御祭-10

 燐は三年生の教室がある2階へと移動し、成美が教えてくれた不審な生徒を探し始めるのだが、三年生はほぼ片づけを完了させており残っている生徒は少なかった。

 参ったな。そう思いながら燐は、三年生の教室を覗いて件の生徒が居ないか確認する。

 三年生のクラスを確認し終え肩を落とした燐は、2階のフロアを出て行こうとしたとき、「ねぇ、君」と声をかけられた。

 振り返ると、男子生徒がニヤニヤした顔で燐を見ていた。

 大方、告白しにきた女子生徒と勘違いしたのだろう。そう思いながら燐は「はい」と返事だけする。

「誰かに告白しに来たの?」

「あ、そんな所ですぅ〜」

「え、誰? 誰?」

「えっとぉ〜 名前は分からないんですけど。首にほくろが」

「首にほくろ? 知っている奴にいたかなぁ〜」

 一生懸命に考えている男子生徒に心の中で使えない奴だなよと思う燐。

「ごめん。分かんないや。なんで、名前も知らない奴に告白すんの? 普通、名前調べない?」

「私、痴漢されている時に助けて頂いて名前をお聞きしたんですけど。教えてくれなくて」

「あ、そうなんだ。君、痴漢されたんだ」

 そう言う男子生徒はいやらしい目で燐のお尻に視線を向ける。

 その瞬間、燐は男子生徒を蹴り上げる。

 一瞬の合間に気を失い男子生徒は崩れ落ちる。

「ったく、ゴミが!!」

 そんな燐を見つめる視線を感じ振り向くと、顔を真っ青にした長四郎が梁を壁にしてその光景を見ていた。

「何よ」

「何でもありませんっ!!」

 長四郎は首を横に振って、自身の身を守る素振りを見せる。

「あんた、ここで何してるの?」

「いえ、何も」

「手伝いなさいよ」

「は、はいっ!! 喜んで!!」

 長四郎は居酒屋の店員のような返事をする。

 燐から不審な生徒の話を聞いた長四郎は早速、職員室に移動しその生徒を探す為の行動を開始した。

「さぁ、ラモちゃんの出番だぜ」

「OK. 任せて」

 燐は職員室に入り、三年生を担当する先生達が居る席へと向かう。

 だが、目的の先生達は事件の対応に追われており、燐の目的が果たせる状況ではなかった。

「どうした? 羅猛」

 そう声をかけたのは生徒指導の浜屋であった。

「あ、先生でいいや」

「なんだ。その言い方は!?」

「あんたとここでやり合う気はないし、お願いがあるんだけど」

「お願いの前に。目上の人に物を頼む態度じゃないだろ?」

「はいはい。ごめんなさい。私が悪うござんした」

「お前なぁ!」

「ああ、すいません。私から注意しておきますから」

 ここで成美が二人の間に割って入った。

「生田先生。ちゃんと、指導してください」

「はいっ! すいません。言い聞かせておきますから」

「頼みましたよ」

 浜屋は成美にそう言って、掛かってきた電話を不機嫌そうに取る。

「先生。お願いがあるんだけど」

 成美が注意しようとする前に燐は話を切り出した。

 斯くして、成美の協力を得て教員が所有する生徒指導名簿を見せてもらえる事になった。

「これが、三年生の生徒指導名簿です」

 成美は分厚いファイルを会議室の机に置いた。

「お手数おかけし、申し訳ありません」

 長四郎は成美に頭を下げる。

「いえ、事件解決の為ですから」

「では、拝見します」

 長四郎はファイルを開き、物凄いスピードでページを読み進めていく。

「凄い・・・・・・・」

 感心しながら長四郎の作業を見つめる成美に対して、燐は若くて綺麗な先生の前でカッコつけやがってと思う。

「この子だな」

 長四郎は成美が怪しいと睨んだ生徒を見つけ出した。

国巳くにみ 豹牙ひょうが

「ねぇ、なんでこの人が先生の言う生徒だって言えんの?」

「ラモちゃん。趣味の欄、見てみ」

 長四郎にそう言われて燐と成美は、趣味・特技の欄に視線を移す。

「趣味・特技 プログラミング。あ、そういうことか!」

 燐は長四郎の言う意味に気づき納得するのに対して成美は意味が分からず顔をしかめその理由を考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る