……でも、いつになったら、私の気持ちに気づいてくれるのかなあ。
「プリシラ」
するとその時、ニール様が、私の足元で片膝をついた。
一体何が――。
その手には、小さな、それでいて綺麗に白く輝く箱を持っていた。
「君がいなければ僕は生きていなかった。これからの世界で、君がいない人生は考えられない。――僕と、婚約してもらえないか」
それを聞いて、私は――涙を流した。
咄嗟にニール様が身体を支えてくれる。
「どうした、何が、身体が痛いのか!?」
「……違いますよ。嬉しいんです。私、嬉しいんです」
「……そうか、よかった」
「でも、いいのかな。私、幸せになっていいのかな」
みんなが……怒らないかな。
そのとき、ニール様が指輪を手渡してくれた。
……なんで、はめてくれないだろ――。
「内側をみてくれ」
「え? ――……ああ……えへへ」
そこには、皆の名前が書いてあった。
笑顔が素敵で、凄く優しい『ニコラ』。
誰よりも格好よくて、頼りになる『セリア』。
聡明で小さくて、可愛い可愛い『レイナ』。
ああ……嬉しいな。
凄く、嬉しい。
「ニール様っ!!!」
「んっ、ど、どうした!?」
「私たちは幸せになりましょう。もっと、もっと幸せに。それだけの権利はあるはずです。わがままをいっていいはずです。――みんなの分まで、幸せになりましょう。幸せにします。でも――幸せにしてください」
私は強く抱きしめた。
ニコラの腕で、セリアの腕で、レイナの身体で。
私の、想いで。
「ああ、必ず幸せにする」
ああ――生きてて――本当に、良かった。
――――――――――――――――
あとがき。
これにてニールとプリシラ編は、完結になります。
今後も出てくるとは思いますが、ひと段落、という感じですね。
人って表面だけじゃわからないと思うんです。
笑ってたり、怒ってたり、泣いてたり、でも、それが本当の感情なのかどうかって、当人すらわかってないことがあると思うんです。
今回の中心人物であるニールとプリシラは、世界から好かれてはいませんでした。
それでも前に進み、光を求めて走り続けます。
その過程が、善か、悪か、なんて簡単には言えません。
対するヴァイスも、決してブレない意思を持っています。
揺るがない、どんな手段を使っても突き進む強い心を。
しかしそれは、アレンも同じです。
このノブレスの物語の主人公は彼で、それだけは決して覆りません。
当然アレンにも目標があります。
それは、もう笑ってしまうぐらい真っ直ぐな――世界平和です。
今どきありえませんし、最初はふわっとしていたので、ヴァイスからしっかりお叱りを受けます。
ですが人は成長します。
ヴァイスが魔法を覚えるように、アレンも明確に道を進んでいるのです。
ヴァイスがニールを直接倒さないなんてつまらない、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、私の中ではこれが、これこそがノブレス・オブリージュです。
全員が、自分の目標の為に死力を尽くしている、ならその対極は、同じ道でないとぶつかりあえない。
そしてその先に立っていたのは、ヴァイスはプリシラで、アレンはニールでした。
それだけは決してブレないように終わらせたかったのです。
凄く、凄く長いお話でした。
web小説ではありえないほどの。
ですが読者様に支えられ、ここまで書き切る事ができました。
もちろん、まだノブレスは続きます。
次からほんわかしたお話をいっぱい書きたいです。
早く真面目なことしろよーぐらいたっぷり皆に遊んでもらう予定です。
最後まで見て下さりありがとうございました!!!
完結ではないですからね!?
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