幕間、守りたいあなたを

「――ココちゃーん」


 こつん、と窓が音を立てた。

 いつもの日曜日の朝。本を読んでいた私は「また来たんだ」と嬉しいのか困っているのか、自分でもわからない感情のまま呟いた。


「ねえ、ココちゃんってばー――」


 こつん、こつん、窓が絶対に割れない大きさの小石が、二階建ての、私の部屋の窓を叩く。

 ベッドから降りると、少しだけ深呼吸して、窓を開けた。


 ただそのタイミングで小石が飛んできて、額にぺちっと当たる。

 痛い、と声が籠れ出たが、痛くはない。


「あ、ご、ごめん!?」


 申し訳なさそうに驚いたのは、数か月前に隣に引っ越してきたアンナちゃんだ。

 私はブラウンで茶色がかっているが、彼女は黒髪で、西のほうから来たという。


 目も黒くておしゃれで、何よりも明るいところが素敵、だとは思っている。


「大丈夫」


 そっけなく返すと、アンナちゃんは屈託のない笑み返してくれた。


「ねえ、あそぼー!」


 するとアンナちゃんは、いつもみたいに大きく叫んだ


 私は昔から心臓が弱い。幸い貴族に生まれたおかげで、週に三回の治癒魔法を受けることができるが、それがなければ既に死んでいたらしい。


 心臓から血液を送り出す力が、著しく低いとか。


 だから激しい運動ができない。学校に通っているけれど、半分以上は不登校で家の中で過ごしている。

 望んでいるわけではなく、酷く疲れてしまうからだ。


 でも、アンナちゃんはそれを知っているはずなのにいつもこうやって遊びに誘ってくる。


「遊べないよ」

「わかったー!」


 このやり取りは、もう何十回もしている。

 いい加減、諦めてくれないかな。


 元気よく走り去るアンナちゃんの背中が見えなくなってから、私は窓を閉める。

 ベッドに座り込んで、読みかけの本を開いた。


『勇者御一行の冒険談』


 英傑と呼ばれた騎士や魔法使いが、多くの敵を倒して人々を助けていく実話をベースにした物語だ。

 私はこれが大好きで、何度も何度も読み返している。


 その中でも、魔法使いが好きだった。

 多く魔物を一斉に倒し、仲間を守る、そんな姿に憧れていた。


 けれども、私は一生縁のないお話だ。


 冒険どころか、走ることすら許されない身体。


 ダメだ、また落ち込んでしまう。


 そんなとき、なぜかいつもアンナちゃんを思い浮かべる。

 彼女は走るのが早い。学園でいつも一等賞、魔法も得意なのだ。


 私と、違って。


「いいな……」


 本を閉じると、ベッドに横になって、アンナちゃんの背中を思い浮かべた。

 綺麗なフォームで、一瞬で消え去っていく。


 ああ、本当に羨ましい。



「起立、礼、着席」


 13歳になったころ、私は少しだけ心臓が強くなっていた。

 といっても、学校を休まないで登校できる頻度が増えたくらいで、運動はできない。


 反対にひどくなっているのもあった。

 外でしっかりと太陽を浴びていいのは、一時間にも満たない。


 この頃から、多くの同級生が魔法を習得しはじめている。

 私は魔力量が少ないわけじゃないけれど、負担がかかるのでほとんど使ったことがない。


 もちろん、たまに家で動かしたりして遊んだりはする。


 発動はダメだと、強く言われていたが、何度か黙ってしたことがあった。


 それも爽快で、嬉しくて何度か魔法を放った。

 

 ただまあ、七日間も寝込んだけれど。


「ココ、また魔法の授業休んだらしいよ」

「へえ、あの子、何もできないよね」

「いいよね、先生公認でサボれるだなんて」

「名前が******っていうのにね」


 ……直接虐められることにはないけれど、陰口を言われるようになっていた。

 それもそのはず、この魔法主義の世界で、私は何もできないからだ。

 このときから、自分の名前が嫌いになった。魔法に関係しているから、余計にバカにされる。

 でもそんなとき、いつも彼女が寄り添ってくれる。


「ねえココ、この魔術方程式教えてもらえない?」

「いいけど、できるんじゃないの?」

「えへへ、いいじゃんいいじゃん。ココから教えてもらったほうが綺麗な魔法になるんだよ」

「まあ、いいけど」


 同じ貴族学園に入学したアンナは、私を守るように前に立ってくれる。

 その優しさが、嬉しかった。


 私は、家に籠って暇していたおかげで座学は優秀なのだ。

 魔法は丁寧にすればするほど良い。そして私は、それが得意だ。


 それが小さな自慢。



「ココはほんと凄いよねえ」

「どうして……そう思うの? 私は運動もできないし、笑顔も苦手だし、魔法もできないよ」

「強いからだよ」

「……強い?」

「うん。ココは強い。だって、自分を持ってるもの。私は、ココといると楽しいよ。話してて笑顔になるよ。それに、頭もいいし!」


 アンナと私が初めて出会ったのは、地元の小さな舞踏会だった。

 運動はできずとも顔を出さないといけなかった私は、椅子に座ってポツンとみんなが躍るのを眺めていた。

 それを不思議に思ったアンナが声をかけてきたのだ。

 

 そして私の心臓を知って、「だったら、私が代わりに踊るね」といって、目の前で踊ってくれた。

 その後、私は大好きな冒険談を聞かせてあげた。


「へえ、すごい! それで?」

「それでね――」


 魔法は使えない。使えないからこそ、私は術式にも詳しかった。

 色々と教えると、アンナは大変喜んでくれた。


 でも、それだけだった。

 間が空いて人見知りが発動した私にも、根気強く話しかけ続けてくれた。


「ありがとうね。私もアンナみたいに笑顔が上手になりたいな」

「ふふふ、それまで私が代わりに笑ってあげるよ」


 それから数年後、アンナは魔法の学生大会に出場し、見事に優勝を飾った。

 残念ながら、私はその場に居合わせることはできなかった。


 人が多くて多くて、心臓の鼓動が早くなって、紫外線がつらくて、何も言わずに家に帰った。

 

 涙が止まらなかった。

 彼女はあんなにも私に寄り添ってくれているのに、私は何もできていない。


 そのとき、窓がこつんと音を立てた。


「トロフィー、もってきた! ねえ、ココみて!」

「……凄いねえ」


 彼女みたいになりたい。いや、違う。

 私は隣にいたいんだ。アンナの隣に。


 その日から私は変わろうと決意した。


「……魔法は想像だ。私は、今までの自分を否定する。そして、世界も」


 治癒魔法は、受けたダメージを修復、元に戻す。

 それが基本だ。


 だけど、私は幼い頃から考えていた。

 もし心臓が強く動いていたら、どんなに良かったのか。


 アンナの隣で走れたら、どんなに良かったのか。


「……やって見せる。私は」


 その日から、私の命を懸けた特訓がはじまった。

 心臓を動かすには、魔力の流れを完全に理解する必要がある。


 それは逆に、魔力を停止させなきゃいけない必要もあった。


「5.4.3.2.1.……しびれてきた」


 血液と魔力は相互作用がある。

 それが止まると、動かなくなり、やがて壊死してしまう。


 生死を超えた研究の末、私は自動で心臓を強く鼓動させる魔法を身に着けた。


「ねえ、アンナみてて」

「え? 凄い凄い凄い!」


 私は、アンナの前で魔力を漲らせた。

 そしてそれを、天に向かって放つ。


 心臓が強く鼓動する。大丈夫。私はやられる。


「大丈夫なの!?」

「うん、これからもっと頑張るよ。だから、見ててほしいな」

「えへへ、もう、ココはやっぱりすごいよ!」


 15歳になったアンナは、魔物を退治する冒険者になるという夢を語ってくれた。

 きっかけは、私。


「私は旅に出る。世界を見たいんだよね」


 そして私も、その傍にいたいと願っていた。


 16歳、私は、なんと魔術大会の決勝で、アンナと対面していた。


「ココ、その防御どうやって壊すの?」

「さあ、どうしたらいいと思う?」


 アンナは強い。私は彼女を守れたらいい。

 あなたが矛なら、私は盾だ。


 二人で一つ。私たちは。


「……負けちゃった。ココ、強すぎ」

「え、ええと……ごめんね?」

「でも、嬉しい。ココのシールドは、いつか私が破壊する!」

「ふふふ、楽しみにしてるね」


 紫外線を弾き返す魔法。心臓を強く鼓動させる魔法。身体能力を強化させる魔法。

 呼吸を整える魔法。


 アンナを守る――防御魔法。


 そして私たちは冒険者となった。

 もちろん親には内緒で家出した。


 何もかも捨てて、1から世界へ。

 身体はまだやっぱり悪くて、私の活動時間は短かったけれど、アンナは一度も文句を言わなかった。


「ココ、みてこれ」

「何それ……吸うの?」


 旅の途中の小さな村で、アンナは謎のパイプを買っていた。

 魔力が整うらしいけれど、本当かな?


 吸うと、確かに少しだけ落ち着く気がした。

 でも多分気のせい。


「いい! これいい! 強くなりそう!」

「それ絶対気のせいだよ。ふふふ」


 でも、そんなアンナを見ているのが楽しかった。



 赤道近くの熱帯雨林では、アンナは私をおぶってくれた。


 数多くの魔物と戦い、人と戦い、助け、助けられ、感謝し、感謝され、私たちは身も心も成長していった。


 だけどある日、私の心臓は突然に限界を迎えたらしい。

 

 魔法を酷使しすぎたのか、突然に身体から力を失う。


 そしてそれは、最悪の時に訪れていた。


「アンナ、逃げて……」

「――大丈夫。任せて」


 とびきりの笑顔を残して、魔物の群れと戦ったアンナは、最後の一匹を倒してから気絶した。


 実家に戻った私たちは、二年間の冒険に終止符を打った。


 沢山の思い出を代償に、アンナは目を覚まさなくなってしまった。

 医者曰く、魔力を酷使すぎたのと、頭部のダメージが凄くて、もう二度と意識が戻ることはないと。


「……ごめんね、ごめんね」


 涙を流しながらも、私の決意は固まっていた。


 絶対にあきらめない。

 私は、彼女の身体を治してみせる。



 それからありとあらゆる術式を世界中から取り寄せた。

 幸い冒険者で貯めたお金が残っている。

 ごめんねアンナ、二人で貯金してたのに、許してね。


 半年が過ぎ、一年が過ぎ、私の研究は順調にいっていた。


 魔物から取り出した魔核を、錬金術に頼んで作ってもらった装置。

 それを使って、アンナの魔力の流れを循環させている。

 理論上、数か月後に彼女はきっと目を覚ますはずだ。


 静かに眠るアンナの頬に触れる。


「待っててね。今度は私が、あなたを守る番だよ」


 だけどそのとき、外が騒がしかった。

 北門から、煙が出ている。

 

 外に出ると、街が燃えていた。


「戦争だ! 隣の国がせめてきたらしいぞ!」

「で、でもどうしてこの街に!?」

「ここを通ったほうが早いからだろ。多分、補給地点にするつもりだ。クソ、逃げないと」


 近隣諸国で戦争が勃発したらしく、その兵士が流れ込んできていたのだ。

 大勢が逃げ惑う。兵士はいたが、多くが殺されたらしい。


 幸い私の家族は王都に仕事で出ていた。

 そして、アンナの家族も。


 私は、ずっと動けなかった。

 そのとき、逃げ遅れた子供が、殺されそうになっていた。


「死ね、ガキが!」


 私は、アンナを思い出した。

 彼女なら、彼女ならきっと――。


防御シールド

「――な、なんだこれは!?」


 私はなんとか斥侯兵士を追い返したが、それはただの始まりだった。

 戦争の前線認定。つまり、危険地域と判定されたのだ。

 大勢が王都まで離れていくことなった。


「ココ、なんで……王都にいかないと……」

「私はここに残る。アンナは動かせないから」


 アンナの治癒は順調だ。でも、移動してしまうと急変してしまう可能性は高い。


 王都から兵士が来るまで約二週間。


 敵は1000人以上いるらしい。

 兵士はいない。私、たった一人。


 相手には魔法使いも騎士もいるだろう。多分、私より大人で、成熟した兵士が。


 驚くほど不利で笑える。でも、不思議と怖くはない。


 ――アンナは私が守る。


 彼女は、私をずっと守ってくれた。だから、今度は私の番。


 そのとき、とてつもないほどの魔力砲が降り注いできた。

 私は、空に手を翳して、丁寧に術式を描く。


 優しく、優しく、アンナの笑顔のように。


「――全方位防御フルシールド

 

 空に、大きくて透明なバリアが展開された。

 魔力砲が激突する。けれども、そのすべてが弾かれて離散した。


 今のは威嚇だろう。ここからが本番だ。


 何人でもかかって来い。


 誰にも、アンナの事は傷つけさせない。


 ――――

 ――

 ―


「……君が……ココか?」

「はい」

「ははっ、まさか本当に女性だとはな」


 二週間後、王都から兵士がやってきて、私の役目は終わった。


「すげえ、マジで街が何一つ壊れてないぜ」

「嘘だろ。マジだったんだ。守護天使の噂は」

「……すげえな。そりゃ敵も諦めて迂回するわな」


 眠る事は許されなかった。魔力の流れを身体に流し続けて、睡眠と同じ補給を常に行う。

 食事を取る暇もなかった。


 おそらく5キロは痩せたかも。


 でも、頑張った。


 ……いや、これからだ。


「あなたが騎士団長でしょうか」

「そうだ。それより、ココ、君は早く医療チームに――」

「前線を押し上げる為に、私を雇ってください。冒険者の資格はあります」

「なん……だと? どういう意味だ?」


 敵国はまだまだ押し寄せて来るだろう。

 安心はできない。もっと、もっと相手を離れさせる必要がある。


 その為に私が前に出ればいい。戦うのではなく、押し上げればいい。


 全部、私が止めてやる。




「こ、攻撃が通らねえ」

「あれが――守護天使ガルディエーヌのココか」

「何で白衣を着てるんだ? 医者なのか?」

「威嚇らしいぜ。今だ誰一人として、汚れもつけれないってな」


 私は軍と共に前線を押し上げていった。

 いつしか二つ名がついていた。


 守護だなんて、笑える。


 私は、アンナを守りたいだけだ。


 

 敵国が降伏した数か月後、ついにアンナは目を覚ました。


「……ココ? え、なんで家?」

「アンナ、アンナ!!!」


 泣きながら強く抱きしめる。説明しないといけないのに、涙があふれてしまう。

 アンナは、まるで私が目を覚ましたかのように、微笑んで声をかけ続けてくれた。


「大丈夫。大丈夫だよ」


 数か月後、アンナは動けるようになっていた。しかし身体を動かすことで精一杯で、魔法はまだ使えなかった。

 いや、もしかしたら今後使えない可能性がある。


「ごめんね」

「ううん、ココのおかげだよ。目をつぶれば、私には素敵な思い出がある。だから、謝らないで」

「……ありがとう」


 しかしその数か月後、アンナは亡くなった。

 病死ではなく、事故だった。


 死んだと思っていた魔物が解体所から飛び出し、子供が襲われそうになったところを、アンナが身体を張って助けたらしい。


 彼女は生きたまま食べられたときいた。

 その悲痛な叫び声を聞いた人々は、今までにないほどの恐怖を感じたという。


「……アンナ、ごめんなさい」


 墓の前で、私は何度も謝った。

 私がアンナを助けなければ、こんな最後にはならなかった。


 冒険談を聞かせなければ。私が足を引っぱらなければ、こんなことにならなかった。


 すべて私のせいだ。


 毎日、毎日、毎日、毎日、墓の前で泣いて、謝罪して、私は、自身の自動魔法を停止させた。


 心臓が痛い。紫外線が痛い。呼吸が早くなる。思いのほか、私の身体は自活できないほどの状態だったらしい。


 でもアンナはもっとつらかったはずだ。

 その少しを味わえて死ねるなら、本望だ。


 そしてそのとき、雨が降ってきた。


 大雨だ。


「……アンナ」


 なぜか、アンナが泣いているように思えた。


 私は……自動魔法を発動させた。

 心臓が強く鼓動し、呼吸が戻っていく。


 これではただの逃げだ。


 アンナは旅の途中で大勢の人を助けていた。

 最後に子供も助けた。


 私の能力を、もっと生かすべきだ。


 逃げるな。戦え。


 大勢を――守れ。


   ◇


「ノブレス魔法学園、防衛魔術教員のお願い、か」


 それから数年後、私は防御魔術に関する論文や方程式を、各国に伝えていた。

 国同士の防御が強ければ無駄な戦争は起こらない。それがわかったからだ。


 そんな中、一通の手紙が届いた。

 

 厄災が起きたことは知っている。

 大勢が死んだのかと思ったが、死人はいなかったという。


 誰が一体守ったのか。それが、知りたかった。


「ココだ。下の名前は秘密でよろしく」


 生徒たちは優秀な粒ぞろいだった。

 彼らを鍛えれば、その結果多くの人が助かるだろう。


 そんなか、一人の生徒の防御魔術に、私の心臓が震えた。


 ――ヴァイス・ファンセント。


 名前はもちろん知っていた。

 鬼才、悪才、天才、悪童。


 様々な噂があった。でも、それよりも不可侵領域バリアに目を奪われた。


 従来の原理を無視した魔術方程式。

 誰もが使えるようになれば、多くの人が不意に命を落とすことがなくなる。


 他人に付与ができれば、、アンナも生きていたに違いない。

 

「ねえヴァイス君、その魔法、私に見せてくれない?」

「わかりました。――その代わり、俺にも防御を教えてください」

「ふふふ、もちろんいいよ」


 初めはただの強くなりたいガキんちょだと思っていた。

 だけど、それは間違いだと、すぐにわかった。


「……勝ちたいんですよ。俺は」


 言葉は嘘だ。彼は、守りたいんだ。


 私と同じだと気づいた。


 彼は何か守れなかったこと、守りたい何かがある。

 だから強くなりなりたい。だから、誰よりも防御シールドを欲している。


 何かあってからでは遅いと、既に知っている。


 ふふふ、そうか。君は……私と同じなんだな。


「術式はもっと丁寧にしなきゃダメ。攻撃と違って、女性に触れるようにね。おや、顔が赤いねえ?」

「赤くないですよ」


 こういうところは、まだまだ子供だ。


 そして私は、彼の不可侵領域バリアの術式を解き明かそうとしている。

 まだまだ時間はかかるだろう。

 でも、きっといつか誰もが使える魔法になるはずだ。


 子供も、大人も。魔物に襲われないように。


「ココ先生」

「どうしたヴァイス君」

「この前は、本当にありがとうございました」


 厄災が来るかもしれないと、セシルさんから話を聞いていた。

 荒唐無稽な話だった。でも、ヴァイス君がいるなら本当かなって、街で待機していた。


 遥か上空から放たれる魔力砲。


 私は、空を見上げながら彼女の事を考えていた。


「――アンナ、あなたのおかげだよ」


 彼女がいなければここまでの高みに到達することはできなかった。

 彼女がいなければ大勢の人が死んでいた。


 彼女がいなければ、私は存在してなかった。


 そして、ヴァイス君のおかげで、いつかきっと世界中でもっと多くの人が救われる。


「気にしないで。こちらこそ」

「こちらこそ?」

「ふふふ、少年には関係のない話だ。またいつでも呼んで。大人にはいくらでも甘えたらいいよ」

「……はい」


 私はたまに、屋上から生徒の訓練を眺める。

 心臓なんて気にしない子供たち、大勢がたっぷり身体を動かして、魔法を放っていた。


 アンナ、あなたみたいにまっすぐな子がたくさんいるよ。


 空から見ててね。


 私はいずれ、世界中の人を守れるような魔法を編み出すから。



 そして、あなたみたいな立派な人間になるよ。

 

 ────────────────


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