322 師弟

 私は、自分を最強だと思ったことはない。

 過去に何度も苦戦したことはあるし、大勢の強敵と戦ってきた。


 それでも自負はある。誰にも負けない力をつけ、驕ることなく研鑽を続けてきたと。


 S級冒険者としての誇りとプライド、騎士団長として多くの戦場を乗り越えてきた。


 ダリウスも同じ気持ちだろう。ここにいるクロエも、ココも。


 生徒を育てるのは、存外に楽しかった。

 

 ――ノヴェル、お前の夢を叶えている気持ちにもなれたからだ。


 その中でも特別な存在がいる。


 ヴァイス、ファンセント。


 出会った当初から光るものはあった。

 正しい努力を出来る奴はそういないからだ。


 それでも限界はある。経験を積むことが、強くなることに大事なことだ。


 私も師匠としても壁であり続けたいと、日々の研鑽を欠かさなかった。


 だが一方で惜しいとも感じていた。

 魔力量は日々の訓練、年月でしか増えない。


 私はそれを口酸っぱく教えていた。

 ヴァイスが成熟する頃には、私はきっと衰えてしまっていると考えていた。


 だが、今は驚きを隠せない。


 なぜヴァイスはこんなにも――強くなっているのか。


「マリス!」

「はっ!」


 使役していた悪魔を完全体に戻すどころか、更に力を分け与えている。

 ダリウスの大剣は肉を切り裂くどころか骨をも砕く。クロエの鞭はありえない動きをするので防御するのは難しい。

 ココの防御は全てを防ぐ。


 しかし、ヴァイスはそのすべてを凌駕していた。


「クッ、ヴァイスお前、強すぎんだろうが!」


 ダリウスが悪態をつくのも無理はない。全ての攻撃を回避されて、的確に攻撃を与えられ続けているのだ。

 後ろのココが防御に徹していなければ、既にダメージを負わされている。


 それも全て、癒しの加護と破壊の衝動で得た力を、身体に強化しているからなせる業だ。


 この技を初めて披露したときの事はよく覚えている。とんでもない魔法だった。

 敵が強ければ強いほど自分も強くなる。


 そうか、あの時点でわかっていたのか。


 自分より強い相手に勝つ為に何が必要か。


「ヴァイス、お前には驚かされてばかりだよ」


 私の本気の攻撃を、ヴァイスはことごとく回避する。

 ダリウスやクロエの攻撃にも注意を怠ることなく。


 もちろんそれだけじゃない。マリスという女、こいつはまるで魔族だ。

 特殊な動に反応速度、既にノブレス学園の学生のレベルを超えている。


 気づけば私は笑っていた。


 まだヴァイス教える事は山ほどある。

 

 まだ足りない部分もたくさんある。


 だが笑わずにはいられない。


 お前は私を超えた。

 戦闘力の事を言っているんじゃない。


 想像を超えたのだ。


 ああやっぱり、私はお前の事が好きだ。


 だがヴァイス、それでも私はまだお前の師なのだ。


 訓練の私は知っているだろう。


 だがここから、本当の私を――教えてやる。



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