218 悪

 第八章、開幕です!!!

 ――――――――――――――――

 ノブレス・オブリージュの主人公はアレンだ。

 

 故郷と家族を失い、平民から成り上がっていく王道かつ誰もが憧れる物語ストーリーの中心人物。


 絶対に不可能とされている貴族学園に入学、そこで出会う様々な仲間――敵。


 それに対してヴァイス・ファンセント。


 原作では非常にずる賢い悪党だ。

 ことある事にアレンの邪魔をし、卑怯な手でポイントを奪う。


 きっかけは入学テストの決闘戦での敗北。


 分かりやすく言えば、アレンにやられた腹いせだ。

 最後はみすぼらしくやられた後、魔王に殺される。


 物語の悪としては到底釣り合っていない。

 ヴァイスは小悪党で、アレンの対としては弱すぎる。


 魔王はあくまでも天災、魔族は文字通り別次元の存在だ。


 ノブレスには圧倒的な悪が存在する。


 卑怯で、狡猾で、強く、賢く、そしてクズが。


 そいつはアレンと真正面から衝突する。


 圧倒的な壁として立ちふさがるのだ。

 それが、原作の面白さを底上げしていたと言っても過言ではない。


 いつかこいつを倒したい、殺したい、無様な姿が見たい。


 プレイしながら誰もが思っていたことだろう。


 だがそう簡単にいかないのがノブレスだ。

 無限に枝分かれするエピソードを誇るエピソードで蹂躙できない道は山ほどある。


 苦汁をなめに舐め続ける。それがノブレスでの基本だ。


 そしてその”男”の名前は――。


    ◇


「なんでそんな事をするんだ!」


 ノブレスの中庭、久しぶりの登校日にもかかわらず叫び声が聞こえた。

 聞きなれた声、正義感丸出しのバカだ。


「ヴァイス」

「ああ、アレンだな」

「なんでしょうか。一年生が多いですね」


 俺の隣にはシンティアとリリス。

 相変わらず美しさに磨きがかかっている。

 ノブレスの学生服はふとももが目立つので、思わず触れたくなる。


 シンティアに四竜のことを話したときはとにかく大変だった。

 怒られるかと思ったが、流石に苦労したことをわかってくれたらしい。


 とはいえ、再三の注意はされたが。


 医療魔法は順調とのことだ。

 自信ありげに「ようやく肩に並べたかもしれません」と言っていた。

 彼女がそこまでの言葉を口にするのは初めてだったので、今は楽しみでもある。


 声の方向に歩く。

 人混みをかき分ける必要はなく、俺の姿に気づき、大勢が離れていった。


 そしてその中心には、非常に腹正しい奴らが並んでいた。


「君は誰もが等しく平等であるべきだと思っているのか?」

「当たり前だ!!!」


 アレンがぶち切れている。シャリーとデュークの姿はない。ここにいたら余計に面倒なことになっていただろう。

 そして俺はようやく来たかと心の中で呟いた。


 金髪で高身長で一見爽やかなに見える男。


 エヴァ・エイブリーは最強だが、こいつは最凶といっても過言ではない。


 それほど異質な存在だ。


 原作よりも随分と遅いご登場だが、そんなものはどうでもいい。


 そしてその隣、首に奴隷紋を付けた女、プリシラ


 ――ニール。


 こいつが、このノブレスでの象徴的な悪だ。


「人と奴隷を分けるのは当然のことだ。それより、先輩にその口の利き方は何だ?」


 ハッ、おもしろくなってきたじゃねえか。





 

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